6.隠
「間違いなく堕としましたわ!!!
だ、だだ、大好きと!確かに!仰いましたもの!」
椅子に足を乗せ渾身の"ガッツポーズ"をする。
レディにあるまじき言動。ごめん遊ばせ。けれど今、この時だけは許されるべきだわ。
悲願を、達成したのだから!!!
『いやぁ、あれは違うでしょ。』
私の人生最高の歓喜に、水を差す狼藉者が一人。
「あらぁ…?悔しいのかしら?
アレックス閣下には一切靡かなかったものねぇ、あの娘。」
虚空から現れた扇子をバッと開いて、これでもかとアレックスを見下ろす。
これほど清々しい気分は生まれて初めてだわ!あのアレクサンダー大公の負け惜しみが見られるとは!
回帰前、私はスマホ越しに見ていた。アレックスが最初の方はサーシャを懐柔しようと画策していたのを。そして全然、全く、これっぽっちも効果がなかったことも。
「恋愛"テク"、教えて差し上げましょうか?」
扇子で顎を持ち上げ、アレックスのさぞ悔しがってる顔を拝む。
…あら?全然悔しがってないじゃない。
『驚いた。本当にね。
まさかこの僕が、愛について講釈を垂れる日が来るとは…。』
な…、なによ、その、憐れみのような微妙な顔…。
『あのね、レクシー。
この世には友愛と親愛というものがあって―』
僕は丸一日寝込んだ。
宮廷医師は原因不明だと言っていたから、代わりに僕が診断してやろう。
これは恥死という不治の病だ。恥は人を殺す。医学書に書いておくが良い。
「殿下、お食事をお持ちしました。」
侍女の声に僕は体を起こした。
ふいの毒殺発覚以来、このエイダという侍女を専属侍女に指名。食事の用意を一任している。
さも栄養価の高そうなステーキと生野菜のサラダ。病気ならより栄養を取れるものを、というのが常識ではあるが…
「聞かせてくれ。」
言いながら口にしてみると、やはり味が濃い。
("味噌汁"が恋しい…)
サーシャの開発した、味噌なるものを使った茶色のスープ。あの独特の風味、柔らかな口当たり…。染み渡るようなあの味を体が求めている。
しかし作られるのは随分、後のこと…。渇望したところで、まだ、この世界には存在すらしていない…。
「殿下に毒が効いたと油断したためか、毒の入手ルートを掴むことに成功致しました。」
あまりの素晴らしい成果に、思わず笑みが溢れた。
「よくやってくれた。期待以上だよ。」
ほんの一日寝込んだだけで、もう敵の情報を掴んでしまうとは。あの時、味方に出来て…、本当にラッキーだった。
この食事だってちゃんと僕好みではあるのだから。
「過分なお言葉。」
無表情だけど、ほんのり赤い頬が見える。
無口で、優秀で、褒めるだけで喜ぶとは…、あまりに都合の良い。
こんな人物は…、回帰前にもゲーム内にも居なかった。
当のアレックスさえ、居たかな?程度の認識だった。
だからこれは、僕だけの素晴らしい駒。
「宜しく頼むよ。」
毒くらい…、刺客程度、いくらでも送って欲しい。僕宛ての殺意なんて大歓迎だ。
僕はそれをプレゼントとして受け取って、新しい駒にするのだから。
(…ああ。)
下がろうとするエイダに、一つだけ訂正しなければと思い出す。
「エイダ。」
復讐だけは僕のものだと。
「サーシャの茶に毒を入れた者は、僕の元へ連れてきてくれ。」
命乞いくらい聞いてみようか。




