水の記憶 56
ファンから口にでた質問に、真っ先に異議をだしたのは、アーゼルだった。
「まってくださいファン殿。サラではなく、ゾドの女性たちを優先するのですか?」
「王族は民を守ってこその、王族だ?違うか?アーゼル王子?」
「ーっ、それは、そうですが、でもサラシアナの方が命に関わるのでは?」
アーゼルはぐったりと力なく目を閉じて、淡い金色のひかりに包まれているサラシアナを見る。
確かに、顔色もわるくなく、ただ眠っているだけにも見えるけれど、
「古の精霊たちにひきこまれたのでしょう?」
「きみがサラを心配するのは当然だが、いまはサラシアナ王女より、ゾドの女性たちの方が問題だ。先ほど、サラが力を使ったせいで、狭間の海が荒れている。オークたちは出立を急ぐだろう」
「しかしー」
なおも言い募るアーゼルの肩を優しくぽんっとファンは叩く。
「サラシアナ王女なら、しばらくは大丈夫だ。私が渡したドワーフの指輪と、ここにいるレディ・ミアが守ってくれる」
「レディ・ミアが?」
サラシアナの脇に膝をつきすわるレディ・ミアを疑わしくアーゼルはみる。
カインたちが元凶だといえ、レディ・ミアこそいまのサラシアナをうんだ張本人だ。
「まあ、私のミスですもの。貴方がドワーフの指輪を渡していて助かったわ。光の国王なら水の子の王女に、何かしらの守護を施してるとは思っていたけど、まさか、ドワーフの指輪を渡していたなんてね」
「最大の守護だっただろう?」
「彼女は意味を知ってるのかしら?。まあ、知らなくても指輪に選ばれた以上は、どうにもならないわね。相変わらず食えない男だこと」
「ふむ。褒め言葉として受け取ろう」
「褒めてないわ」
レディ・ミアは嘆息すると、茶褐色の薄い鱗に覆われた手を伸ばして、サラシアナの額に触れる。
小さな声で、何事かを口の中でつぶやく。
そして、首を傾げた。
「あら?サラシアナ王女の魂は、もう目覚めているわ。近くにー、えっ?人間の子供?」
サラシアナの額に置いたレディ・ミアの手の上にまん丸い水鏡が現れた。
そこには金色の半透明なサラシアナの姿と幼いゾドの少女が映っていたが、
「えっ?サラ?ゾドの子だけでは?」
アーゼルが不審げにレディ・ミアをみる。
なるほど、アーゼルにはサラシアナをみることはできないらしい。
ファンが補足しようとした時、
「よかった。ルル、笑ってる」
つぶやくような声が窓からきこえた。
当然、ファンも里親もレディ・ミアも気がついていたが、アーゼルだけが反射的に振り返って、剣に手をやる。
それを今度こそファンが力強くおさえた。
「狭間の民たちの理をおかすな、アーゼル王子。私でも次はかばいきれない。それに、相手は子供だぞ」
「子供?あれをそう呼ぶのですか?」
「子供だよ。我が国からしてみたらな。きみは、誰だい?」
ファンは窓の外にいたオークの子供、カーグに優しく笑いかけた。




