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Over the Loss  作者: 錆井
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第二十話(最終話) それから

 第二十話(最終話) 『それから』


 広い遊戯室で、一人の女性が人形劇をしている。彼女は糸を繰り、器用に人形を動かした。笑う子供もいる。泣く子供もいる。恐怖におびえる子もいる。でも、みんな最後には――眠ってしまう。だって、それはみんなにとって当たり前の結末だから。


「そうして、正義の味方は勝利しました。光の力が、闇を払ったのです。

 しかし、悪の組織は、最後にとんでもない呪いをかけたのです。

 それは――心が弱くなる呪い。

 それ以来、私たち人間は、弱くなってしまった心を補うように、助け合って生きるようになったのでした。」


 多くの花が生けられた大きな墓の前で、手を合わせ、バンショウは立ち上がった。墓にはハオウ=ストラグルと刻まれている。


「兄さん、来てたのか。」


「ああ、花は、今話題の役者さん方が供えた奴だけどな。」


 コオリも持ってきていた花を、横の少し小さな墓に供えようとして、やめた。小野々と刻まれたその墓には、一輪の百合が供えられていた。


 コオリが手を合わせるのを待って、二人は墓を後にする。


「そういや、ハオウの葬式以来じゃないか? 何してるんだ、最近」


「事務仕事ばかりだよ。調評院は解体されて、行政に格下げだ。私ももう隠居したいのだが、後任がいなくてね。」


「なんだ、息子には継がせないのか」


「セチには好きなように生きてほしい。もう私たちの一族も、力に縛られることがない。」


「あいつはまだ使えるんだろ?」


「ああ、毎日飛び回っているよ。文字通りね。」


「いいねぇ、若いってのは。」


「そうだな。」


 二人はどこか懐かしむように笑った。


**********


「「それじゃあ、行ってきます」」


「ああ、迷惑かけないようにな」


「「わかってますよ~だ!」」


 舌をべーっと出して、シャシャとチャチャが家を出た。アングラで子供向けに開かれている学校は、少し通学に時間がかかるため、二人は少し朝が早い。


「あいつらも、ずいぶんと成長したもんだな」


 他の子どもたちの朝食を皿に盛りつけながら、アンが言った。


「そうですね……」


 僕も朝食のスムージーを左手で飲みながら苦笑いする。


 ――あれから、もう五年がたつ。


 戦いの後も、案外世界は変わらなくて、いつも通りの暮らしを、片手ですることにはなった。


 そういえば、ユリシアはあちこちから取材やインタビュー、講演の話を受けて働きづめらしい。


 アングラにいると、日にちの感覚もあいまいになるなぁ。とぼんやり高台で考える。今日もアングラは平和だ。


「あれ、マヒロ?」


 公園の向こうから、聞き覚えのある声に話しかけられる。


「ユリシア?」


 きちんとアイロンのかけられたスーツを着た彼女は、どこか五年前とは違った印象を受けた。ずっと自信がついたような。


「ちょうどよかった。今から、コアロンに行こうとしていたところで。」


「コアロンに?」


「ええ。実はオングラで、テレビが家庭用に改良されて、全家族に普及するくらいまで広まったの。」


「テレビって、あの、電気屋にあったでっかい?」


「そう! コアロンにも、お裾分けってね。セチと待ち合わせしてたんだけど、先に行っちゃったみたい。……あ、そうだ!」


「何?」


 ユリシアは思い出したように指を立てると、誇らしげな顔で続けた。


「実は、私テレビに出ることになったの。」


「テレビにって、昔も出てたじゃないか」


「それとこれとは別だって! もっと多くの人が観るものだし……」


「それで、どんな風に出るの?」


「調評院――あ、元だけどね――に頼まれて、やっぱりヒーローは必要なんじゃないかって話になって、じゃあテレビでしましょうって……」


「それで、主役に?」


「そう! 名前も売れてるし、ちょうどいいだろうって……言ってみたものの恥ずかしいな。丸瀬さんが脚本を書いてくれているから、変な作品にはなってないはずだから、よかったら観てみて。」


「わかった。」


「私はコアロンに行くけど、マヒロは?」


「僕はもう少しここにいるよ。」


「そう。それじゃ。」


「うん。」


 ユリシアは背筋の伸びた良い姿勢で、コアロンへの道を歩いて行った。


**********


「あ、セチ!」


 コアロンのちょうど目の前で、ユリシアはセチを見つける。


「もう、意外と重たいんだからこれ。疲れちゃったよ」


「だから、直輸のサービス使えって言ったのに」


「輸送のシールがあったら、天使の夢がないだろう?」


「変なところ強情だよね」


「へへ、天使だからね」


 二人は談笑しながら、コアロンのベルを鳴らす。


「「「「天使だぁーーー!!!!」」」」


 子供たちはセチの羽と輪を見て、喜んで彼と遊び始める。


「しかし、良いのか? 家庭用とはいえ、まだ高いだろうに。」


 アンが申し訳なさそうに言うと、ユリシアは屈託のない笑みで頭を下げた。


「いえいえ、何かとお世話になったお礼です」


「そうか。すまないな、みんなが喜ぶよ。」


「はい。」


 ユリシアはそう言って、セチと子供たちの輪に入っていった。たくさん人形の増えた遊戯室は、笑いも多い。


 夕方、子供たちは家に帰るとみんな、テレビの前に座る。そこではみんなのヒーローが、今日も悪をやっつける。


 子供たちは知らない。昔、そんな戦いが本当にあったことを。味方が殺された悪の悲しみを。


 だけども、彼らは笑っている。ヒーローを見て、笑顔になっている。


 それなら、よかったのかもしれない。


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