水の記憶42
狭間の海には、結界がある。
彼の地と光の大陸をわける場所。
不可侵条約の場所。
ならばなぜオークが狭間の海からやってくるかと言えば、
狭間の民が賄賂を受けているから。
ただ、それだけ。
狭間の民が嫌われている理由でもあるが、彼らには真っ当な収入がない。
それが、理由。
そして、それでもオークたちに女子供を連れさらわれた者たちに怒りはかう。
その襲撃を防ぐ結界。
その前で馬を止めると結界にファンは触れた。
光とともに鮮血が溢れて文字を刻む。
しばらくして、結界の向こう側にマント羽織りフードを目深くかぶった大柄な陰が現る。
マントの人物は、ファンを認めると大きく舌打ちをした。
ファンは苦笑する。
「おいおい、久しぶりなのにひどいな」
「ファシル・アルド・バードの国王がわざわざオーク退治か?」
返ってきた言葉は、ややくぐもって聞こえにくい。
「ああ、用件がわかってくれてるなら話は早い。オークたちにあわせてくれ」
「断る」
狭間の民の声にカインが声をあげようとするのをファンは制し、無言のまま馬上を示す。
マントの人物が明らかに動揺した。
「なぜ。サラシアナ王女いる」
「用件は私と同じだ。ここまで、無事に私が連れてきた。どういうことかわかるな?」
「馬鹿な!アクア様がお前を狭間の海に入れろと言うのか?」
「信じないのか?」
ファンは鋭い眼差しに力をこめてマントの人物を見る。
マント姿の者の目は何度もファンとサラシアナを行き来し、最後にアーゼルたちにも目をうつす。
そして、小さく毒づくと結界を解いた。
「入れ。だが、オークとの戦いは許さない。狭間の海に血は流すな」
「わかってるさ」
「お前ではない。そいつらだ。ファシル・アルド・バードの王族にわざわざ言うと思うのか?」
「シャンフィールの我々も一応理解はしてますが」
アーゼルの言葉にカインもうなずく。
狭間の海に血を流してはならない。
「ならば良い。血はアレをよぶ。身の保証はできない」
例え、アクアフィールの愛し子でも。
マントの人物は踵を返す。
「馬はここに置いていくしかないな。アレの気配に敏感だろう」
ここまでありがとう、待っててくれと、黒馬からファンはサラシアナをだきおろした。




