水の記憶49
ファンとサラシアナとアーゼルだけが、集会所の外にでることをゆるされた。
アーゼルは部下にカインたちの身柄を守るようにいいつけたが、
「決して剣は抜くな。例えオークどもが襲いかかってきても抜剣は許されない。狭間の民の理に今度こそ反することになる」
「アーゼル王子。貴殿の騎士を信じないわけではないが、剣は私がゾドにいるビルにおくる。君たちは立派な騎士だ。目の前でオークに女性が襲われたなら必ず剣を抜くだろ。だが、ここでは許されないし、安心しろ。オークたちも狭間の海では女性たちに危害はくわえられない。何より、いま彼らは先ほどの殺戮で血の匂いをぷんぷんさせているはずだ。女性たちは狭間の民に託しただろうが、今ごろどこかで血の匂いを消すのにやっきになっているだろうから」
「その間に我々は狭間の民の族長と交渉するというわけですね?」
「ああ、そうだ。サラシアナ王女がこうなってしまった以上、私とアーゼル王子だけで交渉する」
剣をこちらに、と言われてシャンフィールの精鋭たちは素直に剣をファンにわたす。
ファンはかぶりを振った。
「私の言い方が悪かった。武器はすべてだ」
その言葉に軽く騎士たちの間に動揺がはしる。彼らはアーゼルをみた。
アーゼルはただ頷く。
ファンの近衛騎士であるビル・ホークも帯剣しているが彼は魔法が使える魔法騎士であり、ファン自身も魔法がつかえる。
剣はあまり必要ないが、他国の騎士のあり方は知っていた。
なにしろファシル・アルド・バードの重要な諜報員である精霊たちはファンには口が軽い。
その国に行けばその地の精霊たちと戯れながら、簡単にその国のトップシークレットが手に入る。
先ほど聖域でサラシアナを休ませていた時にそれとなくききだしていた。
騎士たちの靴などに隠している武器を、差し出すようにうながす。
食材確保のための小さなサバイバルナイフですら許さなかった。
「君たちの武器は使用された過去がある。もちろん人間やオークだけでなく、狩猟のために使われたものもあるが、一度つかうとどうしても血の匂いがのこる。
アーゼル、君の剣は新調されたばかりだな?」
ファンの言葉にアーゼルは頷いた。先のオークとの小競り合いで相手に力負けして刃がかけたのだ。その時はオークは少数で騎士たちの数が多かったからなんとかなったが。
たまたま、巡回していた辺境の騎士がオークをみつけたのだ。
まだ村を襲う前で、人質もいなかった。
ーあの件を踏まえてのゾド襲撃だったかもしれない。
族長の話では見事な奇襲だった。
アーゼルなら追いかける指示は出さないはずの、完璧な奇襲。
たが、狭間の民の里に響く狂った嘆きを見過ごすわけにはいかない。
目の前にはここまでアーゼルたちを導いてきた他国の王がいる。
本来なら指揮をとるべきなのはアーゼルだ。
そして、
シャンフィールにとって宝ともいえるサラシアナを守るのも。
ぎゅっと拳を握り込んだアーゼルに、ファンは優しく言った。
「君だけの責任じゃない、アーゼル王子。だが、なんだか嫌な気配を感じる。はやくケリをつけよう」
そして、レディ・ミアに言う。
「案内を」
今度は争わずくるりと背を向けるとレディ・ミアは集会所をでていく。
サラシアナを抱き上げたファンとアーゼルがあとにつづき、残された騎士たちの間には、自然とため息がもれた。
ファンとレディ・ミアの存在感に威圧されていたのだ。
ひとりの壮年の騎士がつぶやく。
「アーゼル王子の騎士でよかった」
ファシル・アルド・バードの国王は彼らには人間離れしてみえた。




