13.転生者は蝸が怖い?
王と公爵の許可を持って、黒蛇病に対する2つの予防対策が始まった。
「姉さま!お願いだからもう休んでください!倒れちゃうよ!」
一つ、貿易基準。
南の国からの輸入品は一律、無人島を経由させ、虫や土、及び輸入目的の品と無関係の品は決して領地内に持ち込まないこと。
「まだ平気よ、ジェイディ。
この為にたくさん訓練したんだから。」
二つ、農薬散布の義務化。
王が命ずる一定の期間のみ、商いをするあらゆる農地において指定された農薬の散布を義務付ける。
「あっ、レクシー‼今までどこに…!」
なお、二つ目の規定を守った作物について、第2王子の名を使うことを恒久的に許す。
「サーシャ。君に聞きたいことがあるのだけど、」
追加でダメ押しの3つ目。
これは、法でも、王族というブランドでも、どうにもならない。
君の知識と腕が頼りだ、サーシャ。
「…は…、はい?!
か、カタツムリの美味しい食べ方…ですか?」
生で食べないよう厳命する。中々悪くないアイディアだよ、アレックス。
「お、お待たせしました~!
"アフリカマイマイ"もどき…の、エスカルゴとアヒージョです!」
一週間後。公爵や、夫人とも合流。いくつかの共有後、早々に、会合という名の試食会が開かれた。
「しょ、正気ですか、姉さま!?!」
「私だってビックリだよ!」
テーブルの上の料理は、思った以上にカタツムリだった。
殻の形が少し違うと思っていたが、その中身は変わりないように見える。あと、やはり大きい。子供の手のひらくらいはあるだろうか?そして香りが良い。
切り分け、一口食べてる。
「うっわ、食べた?!」
「い…、いかがですかな、殿下…。」
ジェイドや公爵が、恐れすら孕んだ目でこちらを見てくる。そんなに気になるなら自分でお食べよ。冷めたらもったいない。
(…うーん)
思ったより歯応えがある。大きさのせいか?でも、癖もないし、ハーブやにんにくの香りが立っていて…。
「うん。美味しいね。」
これは、ただの大きいカタツムリだ。
「よ…、よかった、です……?」
カタツムリ自体は、昔からよく食べられている食材で、養殖場もあるほど。
それこそ平民も貴族も聖職者すら食べる。
肉というものは、かなりの高級品だからね。その代わり。
南の国でも、似たような調理法で食べられているらしい。もちろん、この国の人間が食べても問題ないことは実験済み。
あとは味だけだったわけだ。
歯応えさえ何とかすれば…、この大きさだ。市場価値は見込める。
「ん…。あら、美味しいわね。ワインとも合いそう。」
「義母様まで?!」
ジェイドは、すっかりいつも通りの喧しさを取り戻したらしい。
元気な義弟くんを横目に、立ったままのサーシャへ視線を向ける。
笑みを向けると、気付いて隣に座ってくれた。
「これで良かったのでしょうか…?」
いつになく不安気な君に、僕は尚更笑みを浮かべた。
「期待以上だよ、サーシャ。
無理な頼みを聞いてくれてありがとう。」
カタツムリ以前に、この調理法自体が素晴らしい。
他の食材でも試してみてほしいけど…、それは一旦置いておいて。
「今のままでも十分美味しいけど、これを更に柔らかくする方法はあるかな?」
夫人が太鼓判を押してくれた以上、このままでも構わないかも知れないが…、一応、出来るか聞いてみよう。
「そ、そうですよね…。今回は20分以上茹でましたので…。
加熱時間や温度など調整すれば…、でも"寄生虫"が不安だし…、うーん5分以上は必須かなぁ…。」
「キセーチュー?」
はじめて聞く言葉だ。回帰前の世界で一度も口にしていなかったと思う。
どういう意味かと頭を捻っていると、公爵が口を開いた。
「ウジの一種だろう。」
長いカタツムリとのにらめっこを、やっと乗り越えたらしい。よく頑張ったね、お義父さん。あとはジェイド、お前だけだよ。
公爵は続ける。
「しかし、カタツムリにしては大きいとはいえ、このサイズに寄生する虫は居ないんじゃないか?」
「えぇ…、そんなことないよ…。"細菌"とか"微生物"とか…。んー、何て言えば…。」
二連続で知らない単語が出てきた。
18年スマホ越しに眺め続け、サーシャの語彙の殆どは得たと思っていたけど…。それは傲りだったらしい。
「目に見えない、ちーっちゃい生き物ってたくさん居るの!」
「なんだ?妖精のことか?」
「イヤァ!やめてよ!夢も希望もない!」
サーシャと公爵は…、思ったより気安く話すんだな…。幼い娘に言い負かされてる元父を見るのは、なんだか複雑なような…、指を指して大笑いしたいような…。
けれど合点が行った。
「"寄生虫"は火で死ぬんだね。」
なぜカタツムリが這った後の野菜も、加熱すれば食べられるのか?実験結果からは、食べられるのだから食べられる…、としか言えなかった。
しかし…なるほど。目に見えない生き物か。
「な、何でもそうじゃないですからね!
火に強い寄生虫だって居ますし…!」
寄生虫とやらはいくつか種類があるものなのか…。こればっかりは検証のしようがないな。
ところで、調理をしてくれたサーシャだが…、未だカタツムリ達を見ようともしていない。
一口切り分け"あーん"としてみる。
「ひょわぁ?!!
わわ、私はそんなの食べません!!!」
そう言えば、回帰前の世界でも、サーシャはカタツムリを避けていた。
"好き嫌いは良くない"んじゃなかったか?それに、ほら…
カチャーンと、やけに響く金属音がサーシャの肩越しに聞こえる。
「そん…なの…?」
そこにはしっかり嚥下し終えた、哀れな義弟くんがいた。
「えっ、あぁっ?!
嘘だよ!ごめんね、ジェイディ!私が苦手なだけなのー!」




