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水の記憶48


ファンの顔をアーゼルは驚いて見つめる。


ぐったりと気を失っている異母妹はそれでも苦しげな表情ではない。


むしろ深い眠りについているような穏やかな表情だ。


ファンがアーゼルの言いたいことを察してもう一度、かぶりをふった。


そしてファンが抱きしめていたので、アーゼルたちからはいまで見えなかった方の身体をしめした。


だらんと力なくたれる左手の薬指にある金色の輝く指輪。


その指輪を中心によくみればサラシアナの身体を薄い金色ね光が朝日のように包み込んでいた。


「至福の森のドワーフたちが、神々に守られし光の鉱石を使ってファシル・アルド・バードの王家に子供が生まれる度に作る光の指輪だ。サラシアナに万が一のために渡しておいてよかった。今回は予想外の使い方になったが、サラの魂は病んだ精霊からかろうじて守られているはずだ」


指輪はオークに対する保険だったのに。


狭間の民はサラシアナを襲わないと油断していた。


けれど、結果的にはサラシアナを指輪は護っている。同じく左手の親指にはめたファンの指輪がサラシアナな無事を教えてくれる。


ーいや、無事とは言い難いか。


水の女神と指輪の加護があっても、はるか古より歪んでしまったこの地の精霊たちをあんな形で起こしてしまった。


ファンは自分の未熟さに腹が立つ。


目先のことだけしか考えずにとっさにサラシアナに指示していた。


一度闇に落ちた精霊たちを呼び覚ます危険性を幼い頃から嫌というほど、たたきこまれていたのに。


あのデタラメな師ですらその話をする時は真顔だった。


ーよいか、ファン。お主は歴代のファシル・アルド・バードの王子の中でも、稀にみる純粋な光の魂の持ち主じゃ。


珍しくしわしわの手で優しく頭をなでられた。


そうだ、あの頃はまだネルフィスの方がファンより背が高かった。


それくらい幼いころより、


ーいつかその正義とたゆまぬ努力をした自信ゆえに過ちわ犯すこともあるかもしれん。じゃが、決して忘れてはならぬ。光の国王は精霊たちの王でもある。どんな犠牲をだそうとも精霊たちは愛すべき友だということを忘れてはならぬ。


そして、魔女は古き契約に縛られているが自分は違うから、もしも助けが必要なら必ず呼ぶようにー。


ーいや、まて?


そこでハタッと我に帰る。


ネルフィスに頼る?


「いや、ありえないだろ」


ヒズならともかく、事態がこれ以上悪化するのは避けたい。


大きく息をはきだした。


愛しい少女とカインたちは無事だ。いまは、まだ手遅れな状況ではない。


ー焦るな。狭間の民に隙を見せるな。私はファシル・アルド・バードの国王、ファン・ファラシスだ。


ー胸を張れ、堂々と。


ぐったりとしたサラシアナを両手でしっかりお姫様抱っこをすると、ファンは鋭い瞳をレディ・ミアにむけた。


「サラシアナを安全に休ませられる場所を提供してもらうぞ、レディ・ミア。先ほどの件は貴方にも責任はある。カインたちは剣を抜いただけで狭間の海を血で汚したわけじゃない」


ファンの言葉にレディ・ミアは舌打ちをする。


「相変わらず食えない男ね。本当にかわいげのない一族だわ。確かにサラシアナ王女は我らが敬愛すべきアクア様の愛し子。保護します。でも彼らはー」


「カインたちはこのままでかまいません。妹の保護を感謝します。レディ・ミア」


ファンのかわりにアーゼルが頭を下げ礼を伝えた。

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