22.宛て先
報奨は予想外だった。もちろん悪い意味で。
「そなたに、ツー・クラウンの名を与える。」
与えられたのはクラウン太公領。王管轄の魔塔と程近い広大な土地だ。肥沃な魔力により農地は潤沢で、多少治安が悪いものの、かなり優良な土地と言えるだろうが…。
ツー・クラウンは、ゲーム本編と全く同じ名…。
こんなもん、貰って当たり前のものじゃないか!というかいらなーい!!!邪魔ー!!
「アレクサンダー・ツー・クラウンの名。
有り難く、拝命致します。」
いくら僕でも口には出せない。第二王子は辛いよ。
…………いや…。そうか。…違うのか。
「感謝致します。国王陛下。」
心からの感謝を告げ、王の間から背を向ける。
そうだ。僕はたった今、第二王子から離れたのだ。
ゲーム本編より5年も早く…、第二王子のアレクサンダーじゃなくなった。
僕は今、この時より、アレクサンダー太公となった。
これは継承争いからの脱落を意味するが…、同時に王にさえ簡単には揺るがされない磐石な地位。そして何より…、
「アレクサンダー。」
呼ぶ声に振り返る。荘厳な椅子に座る王。ほんの少し不安気に聞こえた声。威厳が陰ると、そこに居るのはただの初老の男のようにも見える。
「私を恨んでいるか。」
疑問のない問いだった。男は恨んでいるかどうかは聞いていない。
それは報復を恐れる命乞いではなく、ただ己の罪の裁量を受け止める誰か。
「…。」
夕陽のような、朱色の瞳を見る。カーネリアンと同じで、僕とは違う目。
僕とカーネリアンが、たった3ヶ月足らずの差で生まれてきた原因。
狙ったのは、側妃でも皇后でもなく、間違いなく、貴方だ。
理解できる。自分の生きているうちに、不穏分子を炙り出し、後世に残さぬためだろう。
僕と、そして誰よりも側妃は、そのための人身御供。
(…どうでもいい。)
ハッキリ言って、興味ない。関心がない。
貴方の苦しむ顔を想像しても、貴方が笑う顔を想像しても、どちらにも何の感情も沸いて来ない。
貴方が死のうが生きようが、僕の復讐に1ミリも影響がない。
…それは僕がサンドラだから。当事者じゃないからだ。
「母の好きな花を知っていますか?」
僕の共犯者は…、恨んでるだろうか。
いや、きっと同じく無関心なのだろう。だけれど…。でも。
「………シュラブローズだ。
特に、濃い桃色の…、お前の名の。」
薔薇だ。僕の宮にも、側妃の宮にも、多種多様な薔薇がそこら中に咲いている。春も夏も秋も、冬でさえ、魔力に包まれた側妃様の宮は、常に薔薇で満ちている。
それを思い出して、僕は軽く目を閉じた。
「失礼します。」
一度だけ礼をして、今度こそ王へ背を向ける。
許すことも、許さないことも、僕はしない。
貴方の子供は、とっくにこの世を捨てた。懺悔も復讐も後悔も、全ては生まれる前に放棄され、もう誰の元にも届かない。
アレクサンダーには、何一つも届かない。
だから恨み言も、救済も、貴方にも返ってこない。
「………。」
それでも、もし、貴方に出来ることがあるとするのならば。
重苦しくとも、耐え難くとも、許されざる罪も、すべて相手が居てこそ成立する。
側妃は、まだ、貴方が憎いと喚いている。
「太公。アレクサンダー・ツー・クラウン…。」
俄然、悪くない。
何が悪くないって、この名は王宮として正式に、僕をアレクサンドラ・フォン・ディアの婿として後押しするという意味なのだ。
継承権と引き換えに、公爵家と遜色のない地位と領地を与えられたわけだ!
「何より、領地の場所が良い…。」
魔塔と近いということは、つまりディア領と近いってこと。
これはもう二人が結婚した暁には、ディア領として纏めちゃって良いよという王からの粋な計らいに間違いない。
すごいぞこれは…。そうなればディア領は、王国で一番の領地になる………、
「サーシャは?」
ふと挙げた顔。視線の先に居ないエイダに寒気がする。
傍らの兵士から剣を抜き去り、全身に魔力を巡らせ走る。
エイダが僕から離れるのは二つ。余程の問題が起きたか、サーシャの身に何か起きた時のみだ。
そしてこの城で、僕の客に手を出せるのは3人だけ。
王と皇后…、そして
「カーネリアン…!」
第一王子のみ。




