表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジョブチェン!悪役令嬢は転生ヒロインを堕としたい  作者: 三古谷
第一章 「幼年編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/22

21.ルーティン

 赤い薔薇。黒い薔薇。その二色だけで統一された庭園。その花弁の向き一つさえ定められているような、手入れされ尽くした庭。余りある洗練さは、訪れた相手を気後れさせるほどだ。


「うわぁ…すご………」


 王が余計な贈り物のせいで、再び馬車に乗ることになってしまった。王宮は無駄に広すぎる…。とはいえ、侍女長の粋な計らいで、今度こそサーシャと二人きりで馬車に乗れた。

 良いことはするものだね。


「ありがとう、レクシー様。」


 馬車を降りるサーシャへ、再び手を差し出す。


 三年の月日の甲斐あって、サーシャは随分と僕の手に慣れた。

 望ましい進歩だ。サーシャは必ず、僕の手を取る。ディア公爵が居ようが、または騎士が居ようが、もちろんジェイドが居ようが…、例外なく僕の手を。


「ふっ…。」


 ついまた笑ってしまう。


「ふふっ、上機嫌ですね、レクシー様。」


 不思議と、そう言うサーシャこそ嬉しそうに笑っていた。

 さっきまでは緊張した風だったのに、この数秒で落ち着きを取り戻したらしい。


「エスコートに、かなり慣れてきたみたいだと思ってね。

 あとはお礼を忘れてくれれば、僕は満足なのだけど?」


 微笑み、預かっていた手に口付ける。騎士や従者の目があるからフリだけれどね。


「ぅぇ?!ぁ、そっち?!」


 ちゃんとフリに留めたのに、やっぱりサーシャは手を引っ込めてしまった。

 不満だ。

 ジェイドとの練習では、にこにこ楽しそうに笑っていたのに、なぜ僕はダメなのか…。

 やはり、顔のせいか?


「じゃなくて、国王陛下です!

 黒蛇病での成果を讃えて正式に叙任式?があるんでしょ?!」


 王宮のなか、僕に割り当てられた金緑宮に立ち入る。


「惜しい。」


 微妙に間違ってる。今回の報奨と、僕が正式な王族として認められる叙任式は関係ない。


 見慣れた宮も、サーシャが居ると少しだけ新鮮に感じる。


「陛下と…、お父様とゆっくり話せる機会じゃないですか。」


 部屋に入ったところで、サーシャに手を握られた。


 君から離れたくせに、また君から僕の側に来る。喜ばしいことだ。君の言葉の意味は解らないけれど。


「下賜されるだけだよ?

 言葉を交わすような場じゃない。」


 恐らく、さっき言ってた"そっち"。サーシャは、僕が国王と会えることに喜ぶと思ったのだろう。

 的外れも良いところだ。


 僕は君以外、興味ない。君を堕とすのに必要なこと以外。君にさえ復讐できるのなら、究極…他の攻略者共はどうでも良い。

 まして国王など、少し大きな石程度だ。


「でも、きっと褒めてくださいます。」


 手を握るサーシャの力が少し強くなる。

 …僕が逃げると思ってるのだろうか?まるで、逃すまいとする手だった。


 不理解は逃げだろうか?否。この世すべてを理解する時間はない。

 理解しないことは逃げではなく、ただの選択肢の一つだ。


 だから少し大きな石程度のこと、わざわざ思考する必要はない。


「…サーシャ。」


 けれど、だからこそ、僕はちゃんとサーシャのことは理解しなければ。


「国王に褒められたいとは…、考えたことないかな。」


 深紅の目をまっすぐ見つめる。


 僕は君に嘘を吐かない。だから、その手を握り返し、ただ見つめる。

 君を堕としたいことも、この世のすべてから独占したいことも、君にだけ唯一の感情を抱くことも、すべて真実だと伝わるように。


「僕にとって、陛下は陛下で、

 陛下にとって、僕は家臣の一人だ。」


 次期王たる第一王子ならまだしも…。

 仮に第二王子の僕が王に関心を望めば、反逆の意思ありと難癖をつけられても不思議じゃない。


 たぶん、アレックスも同じように考えた。


 だからはじめから期待しない。望まない。興味がない。


「僕ね、もう疲れたんだ。」


 ちょっと驚く。自分で放った言葉に。不思議だけど驚いてしまった。だって、口にしてみると…、本当にピッタリ僕の心境に合っていたから。


「…。」


 すぐ側で息を呑む声がする。

 素直に話しすぎたのだろうか?嘘は吐かないけど、別に真実を話す必要もなかったのに。


 …少し、アレックスとお茶を飲み過ぎたかな。


 紡がれることのない言葉。だけど手は握ったまま。視線も逸らされない。

 サーシャの目には、いつも僕の目が写ってる。


「だからね、僕は幸運なんだ。」


 握られた手を引き寄せ、離さぬよう腰を抱く。

 視界を君だけに染めるため。


 …斯くも、アレックスの人生は苦痛だったろう。絶望まみれだったろう。空虚であったろう。

 望むものはなく、望まれるものもなく。


 けれど僕は違う。


「褒められたいよ、君に。」


 君への憎悪がある。


 道すらない、この先で、きっとすべての人々はただ息をする。いつか見つける意義のために。

 違うのは、それが見つかる前に心臓を失くすか、それとも間に合うかだけ。


「僕は君に愛してもらうため、生まれてきたんだから。」


 これは紛れもない幸運だ。意義を、生まれる前から持っているのだから。

 道が見える。坂も障害もゴールも、何もかも君への憎悪が照らしてくれている。


 迷うことなど少しもない。


「…本当に、」


 手が離れてしまう。サーシャが離すから。でも僕は君を離さないから、この距離は変わらない。

 君が逃れたいと懇願しても、策を尽くしても、運命を捩じ伏せても、僕は君を逃さない。


 いつ、君は理解するだろうか。


「私はあなたが解りません。」


 サーシャが僕の頬に触れる。


「…サーシャ?」


 離した手は逃れるためでなく、僕に触れるためだった。

 君の額が、僕の額に触れる。

 どうしてか君の目は、何かを耐えるように、祈るように閉じていて、その紅が見えない。


「また…、そんな顔をして……。」


 さっきまでの良い気分が、一瞬で萎える。


「悲しい顔なんてしてないけれど。」


 やはりこの顔だ。この顔のせいなのだ。このアレックスの顔は…、本当にサーシャの初恋と似ているのだろう。


「ふふっ…。そうですね、ビックリしました。」


 目を閉じたまま、サーシャは笑う。頭をぐりぐりと押し付ける君は、どこか満足気だ。

 きっと嫌がらせなんだろう。だけど痛くも何ともない。ただ、君の香りが咲くだけ。


「サーシャ。」


 いっそ、この顔にナイフでも突き立てれば、君は僕だけを見るだろうか。


「なんですか?レクシー様。」


 笑う君に、どうしようもなく望郷が透けて見える。


 とっくに埋まってしまった一番を落とすのは、なかなかに難儀だろう。

 なればこそ、きっと君はこの世界をハッピーエンドへ導いた。


 むしろ上等だ。そうでなくては困るだろう。


「期待してるね、君のドレス。」


 華奢な両手を奪って、その頬へ口付ける。


 いいとも。この顔だって利用するさ。君の初恋を手繰り寄せ、上書きしてしまおう。


「なぁっ?!!」


 奇っ怪な声を上げながら飛び跳ねたサーシャに、仕方がないから手を離してやる。


 あの距離で口にしなかっただけ、紳士過ぎるくらいだと思うのだけどね。

 あまり攻めて避けられたら、それこそ本末転倒だし。


「な…なん」


 両手で自分の頬を抑え、ぷるぷると震えるサーシャは珍しく顔を赤らめている。眉を曲げ、これでもかと見開いた目には、うっすら涙が浮かんでいる。


 …うーん、これは。


「僕以外に近付きすぎないでね?」


 とても良くない。気があると誤解される。変だな、こんなに隙のある子だったか?


「レクシー様にも近付きません!!!バカ!」


 跳ねるように遠ざかる君は、ちょっと大きめの音を立てて隣の部屋へ逃げてしまった。


「相変わらず、わからない子だなぁ。」


 苦笑しながら、侍女たちへサーシャの着替えを手伝うよう指示する。それと僕が居ない間の護衛と軽食も。


 踵を返し、僕もまた部屋を後にする。とっとと、王の 謁見を終わらせるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ