水の記憶43
ファンはたちが案内されたのは、村はずれにある集会所だった。
その間もどこからか狂ったような泣き叫び声が村中に反響している。
流行る気持ちを落ち着けてカインは、ファンとアーゼルをみつめていた。
自分が交渉ごとにむいてないのは、わかっている。
ただ、いまだにぐったり目を閉じている異母妹が気にはなる。
カインの視線に気づいたのか、ファンの腕の中でサラシアナがかすかに身動ぎした。
「…んー」
アクアマリンの瞳がうっすらと開いて、ちょうど、響いた狂った悲鳴に、しっかりと瞳が見開かれる。
すがるように手を伸ばした先には、当たり前にファンがいて、怯えてすくんでしまった少女の身体を柔らかく、優しく、大きな腕で抱き寄せた。
「目覚めたのか、サラ」
愛しそうに、自然な仕草で清流のような銀髪に唇をよせる。
「…ファン様?ここ…は?」
可憐な声が今度は不思議そうにきく。
精霊たちの声が、気配がしない。
アクアフィールの加護がある少女には、
当たり前な存在の気配がない。
そして。また響く悲鳴。
思わず耳をふさごうとする手をファンがとめた。
それで、理解する。
「…狭間の海に着いたのですか?」
「ああ、一応、間に合った、のか」
悲鳴には正気を感じられない。
悲痛な叫びは、この集落以外からもきこている。
「やはり、貴方にはきこえるのですね」
くぐもった、けれど高く響くような声がした。
そちらに目をむけるとマントを羽織りフードを目深くかぶった、
「…貴女は?」
ファンよりも背が高いが、なぜだかサラシアナには女性だとわかる。
マントの女性が嬉しげに笑った。
「さすがは水の子ですわね。どこぞの国王と違って、私の性別をすぐにあてる」
「その件は謝っただろう」
「歴代のファシル・アルド・バードの国王から謝罪をされ続けているわ。本当に学ばない国ね、あなたの国は」
トゲを含んだその声に、なぜだか親しさも感じられ、サラシアナは無意識にそっとファンの手を握る。
すぐに軽く握り返されほっとした。
「彼女はレディ・ミア。狭間の民の族長の孫だ。唯一、私の相手をしてくれる」
「私だって、相手にしたくないわよ。けど、拾った以上、責任とらないといけないでしょ。まさか、ファシル・アルド・バードの王子が狭間の海で溺れてるなんて思わないもの」
「文句はネルフィスに言ってくれ。私だって、まさか泳ぎを教わるのに、いきなり至福の森から狭間の海に瞬間移動で叩き落とされると思わないだろ?しかも、私は3歳だった」
「それで、アレより先に私に見つけられるんだから、本当に悪運強いわよね」
呆れ果てた言葉にアーゼルたちは唖然としている。
狭間の海に3歳でいきなり落とされる。
考えただけで、ぞっとする。
「ネルフィスって、ヒズの旦那様ですよね?」
いつも魔女が文句を言っているが、シャンフィールを出たことがないサラシアナは、会ったことがない。
ファンは肩をすくめた。
「私の師匠だ。色んな意味でヒズがまともに思える老妖精だ」
ー詳しく聞くのはやめよう。
アーゼルとカイン、シャンフィールの精鋭騎士たちはそう思った。




