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ジョブチェン!悪役令嬢は転生ヒロインを堕としたい  作者: 三古谷
第一章 「幼年編」

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4.白馬の王子は向いてない

「お手をどうぞ、レディ。」


 笑みと共に、馬車へ乗るサーシャに手を差し出す。


「あ…、え?」


 サーシャはいつもの驚いた顔ではなく、今回は、戸惑った顔をしている。

 僕が、行く手を遮ったからだ。手を差し出される前に、自力で馬車に乗ろうとしていた君を。


()()()、どうぞ。」


 努めて冷静に、けれど有無を言わせぬ覇気を持って、サーシャをたしなめる。


 この娘ときたら…、貴族として目覚めて1年が経ったのに、未だレディとしての立ち振舞いがなっていない。ディア家の教育係はどうなっているのかと問い質したくなる。総取っ替えされたとは聞いたが…。


(サンドラ)がこのくらいの頃はもっと…)


「す、すみません…、レクシー様。」


 揺れる馬車のなか、いつになくサーシャはしおらしい。ディア家の令嬢足るもの、そんな風に謝るべきではない、とも思うが…。


 否。サーシャは向こうの世界の常識を持って生きている。ここしか知らない僕とは、比べられない。


「ううん。僕こそすまなかった。」


 僕だって君の常識を知らないし、きっと慣れない。謝るべくは僕の方だろう。


 それに確信したこともある。やはりサーシャにとって、この世界は初めての世界のようだ。僕と、アレックスだけが、回帰前の世界を覚えてる。


「つい心配してしまったんだ、ごめんね。

 君は、裾の長い美しいドレスを着てるから。」


 今は子供だから、さほど長くない簡単なドレス。だけど、これから成長していけば丈は伸び、更に歩きにくいヒールを履くことになる。馬車用の階段ステップを使とはいえ…、それでも不安定だ。

 少し踏み外しただけで、簡単にケガをするだろう。


「あ…、そ、そっか。

 うん!気を付けます!」


 元気の良い返事に少し安堵する。

 サーシャは賢い子だ。それを嫌と言うほど見てきた。今後、サーシャは必ず僕の手を待つだろう。


「良かった。」


 心からの言葉だ。君が、僕以外の何かに傷つけられるのは許せないから。


 痛みも、悲しみも、絶望も、その一片足りとも、誰にも譲りはしない。君は真綿に包まれて、存分に甘やかされて生きるべきだ。


 幸福を感じた分、いつか僕が与える絶望は果てしないものになるから。


 それはきっと、2度と明日を見られないほど。


「優しいんですね、レクシー様。」


 また、君はそうやって僕に無邪気な笑みを向ける。


「…君にだけだよ。」


 真実だ。僕にあんな憎しみを与えたのは、君だけなのだから。


(さて…、そろそろだろうか?)


 窓の外を見つめ、周囲の様子を伺う。


「レク」


 ガコンッ!!と音が響き、同時に強い衝撃が走る。


「きゃっ」


 お、令嬢らしい声、と感心しつつ、バランスを崩したサーシャを抱き止めた。


「な、なに?…あっ!」


 少し間を置いて、腕の中のサーシャが叫ぶように声を出した。

 どうやら思い出したらしい。


 抱き締めたまま、サーシャに静かにするよう、自分の口に人差し指を添える。そのまま魔力に集中する。


「…6人。」


 気配を探り、スマホ越しに見ていた通りだと確信する。


 回帰前も、サーシャはこの襲撃を忘れていた。


 仕方のないことだ。悪役令嬢が幼少期に受けた襲撃なんて、ゲームでたった一行…、情報として綴られていただけだから。


「ここで待てる?」


 腕の中に微かに震えを感じる。やっぱり君の世界は、こんなところじゃなかったんだろうな。


「わ、私、大丈夫です…」


 この大丈夫は、放っておいて平気と言う意味。

 そんなわけ…と鼻で笑いたいところだが、これはアレクサンドラの魔力覚醒イベント。この襲撃を通じ、命の危機に瀕することで、サーシャは魔法使いとして覚醒する。


(だけど、)


「ダメだよ。」


 額に口付けを落とす。その震えが一瞬でも止まるように。


「…へ……?」


 どうやら効果覿面だったらしい。呆けた顔を僕だけに晒すサーシャ。今まで見た顔のなかで一番マシだ。


 どこか高揚する体に魔力が巡る。


「炎よ。」


 手のひらに魔力を集中させる。同時に、外から扉が開かれた。サーシャを殺さんとする刺客へ、僕は白い炎を放った。


「ぐわぁ!」


 サーシャを殺すのも、恐怖を与えるのも…、すべて僕だけの特権なんだから。


「れ、レクシー様?!」


 しっかり驚いてくれるサーシャに、ちょっと良い気分になる。


 続けざまにもう一人も来て、今度は魔法を使ってきたけど、当然僕の敵じゃない。


「ま、魔法使いなの?!」


 そこか、とちょっと落胆。自分を助けてくれる白馬の王子へのドキドキ…、ではなく未知の力へのワクワクらしい。

 その"トキメキ"は困る。

 魔法を使える貴族など、掃いて捨てるほど居るのだから。


 ちょっと悩んで、結局、投げ遣り気味に答えた。


「君だけの、ね。」


 嘘じゃない。これは君を殺すためだけの力だから。でも、どうせ君は反応しない。


 襲撃から救ってくれる白馬の王子様作戦は、どうやら失敗。けれど構わない。

 サーシャの魔力覚醒を防ぐこと。そっちが本来の目的だからだ。復讐相手をわざわざ強化させる理由はない。


 とはいえ…、ディア家の令嬢を殺すにしては随分と雑というか…。


「レクシー様!」


 腕を引っ張られ、椅子へ押し倒される。


(なっ…!力つよ?!)


 (サンドラ)は貧弱も貧弱だったはずなのに、なぜ?そしてハタと気付く。ディア家の家庭環境が、早めに改善した結果だと。


 視線をやれば、さっきまで僕の頭があった場所を剣が通りすぎ…、更には窓を破壊して襲撃者が一斉に襲いかかっている。


 6人は魔法で対応できる。想定の範囲内。けれど、視界の端…、もう一人いる…。

 そしてまた僕は気付く。ディア家の御者さえサーシャを殺そうとしてたのだと…!


「サーシャ!」


 遅かった。傲っていた。間に合わない。完全には防げない。


 サーシャの頭と背中を必死に抱き寄せる。


 こんな、子供の手で剣を防げるか?

 魔力を練る。だが間に合わない。

 それでも、守らなければ。せめて致命傷だけは防がなければ。さもなくば…。


 銀の剣が、キラリと光る。そこに映るは、見知った黒い髪。

 僕はこれをよく知っている。息を尽く間もなく、すべては赤に染まるのだと。


(また…、奪われるのか?)


 親愛も。友愛も。恋慕さえ。何一つ、サンドラの手には入らなかった。…果てはこの復讐心さえ。


「お願い!」


 瞬間。強い光が視界を飲み込む。


 違う。これは闇?僕があれほど忌み嫌った…、呪われし闇の魔法。


 アレクサンドラが悪役令嬢と呼ばれたすべての元凶。

 魔物を彷彿とさせるこの力を、民が、両親が、私が、誰もが恐れ嫌った。僕を蝕んだ呪わしき力。(サンドラ)が生まれてきてはいけなかった理由。


 なのに…、ああ……、どうして…。


 君が使うだけで、こんなにも暖かな…、柔らかな月明かりの夜のような魔法になる。


「…忌まわしい。」


「レクシー!ケガはない?!」


 肩を捕まれ、ハッと我に返る。

 口を滑らせた。聞かれただろうか?バレたろうか?僕が、君を恨んでると。


「れ、レクシー様?」


 その瞳は、ただ僕を気遣っていた。

 聞こえなかった?この距離で?…それとも。そうだ。違う。


 分かってるんだ。


 サーシャは、(裏ボス)(悪役令嬢)を利用するつもりなことを、とっくに理解してる。


 そうか。


 やっと分かった。


 君って馬鹿なんだな。

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