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水の記憶 57


ファンに声をかけられて、おずおずとオークの少年が里親の家に入ってくる。


暗闇に光る金色の瞳がファンに見つめられ、怖じけづいていた。


ーこの人はなんか違う。


まぶしいくらいの黄金に輝く気配に、闇に属する少年が畏怖を感じて当然だった。


「さっきの水の王女様と、全然ちがう」


思わず言葉がもれる。


水の王女様は、魂だけということもあるだろうけど、なんだか頼りなかった。


けれど、目の前のこの人は違う。


圧倒的な存在感をいまなくそうともしていない。


ーこれが、ファシル・アルド・バードの国王。


古き光の国のー。


「キミからはサラシアナ王女の気配がするな。キミがサラを保護したのか?」


「保護?ただ。僕のいた小屋に王女様があらわれただけです」


カーグはいきさつをはなす。


「それで、王女様から言われて僕はここにきました」


カーグの言葉にファンは、レディ・ミアの水鏡にうつるルルとサラシアナをみせる。


カーグはルルの笑顔に頬を緩めた、


「よかった。ルル、笑顔だ」


「さっきのカーグの話だと、ルルはキミの番なのだろう?いいのか?」


ファンの問いにオークの少年は哀しげに目を伏せる。


「僕は、こんな残酷な方法で嫁取りが行われているなんて知らなかった。それに、ルルは幼すぎるから狭間の海を渡れないと言われてます。ここに残されてルルの心が壊れてしまうくらいなら、僕は番なんかいらない」


それに、とカーグは続ける。


「ルルのお母さんやここに連れて来られたルルの村の人達も一緒に解放しないと、やっぱり、ルルが哀しむ。僕はあの子の笑顔を守りたい」


「だ、そうだ。里長」


ぽんっと暖かくて大きな手がカーグの頭にのる。


続いてしわがれた声がする。


「そんな子供の言葉をオークどもが聞くとでも?」


「まあ、無理だろうな」


「じゃあ、聞くな」


里長のつめたい声にファンはうーんと背伸びをする。


そして、屈伸をした。


「まあ、こうなるとは思ったが。レディ・ミア。サラの安全は頼めるな?」


「王女だけなら」


「十分だ。里長、狭間の海の里の外なら文句はないな?」


「…アレを呼ばぬなら。もし、呼び込んだらそなた自身が贄となり鎮めよ」


「まあ、呼んだら呼んだで考えるさ。じゃあ、カーグ、キミはいまから我が国、ファシル・アルド・バードが保護する」


「えっ?」


驚きの声にだしたのはアーゼルで、カーグはじっとファンをみた。


「我がファシル・アルド・バードの至福の森には、オークとその番の人間たちが住まう村がある。キミにはそこに住んでもらう。それが、ルルを助ける私からの条件だ」


「僕は彼の地のオークだよ?」


「我が国の王族は、自分たちだけが光の王族でないことを理解している」


ファンの言葉にカーグは泣きたくなった。


きっと、幼い頃からの疑問の答えをいまきいた。


ぐすんと鼻を啜りながら、カーグは頷いた。


「では、行こう。アーゼル王子、一度外の兵士たちのところに戻る。あと、ゾドからピルを呼び寄せる」


「それはー」


「カインたちを失っているからな。ビルがいてもおそらく厳しい戦いにはなるが」


話し合いが一番だがー。


そう鋭くつぶやく瞳が、決戦をつげていた。

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