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ジョブチェン!悪役令嬢は転生ヒロインを堕としたい  作者: 三古谷
第一章 「幼年編」

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11.かみさま爆誕!

「遅くなって…、ごめんなさい。

 もっと早く見つけなきゃいけなかったのに…」


 横たわる女性へ、窓からの明るい陽がキラキラと降り注ぐ。その女性の手を握りながら、サーシャはシクシクと涙をこぼす。


 いや…、え?それ間に合わなかった人の台詞だよ、サーシャ。


「やーだこの子はいつまで泣いてんのかしら!

 おばちゃんすっかり元気よ?ね?」


 ガバッと起き上がったカタリナは、さっきとは別人のような快活な笑顔で、サーシャの背中をバシバシ叩く。

 見たことのないタイプの女性だ…。本能的な恐怖を感じる。


 ぐずぐずと泣き続けるサーシャは、どことなくジェイドに似てる。逆なのか?


 ちょうどその頃、早馬から伝令が届いた。こちらからの伝令を渡し、内容を確認する。


「サーシャ。お父上も一人目の治療が終わったそうだよ。」


 ディア公爵は、このまま1週間ほど治療に当たるそうだ。夫人からの伝令も、そのうち届くだろう。


 カタリナに乱雑に顔を拭かれているサーシャへ、伝令の内容を伝える。


「ぞう…、良がっだ。」


 (サンドラ)ってこんなブサイクだったっけ…?




 …黒蛇こくじゃ病。後年の医学書でそう記される病は、僕の知る限りのすべての世界(ルート)でも治療法は2つだけ。


「それで、何か策があるんだろう?」


 お茶会でサーシャの覚悟を聞いた直後、僕たちは本格的な作戦会議に入った。


「対処法は二つです!」


 チラリと従者に視線を送り、メモを取っておくよう伝える。


「一つ目、光の力を持つ聖女の祈り。」


 その通り。

 だが、現在この国の聖女は不在。他国から借りようにも間に合わないだろうし、そもそも原因不明の呪いが蔓延る他国へ貴重で大事な聖女を送るはずがない。

 これが不可能なことは解っている。


「二つ目、ディア家の重力魔法。」


 そう。これが本命。


 貴族が、なぜ貴族と呼ばれるのか?

 それは学べば誰もが使える属性の魔法と別に…、相伝の魔法があるからだ。

 空間操作や肉体操作…、ジェイドの精神操作もそう。ディア家の場合、それが重力操作。


 この重力魔法が黒蛇病に有効だと解るのは、数年後のゲーム本編。


『アレクサンドラ、貴様を治療刑と処す!』


 グッドエンドの一つ。

 ヒロインである聖女を害したアレクサンドラは、その罰として黒蛇病患者を治し続ける事になる。

 一見悪くなさそうだけど、"労基"なんてものは存在しないし当てはまらない罪人だから、地下の牢獄で、一生太陽を見ることなく、吐いても、泣き叫んでも、倒れても、魔力を搾取され続けた。

 いつ死ねたかは、自分でも覚えていない。ゲーム内でも描かれなかったから。


「うーん。それ、どこで知ったの?」


 って僕が聞くのも滑稽な話だ。

 ゲーム内で治療刑を進言したのは、他でもないアレクサンダー大公。今の僕の体の、本来の持ち主さま。


 …思い出したら、殺意が湧いてきた。やっぱ今からでも拷問を受けに行こうかな。


「本です!本で読みました!」


 回帰前も、君はドヤ顔で公爵夫妻に言っていたが、正直無理がある。

 ディア家にある本はすべて夫人が記憶しているし、王宮の図書館で読みました!と誤魔化していたが、調べればすぐ解る話だ。

 回帰前、公爵夫妻は調べるまでもなくサーシャの嘘を見抜き…、そして


「なるほど。わかった。神の天恵だね。」


 こう解釈された。


「えっ…、ちが、本で…」


「えぇ?可笑しいなぁ?僕は王宮にあるすべての本を記憶してるけど、そんな記述はなかったよ?」


「ええ?!うそぉ?!」


 嘘に決まってる。まだ生まれて10年も経ってないのに、あんな膨大な量を読めるわけがない。


 チラッとジェイドに視線を寄越す。義弟、勘の良さの見せ所だぞ。


「は…、あ、ぼ、僕もディア家の本読んだよ!ついでにクラヴェルの本も!」


 クラヴェルもと来たか。やるじゃないか義弟。静かに泣く以外にも固有の特技があったとは。見直したよ。


 睨んでくるジェイドを無視して、僕は改めてサーシャに笑みを向ける。


「いやぁ、驚いたよ。

 まさかサーシャが神からお告げをいただいてたなんて?」


 これが一番無難なんだ。マヨネーズの開発やらなんやら、本では無理がある。早いうちに、神に乗り換えておきなさい。うちの神はオススメだよ。何てったって実態がない。


「………………夢で見ました」


 改宗完了。




 ということで、夫妻への説得もつつがなく完了。

 最初は半信半疑だった夫妻も、こんなこともあろうかと用意しておいた軽度の患者で試したことで、すぐに行動へ移してくれた。"備えあれば憂いなし"だね。協力ありがとうジェームズ。


 公爵夫妻は、現在ここより被害の大きい地区で治療に当たっている。


「本当に良かった…。」


 トーファー邸を後にし、サーシャは少し震えた声でそういった。治療前までは凛としていたのに、むしろ終えた後の方が緊張して見える。本当に可笑しな人だ。


「姉さま…、やっぱりもう少しくらい休んだ方が」


「大丈夫よ、ジェイディ。

 他にも患者さんはたくさんいるから。」


 夫妻の礼をしたいという言葉を固辞したのは、次の治療もある…と言うのとは他に、会うのが怖いから、というのが本音だろう。


『よろしければ、今度、娘にも会ってやってください。』


 トーファーとカタリナ夫妻。平民の二人には一人娘がいる。今は、倒れた二人の薬代のため出稼ぎに行っているらしい。名はクリスティア。この世界の主人公(ヒロイン)だ。






 サーシャがジェイドと共に治療へ向かった後、僕は別行動を開始した。


 ヒロイン(クリスティア)の魔力覚醒の阻止計画はサーシャのおかげで成功した。


「殿下。まだ試作段階ですが、お持ちしました。」


「ありがとう。

 公爵夫妻へは話を通してある。準備を進めてくれ。」


 ゲーム内にて、クリスティアは両親を失い、それをきっかけに光魔法を覚醒させる。

 その希少性を知らず孤児院で過ごしていた、ある日、森で怪我をしていた青年を治療したところ、学園から入学許可証が届く……。

 これがゲームのプロローグ。


「伝令です。国王陛下より、貿易基準について許諾いただけました。

 いつから施行するか、とのことです。」


 だからサーシャは、そのティナが両親を失わなければ良いのでは?と考えたのだろう。


「ご苦労。直ちにと伝えてくれ。」


 回帰前。サーシャはカタリナのことは助けられたが、トーファーは間に合わず。ティアは本編通り入学した。


 今回は両親共に救えた。シナリオが変わるかは…、9年後のお楽しみ。


「では、始めよう」


 ところで、黒蛇病は解決していない。


 僕は、治療の出来ない役立たずの子供だ。

 重い身分でわざわざ他人の領地に踏み入るだけで、誰も救うことは出来ない。

 けれど僕が倒れれば、ここにいる従者は全員処罰を受けるだろう。


 なのに、何故来たのか。


「僕がレクシーだから。」


 治療が出来ずとも、やれることはある。

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