水の記憶 58
ファンたち3人がでて行くと、レディ・ミアは里長をみた。
「かの者たちは、この地に救いをもたらすでしょうか?」
レディ・ミアの期待に満ちた問いに、里長は首を左右にふる。
「アヤツはあくまで、古き光の国の王じゃ。ここ最近では、抜きんでた実力者ではあるが、聖王ラディオンの生まれ変わりではない」
「しかし、彼らはー」
「お主のいいたいこともわからぬではない。じゃが、まだまだ未熟すぎるアヤツも、その王女も」
レディ・ミアの水鏡には楽しげに笑う人間の子供と、同じく優しい微笑みをうかべている、金色の光につつまれた透明な姿が映っている。
狭間の民の里長とその血をひくレディ・ミアには、はっきりとその姿がみえていた。
レディ・ミアは、水鏡の下にやすらかな顔で眠っているようにしかみえないサラシアナを見つめる。
水の子の王女が生まれた、時に予感があった。
もっといえば、いま水鏡にうつるルルよりも、はるかに小さな幼子を、狭間の海から助けた時に、レディ・ミアの、狭間の海の里の時間は、ゆっくりと動き始めた。
それは、同時に狭間の海のしけも生み出して、最近はよりいっそう海は荒れている。
オークたちがやってきたのも久しぶりだった。
オークたちにとってみれば、ようやく手に入れた女たちだ。
次に海が凪ぐのはいつかわからない。
彼らはファンとの交渉に応じることはない。
血の匂いが闇夜に漂う。
オークたちが殺した人間たちの血が新たなる火種を湯よぶ。
「この血は、アレを呼びよせる」
「本当に彼を贄になさる気ですか?かの者はファシル・アルド・バードの国王ですわ」
「他に相応しい贄がいない。それにアヤツならアレを相手に逃げのびる可能性もある」
「まだ水の子の王女の方が、生存率は高いのでは?アレもアクア様を敵にまわしたくないはす」
「水の子の王女を贄に捧げることは叶わぬ。アクア様のお怒りをかい、アレには理不尽な怒りを呼び寄せるだけ」
里長はつまらなそうに眠るサラシアナを見つめる。
「そもそも、この王女は水の子としての力をこなしてはおらぬ。なぜ、アレらに魂をもって行かれた?なにゆえに、力もらなしに無能なモノを助けた?」
それは、レディ・ミアにもわからない。
彼女もまた、サラシアナの行動に戸惑った側だ。
彼女たちの理に同族を助けるという理はない。
弱肉強食があたりまえな自然環境において、弱き者は、食われ、生きたとしても、傷が原因となりいずれ死ぬ。
それが自然の理だ。
それを覆そうとして、サラシアナはいまこの様である。
レディ・ミアにも予想外なサラシアナの行動。
「王女の魂呼び戻すには?」
「さあ?わからぬ。王女自身がふたたび精錬の亡霊どもを導かねば叶わないだろう。しかし、この王女にそこまでの信念があるのか」
里長はじっと感情のない魚の目で水鏡の中のサラシアナを見つめた。




