水の記憶 60
サラシアナはルルを自身の光の中に取り込んだ。
「わっ、あったかい」
薄着で焼け出されたルルは、凍えた身体が柔らかなひだまりのような暖かさにつつまれてひと息をついた。
そして気づく。
「あれ?王女様に触れてる」
「同じようにファシル・アルド・バードの守護に入ったからでしょうね」
見た目どおりの可憐な水鈴ように透き通った優しい声がする。
ルルはその銀座をみて、好奇心をとめられなくなった。
「王女様の髪すごくきれい。触っても大丈夫?」
「もちろん」
優しく微笑まれて、手を伸ばそうとして、はっとした。
ルルのでは涙や鼻水や泥で汚れている。
じっと手を見ていたら、サラシアナがその手に触れた。
すると、まるできれいな水で洗ったかのように手がきれいになった。
ーこれが、
「水の子様のおちから」
つぶやくとサラシアナは苦笑した。
「ただの水の子よ。敬うべきはアクア・フィール様だけだわ。さあ、ルルのお母様に会いにいきましょう?」
「いいの?」
「マハトとも約束したから」
「お兄ちゃん!無事なの?お父さんも?」
ルルが大きな声を上げてしまうと、サラシアナは唇に人差し指をあてた。
ルルも慌てて両手で口をおさえる。
幼いその姿にサラシアナの顔がまた優しく笑う。
「ゾドは無事よ。井戸の毒は消したし、至福の森の魔女やアイオン兄様やアイリス姐様、ロレーヌ姐様も助けに来てくれてる」
そう微笑んで言うのにサラシアナは、どこか哀しげにアクアマリンの瞳をゆらしている。
ルルはなんとなく、薬の影響でぼんやりしていた馬車から聞こえた争う声を思い出した。
なんかお隣の大好きなシャナお姉ちゃんの恋人の声も聞こえていたような。
でも、ルルにはよくわからなった。
母に耳をすごい力で押さえられていたから。
「とにかく、いまは、ルルのお母様たちに会いに行きましょう。あっ、そうだ」
サラシアナは髪の毛を1本抜くとルルの左手首に巻いた。
そして、そのまま左手を清流のようにきれいな銀髪に持っていった。
見た目通りきれいなサラサラの銀色やわらかな髪。
「きれい」
そして、手首にまかれた銀の髪も。
「いまの私の髪だからどこまで役に立つかわからないけど。さあ、行きましょう。外では用心のために話さない様にね」
そう言うと、王女様はルルの手を引いて小屋の扉をあけた。
あんなに頼りなさそうだったのに。
ルルにはとても頼りになる背中にみえた。




