第十話 光と影
第十話 『光と影』
「「痛っ!」」
ぼんやりとしていて、コアロンに帰還することを忘れていた。着地に失敗して地面に突っ伏した。横からユリシアも落下してきた。
「「「知らない人!不審者だ!!!」」」
子供たちがユリシアに群がった。
「え? ちょ、ちょっと、何するんですか! こらー!」
突然の見知らぬ場所に呆然としていたユリシアは、子供たちにぽかぽかと叩かれ、ようやく我に返り子供たちを追い回す。
すると、地面に竜巻のように渦を巻いて円が描かれ、円の下から知らない男性が現れた。
座ったままの僕も、子供たちに囲まれたユリシアも、子供たちも皆目を奪われる。
「「「キュー兄だ!!」」」
ユリシアに群がっていた子供たちが彼に集まっていく。彼はゆっくりと伏せていた目を開き、僕とユリシアを一瞥し、子供たちを撫でながら言った。
「少し、話がある。お前たちも、すまない。今日はこれで我慢してくれ」
彼の後ろに黒い塊がいくつか地面から湧き出したかと思うと、次の瞬間にはクマやウサギ、様々な人形に変わっていた。
「あなたは……?」
子供たちが歓喜の声を上げて人形のほうに向かいだすと、彼は目を伏せたまま、僕たちに背を向けて玄関のほうへと行ってしまった。慌てて追いかける。
追いついた先は、いつもの公園だった。町を見渡せる広場の隅に彼は立っていた。
「あの、あなたは……?」
「話って、ハチベイのことですか?」
遅れてきたユリシアが、声を張り上げて聞いた。
「……そうだ」
僕たちは続きを待つように固唾をのむ。
「まずは……すまなかった。あれが最善策だと判断し、処理した。」
彼は地面のどこを見るでもなく目線を動かしながら言った。
「処理って……どうして……どうして殺したんですか!」
ユリシアが叫ぶと、彼は悲しそうに語りだした。
「六年前、俺のバディも戦闘中に亡くなった。まだ、ハオウが前線に出動していたころだ。」
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「僕は優李花。よろしく!」
「……よろしく」
行く当てもなく、召集されたままにヒーローになり、割り当てられたままに悪陣営に入った。新人だった俺は、悪も正義も同じヒーローの仕事だと思っていたし、どちらかといえば悪でよかったと思っていた。
「ね、君の名前は?」
「……九鬼、暗」
「よろしく、アン!」
リッカは俺のバディで、俺とは正反対に底抜けに明るい奴だった。
俺が前線に出ると力が使えないことを知ると、自分からバディを提案してくれた。俺にとってはありがたい提案だった。
それから一年経たないくらいのことだ。あいつは、ハオウに殺された。
「それでは、これで終わりにしようか。」
「アン! 逃げて!」
俺は、助けられなかった。奴の突き刺すような殺気を、意識してしまった。力がすべて失われていくような心地だった。
あの時、俺の同期は五人いた。正義にいった奴らはハーヴィンを除いて、二人とも狂ってしまった。
ハオウは、正義陣営の新人の力を、薬物を使って強制的に増強させ、強力な力に耐えうる器を選別している。
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「でも、私はそんなこと……」
私は自分の胸に手を当て反論しようとする。
「奴は計画の成功のため、これまでよりも慎重になっている。これ以上の無駄なヒーローの戦死は、奴の計画自体に影響を及ぼす。だから、まだお前は観察対象だったのだろう」
自分はきっと、使えないとハオウから判断されていたのだと思い、また自分の弱さをかみしめる。私が弱かったせいで、ハチベイが死んでしまったんだ。
「どうしてハーヴィンは今も生きているんだ?」
マヒロが聞いた。
「あいつは力の暴走を抑え込んだ。だが、今も薬なしではまともに生きられなくなっている」
私は、給湯室で見た男を思い出した。やっぱり、あれはハー様だったんだ。理想の騎士像が崩れていくような気持ちになった。
「ハチベイはいつ自壊してもおかしくない状態だった。お前たちを守るためにも、ああするしかなかったんだ」
彼は悔いるように言った。
「彼がああなったのは、お前たちの責任ではない。ヒーローを道具としか見ていないハオウと、彼の変化に気づけなかった俺の責任だ。すまない」
彼はゆっくりと頭を下げた。
「違います! ハチベイが死んだのは、私が、私が弱かったから……」
彼の言葉を否定するように言ったが、だんだんと自分の脆さに耐えられなくなってくる。私は地面に泣き崩れた
ハチベイは、何を思って狂ったのだろう。何のために、強くなろうとしたのだろう。
「お前が悔いる必要はない。お前にできるのは、彼の分だけ強くなり、そして、その恨みを晴らすことだけだ」
「でも、私……」
彼は、そっと私に近づいて言った。
「お前は今日から、俺たち(悪)の仲間だ」
その声色は、どこか優しくて、私はなぜか、正義でなくなることを安堵していた。
いつのまにか彼はいなくなっていて、私はマヒロに「帰ろう」と言われて、ぼんやりとした気持ちのまま歩いてマヒロの後を追った。気丈そうにふるまう彼は、寂しさの隠し方を知っているようだった。




