第十四話 決戦前夜
第十四話 『決戦前夜』
「正義パーンチ!!」
僕は叫びながら、飛んできた炎弾を、赤熱をまとった拳で弾く。辺りはすっかりと暗いが、炎弾は煌々と光る。
「う~ん、いまいちね。やっぱり正義ナックルの方が良かったわ」
「こんなこと、本当に意味があるんですか?」
「あ、あるわよ!! ……いい? ハオウを倒すには、正面から打ち砕くしかないわ。だから、あんたはもっと気持ちを高めないと! それが一番早く強くなる方法だもの!」
「それで、名前ですか」
「そう、名前があった方が気持ちが入るでしょ? だからか、ハオウはあんまりつけたがらないけど」
「強くなるのに、ですか?」
「誰にでも出来たら困るもの。彼の真似をして、子供が同じように技を使えたら、彼の特別性がなくなっちゃうじゃない?でも、逆に言えば、名前を付けるって言うのはそれだけ強力ってことよ」
マヒロは手から漏れ出る炎を見て、グッとそのまま握りしめた。
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アングラの大通りを見渡せる公園。その展望スペースの柵にユリシアは肘をつき、夜になっても活気の衰えない大通りをぼんやりと眺めていた。
通りがかった天使が、そっと後ろから優しく声をかける。
「お嬢さん、夜は危ないですよ?」
「大丈夫です、騎士なので……」
ユリシアはそう言いながら、腕に顔をうずめた。
「でも、騎士は妖精に騙されてしまうかもしれません」
「妖精さん……?」
ユリシアは顔を上げると、そこに光の羽を生やした天使がいるのを視認した。
「うえええええっ!? 天使!?」
驚いた拍子に、ユリシアは尻もちをつく。
「あはは、大丈夫ですか? そうです、天使です」
ユリシアは驚きに言葉を失い、口をぽかんと開けて天使の手を取った。
「手……あったかい」
「ボクはセチ。あなたは?」
「ユ、ユリシア=ルーベルベルベル……です!」
「騎士にふさわしい、いい名前ですね」
「は、はい!」
ユリシアは感激し、涙を流さんばかりである。騎士を夢見る少女は、その羽が能力によって生み出されたものだと考えるほど現実主義ではない。
「あ、あの。なんで私に声を?」
「……悩みが、見えたので。お節介でしたか?」
「い、いえ! そんな! ……私、今とても幸せなんです。応援してくれている人がいて、為すべき目標もあって。でも、同時に、本当に私なんかが幸せになっていいのかって思うんです。きっと、私の正義が多くの人を傷つけてしまう。それが分かっていて、私は自分を貫かないといけない。それって、正しいことなのでしょうか?」
セチは優しく笑って答えた。
「……ボクは、天使です。ですが、毎日小さなことに傷ついて、腹を立てています。生きていれば、みんなそうして毎日を過ごしていくのです。あなたの道は誰かを傷つけるかもしれない。ですが、同時に、それは誰かを助ける道でもある。あなたが幸せでなくて、どうしてその道を為せるでしょう。必ずしも、正しさが正解ではありません。選択が正解ではないことすらある。でも、だからこそ、あなた自身が正義を為すのです。それがあなたの正解になるのだから」
ユリシアは幼い子供のように両手を体の横で握ると、セチをしっかりと見て、改めて聞いた。
「私も、天使になれますか?」
セチは驚いたように目を見開いてから、また優しく微笑んで言った。
「ええ、もちろん。あなたの心に光がある限り」
そして、天使はアングラの街へと飛び立ち、正義の騎士はその様子を見送ってから、コアロンに戻った。




