水の記憶46
ファンの指示に反射的にサラシアナは動こうとしてカインたちを包む霧のようなものに意識を集中した。
「えっ?」
戸惑って霧のようなものを見つめる。
サラシアナの意識はなんの手ごたえもなく霧を素通りしてしまった。
ーなんで?
霧のようなものは得体はしれないが霧の一種だとサラシアナにはわかった。
ふだんから空気には水分が多少なりとも混ざっている。
だからこそ水の子である自分は空腹を覚えないはずなのに。
霧は空気より水が多いはずなのに。
なんの反応もなかった。
いや、違う。
いつもなら当たり前のようにサラシアナを見守る精霊たちがいない。
彼らのサポートなしにサラシアナは自ら水の子としての力を使ったことがないのだ。
そもそも自分自身のためにもサラシアナは水の子の力を使ったことがない。
他の誰かのために使ったのはゾドにきてからだ。
荒らされ荒んだ空気には微かだが古からからゾドの地に存在している精霊たちがいた。
彼らのサポートがあったからサラシアナは動けた。
けれど、
ーここには精霊たちがいない。
生まれてからずっとそばにいた気配を感じない。
サラシアナの常識ではありえない場所。
目の前でダラリとカインの身体からすべての力が抜けて倒れ込む。
青ざめた苦しげに歪んだ顔のまま。
どうにかしないといけない。
それだけはわかってた。
けれど自分の意思でだなんてどう動けばいいかわからなかった。
いくら気配を探っても精霊たちの存在はわからない。
かわりに響く幼い少女な泣き声にゾドのマハトを思い出す。
そうだ。約束をしたのだ。あの時に。
頑張ると。
諦めちゃダメだ。だけど、どうすれば?
ぎゅっと唇を噛み締めた時、力強く肩を抱き寄せられた。
「大丈夫だ。まだ間にあう。カインたちをキミの清浄な水で凍らすんだ!はやく!」
サラシアナ自身には落ち着けと言いながらも、ファンの珍しく焦った声に今度こそ反射的に従う。
ーお願い!私の願いを叶えてください。
全身全霊でカインたちを凍らせて欲しいと強く願う。
「違う!命じるんだサラ!精霊たちを、この地の歪んだ水をカインたちの周囲だけでいい。私が助ける導け!」
ファンの力強い意志をもつ声が頭の中に金色の輝きをもって響く。
迷うことはなかった。
なぜか、その瞬間にわかった。
「古き理の元に水の女神に愛されし水の子である私、サラシアナが命じます」
ー凍らせなさい!
最後は声すらでないほどに強く明確な意志をもちサラシアナは命じる。
命じた言葉が銀光の輝きを刃にし、カインたちを包み混む霧を引き裂く。
と同時に華奢な少女の身体から、まるで霧の中にいるカインたちのようにダラリと力がぬけて肩を抱いていたファンの腕の中に倒れ込んだ。




