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悪役令嬢は転生ヒロインを堕としたい  作者: 三古谷
第二章 「学園編」

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4.いつも側には居ないから。

 黒曜の夢から目を開ける。


 ぼやけた視界。一瞬暗いとも認識できなかった空白。それを自分は目を開けているという感覚だけでは、今が夜なのだと認識する。


「…。」


 感触で柔らかな布団や枕の存在を確かめ、ここが寮の自分の部屋だと認めた。


 せっかく黒から目覚めたのに、また黒…。けれど僕は、辟易するどころか、むしろ安堵していた。

 月光すら届かない暗闇は、僕にとってむしろ日常だったから。


 …そう。こういう静寂や暗闇こそが、僕にたくさんの情報をくれる。

 例えば、ネズミの気配とか。


「待っ…!私だ!リアンだ!」


 放った炎が、輝く金髪が照らす。その色に暗闇が輪郭を失い、光に溶けて光景を知らせる。

 金髪と、太陽のようなオレンジの眼。部屋に居たのは、第一王子で一応僕の兄であるカーネリアンだった。


「大好きなお兄様が会いに来たよっ…!」


 …やっぱり、炎を放ったのは間違ってなかった。


「うわっ、あっっつい!!!!

 凄いな君!私、第一王子だぞ?!」


 ちょっと袖が燃えただけじゃないか。大袈裟なんだから。

 僕の部屋が角部屋で良かったな。さらに言えば隣の部屋がリアンだ。最悪だ。


(…ん?)


「マジで何で居る…??」


 ここは一人部屋だ。無論、施錠魔法も掛けられている。それなりに堅牢なはずだ。

 刺客でなくリアンだったとして、不法侵入に変わりない…。


「どうやったんだよ…。」


 呆れつつ、すっかり目覚めてしまった体で起き上がる。ついでに茶を沸かし、施錠に異常がないかも確認する。

 …気持ちの悪いほど変化がない。否、気持ち悪い。


「ふふ~ん。

 お兄様の相伝魔法(お得意)をお忘れかい?」


 リアンが引き継いだ相伝魔法は、空間魔法だが…。まさか、それで瞬間移動まがいの事をしたと…?


(そんなこと僕にバラすな……。)


 痛み出す頭を、手で押さえる。

 そんなことが出来るとは、ゲーム本編(サンドラの記憶)でも、回帰前の世界でも聞いたことがない。


「お茶を淹れてくれるの、レクシー?」


 言いたいことは色々ある、が……。どれを口にしたところで、リアンが喜ぶ顔しか想像できない。

 無関心、これ以外に兄上を黙らせる方法はないと、5年で学んだ。


「本当は"苦丁茶"を出して差し上げたかったんだけどね。」


 サーシャの世界で、嫌がらせしたい時に出すお茶らしい。学園に入学したての頃、サーシャが必死に探していた。


「極東にあるんだっけ?」


 目を離した隙に、リアンがどこからともなくイスを出現させていた。それを窓際の一人用のテーブルの前に置く。


 勝手に座るな…とか、持って帰れ…とか、ここで喚いても不利なだけだ。


 僕は黙って茶を出し、仏頂面で向かいに座る。


「何の用だ。」


 腕を組み、出来る限り不機嫌そうな声を出した。

 質問をした。それだけで、リアンの優しげな王子然とした笑みが、やけに嬉しそうな間の抜けた破顔になった。


「え~?私の弟が手ずから淹れてくれたんだよ~?

 ゆっくり楽しませてよ~。」


 くそ、質問も関心に入るのか…。面倒くさい。というか、眠い。多少は不法侵入者に驚いていたが、もうまるで焦ってない。落ち着いたから寝かせてほしい。


「私の弟は本当に何でも出来るなぁ~。」


 これでいて、うっかり眠そうな態度を見せたら、輪を掛けて面倒臭くなる事が解っている。


『あっ……ははっ!

 ごめんねぇ、レクシー?』


 表面上、まるで気にしてない顔をして、とっとと帰ってくれるだろう。だがコイツは後日ちゃんと落ち込む。しかも解りにくい。でもちょっとだけ距離が開く。


 別に配慮する必要なんてないのだが…。


「お茶くらい誰でも淹れられるよ。」


 第二王子として、それなりに不本意な思いをしてきた。国家や王家のため、しなければならないことはある。


「次は私の腕前を披露しなくてはね。」


 第一王子で時期国王のリアンであれば尚更だ。

 リアンだって、この状況は本意ではないはずだ。大方、護衛にさえ疑いがあるのか…。

 とにかく、僕にしか話せないことが…。


「んふふっ。」


 にしては、楽しそう過ぎないかコイツ。


「恋バナとかするぅ??」


 指の先から炎がこぼれる。それが不思議と、独りでに、兄上の手へ行ってしまった。


「あっつぅ?!何で?!」


「お茶が冷めてきたから。」


 言いながら口をつけた紅茶は、まだ淹れたてのように暖かだった。


 コイツの事は解らん。一生解らん。というかサーシャさえ眉を潜めるんだから、手の付けようがない。


「……。」


 窓の外を見上げると、眩しい月に雲がかかろうとしていた。

 雲が光を奪う…。でもそんな雲なんて星空では微々たるもので、星々は煩く瞬いている。

 月が見えても、見えなくても、星空は変わらない。


 サーシャは今ごろ、誰の淹れる茶を飲んでいるのだろうか。ジェイドとか…、いやアイツはそんなに得意じゃないからなぁ。


「まだ一週間だよ、レクシー。」


 馬鹿にしてるような、本当に心配してるような声が、星の瞬きと共に聴こえる。

 寮に入って一週間。サーシャに離れて一週間。本当なら今日、サーシャとお茶をしているはずだった。


「…分かってる。」


 リアンに対して、もはや取り繕う意味がないと知っている。

 何より、サーシャを恋しがってるように見えるのなら好都合なのだから。


「1年だろ。感謝してるよ。」


 それが国益に繋がるのなら、王家の人間に拒否権はない。拒否なんて言う発想事態が間違っている。


 学園生活は4年。リアンが何と引き換えに、僕の3年を勝ち取ってくれたのか…、聞くのも野暮だろう。


 ふと静かさが耳を突いて、 窓の向こうから、目の前のリアンへ視線を戻した

 いつも喧しい人が黙ると逆に違和感だ。


「私は太公も第二王子も殺せる。」


 すっかり落ち着いていた頭が、素でギョッとする。あまり穏やかな笑みで、物騒なことを言い出したから。


「君が思うより、方法はたくさんあるからね。

 私は君達のお兄様だから。」


 ギョッとしたまま、瞬きを何度か繰り返す。


「僕そんな重症に見える…?」


 茶化してるわけでも、リアンが出来ないことは言わないことも知っている。でもたった一週間だし、たかが一年だ。

 それで僕に亡命の道を示す意味が分からない。それも、たぶん、サーシャごと…?


「いつも覚えていて欲しくてね。」


 なぜ、リアンが手助けを…?そもそも別に望んでいないのだが…。

 本当は第二王子を疎んでいる…?いや、それだけはない。ちょっと頭のなかで考えただけで、にこやかに、かつこんこんと文句を言われそうだ。


「……本当に分からないんだけど。」


 多少考えたが、ここまで配慮される理由が分からない。

 だから聞いていると言うのに、リアンは笑って紅茶を飲むばかりで答えない。


「…ふーん。」


 こういう時はもう、いくら聞き出そうとしても時間の無駄。テコでも答えない。

 …というか、覚えてほしい以上の理由がないってことなんだろう。

 それに至った過程を聞いてるんだけど…、まあ、いいや。


 本題を聞こう。


「で?」


 望まれる前に、紅茶をもう一杯だけ注いでやる。文句を言われない程度に少なめに。


 それにさえリアンはやたら嬉しそうに笑う。


「騎士様って興味ない?」


「ない。」


 …。


「うん。快い返事ありがとう、レクシー!」


「……ボケるには早いぞ。」


 拒否権ないなら、なんで聞いた?

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