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Over the Loss  作者: 錆井
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第十話 光と影

 第十話 『光と影』


「「痛っ!」」


 ぼんやりとしていて、コアロンに帰還することを忘れていた。着地に失敗して地面に突っ伏した。横からユリシアも落下してきた。


「「「知らない人!不審者だ!!!」」」


 子供たちがユリシアに群がった。


「え? ちょ、ちょっと、何するんですか! こらー!」


 突然の見知らぬ場所に呆然としていたユリシアは、子供たちにぽかぽかと叩かれ、ようやく我に返り子供たちを追い回す。


 すると、地面に竜巻のように渦を巻いて円が描かれ、円の下から知らない男性が現れた。


 座ったままの僕も、子供たちに囲まれたユリシアも、子供たちも皆目を奪われる。


「「「キ(・)ュ(・)ー(・)兄(・)だ!!」」」


 ユリシアに群がっていた子供たちが彼に集まっていく。彼はゆっくりと伏せていた目を開き、僕とユリシアを一瞥(いちべつ)し、子供たちを撫でながら言った。


「少し、話がある。お前たちも、すまない。今日はこれで我慢してくれ」


 彼の後ろに黒い塊がいくつか地面から湧き出したかと思うと、次の瞬間にはクマやウサギ、様々な人形に変わっていた。


「あなたは……?」


 子供たちが歓喜の声を上げて人形のほうに向かいだすと、彼は目を伏せたまま、僕たちに背を向けて玄関のほうへと行ってしまった。慌てて追いかける。


 追いついた先は、いつもの公園だった。町を見渡せる広場の隅に彼は立っていた。


「あの、あなたは……?」


「話って、ハチベイのことですか?」


 遅れてきたユリシアが、声を張り上げて聞いた。


「……そうだ」


 僕たちは続きを待つように固唾をのむ。


「まずは……すまなかった。あれが最善策だと判断し、処理した。」


 彼は地面のどこを見るでもなく目線を動かしながら言った。


「処理って……どうして……どうして殺したんですか!」


 ユリシアが叫ぶと、彼は悲しそうに語りだした。


「六年前、俺のバディも戦闘中に亡くなった。まだ、ハオウが前線に出動していたころだ。」


**********


「僕は優李花(ユウ リッカ)。よろしく!」


「……よろしく」


 行く当てもなく、召集されたままにヒーローになり、割り当てられたままに悪陣営に入った。新人だった俺は、悪も正義も同じヒーローの仕事だと思っていたし、どちらかといえば悪でよかったと思っていた。


「ね、君の名前は?」


「……九鬼(キュウキ)、暗(アン)」


「よろしく、アン!」


 リッカは俺のバディで、俺とは正反対に底抜けに明るい奴だった。


 俺が前線に出ると力が使えないことを知ると、自分からバディを提案してくれた。俺にとってはありがたい提案だった。


 それから一年経たないくらいのことだ。あいつは、ハオウに殺された。


「それでは、これで終わりにしようか。」


「アン! 逃げて!」


 俺は、助けられなかった。奴の突き刺すような殺気を、意(・)識(・)してしまった。力がすべて失われていくような心地だった。


 あの時、俺の同期は五人いた。正義にいった奴らはハーヴィンを除いて、二人とも狂ってしまった。


 ハオウは、正義陣営の新人の力を、薬物を使って強制的に増強させ、強力な力に耐えうる器を選別している。


*********


「でも、私はそんなこと……」


 私は自分の胸に手を当て反論しようとする。


「奴は計画の成功のため、これまでよりも慎重になっている。これ以上の無駄なヒーローの戦死は、奴の計画自体に影響を及ぼす。だから、まだお前は観察対象だったのだろう」


 自分はきっと、使えないとハオウから判断されていたのだと思い、また自分の弱さをかみしめる。私が弱かったせいで、ハチベイが死んでしまったんだ。


「どうしてハーヴィンは今も生きているんだ?」


 マヒロが聞いた。


「あいつは力の暴走を抑え込んだ。だが、今も薬なしではまともに生きられなくなっている」


 私は、給湯室で見た男を思い出した。やっぱり、あれはハー様だったんだ。理想の騎士像が崩れていくような気持ちになった。


「ハチベイはいつ自壊してもおかしくない状態だった。お前たちを守るためにも、ああするしかなかったんだ」


 彼は悔いるように言った。


「彼がああなったのは、お前たちの責任ではない。ヒーローを道具としか見ていないハオウと、彼の変化に気づけなかった俺の責任だ。すまない」


 彼はゆっくりと頭を下げた。


「違います! ハチベイが死んだのは、私が、私が弱かったから……」


 彼の言葉を否定するように言ったが、だんだんと自分の脆さに耐えられなくなってくる。私は地面に泣き崩れた


 ハチベイは、何を思って狂ったのだろう。何のために、強くなろうとしたのだろう。


「お前が悔いる必要はない。お前にできるのは、彼の分だけ強くなり、そして、その恨みを晴らすことだけだ」


「でも、私……」


 彼は、そっと私に近づいて言った。


「お前は今日から、俺たち(悪)の仲間だ」


 その声色は、どこか優しくて、私はなぜか、正義でなくなることを安堵していた。


 いつのまにか彼はいなくなっていて、私はマヒロに「帰ろう」と言われて、ぼんやりとした気持ちのまま歩いてマヒロの後を追った。気丈そうにふるまう彼は、寂しさの隠し方を知っているようだった。


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