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水の記憶28


なぜか視線をそらしてしまったファンを不思議に思いながらもサラシアナは自分と同じようにファンをみつめているマハトに気が付いた。


「傷は痛くない?」


そっと手をのばして包帯に手をふれるとシャンフィールの民に多い茶色の瞳が少女をみつめた。


涙をみせまいとぎゅっ掌を握りこんで唇をかみしめるその姿に、サラシアナはさきほどファンやビルがしたように膝をおり視線を少年とあわせた。


「・・・頑張るから」


それしか口にできない。


ファンのように守ると口にはだせない。


王女としての教育はヒズからずっとうけてきたけれど、はっきりとその責務を認識したのはついさっきで。


しかも水の子としての力を自分以外のために使ったのも初めてだった。


ファンは水の子としてのサラシアナが必要だと言ってくれたけれどサラシアナは自信がなかった。


ーでもやらなきゃ。


水の子して役に立つなら。


何よりも王女としてやらないといけない。


ビルと一緒に現れたアイオンはともかくふたりの姉たちはゾドの村の様子に顔色一つ変えなかった。


それはいままでも何度もこういう場面に立ち会ってきたのだろう。


それを当然の義務として。


「-うん。待ってる」


ごしごしと乱暴に腕で涙をふくとマハトはサラシアナに頷いた。


その様子にほっとしてもう一度その頭をなでて立ち上がる。


ー必ずこの子の大切な人たちをつれもどそう。


「しっかりご飯も食べてね」


ライザの炊き出しを示すとこっくりとマハトはうなずいて素直にお椀をうけとる。


すると横からライザの用意した新しいお碗をうけとる手があった。


みればビルに呆れられながらファンが受け取ってる。


「仕方ないだろう。ずっと腹が減っていたんだ。屋台ではいいにおいだけで結局食べられなかった。腹が減っては戦もできないというだろ?」


そういえばオークの肉騒ぎで何も口にしてない。


サラシアナに出会ったときもファンはお腹を減らしていた。


「サラ、君もたべるだろう?」


「いえ、私はいりま・・・むぐ」


断ろうとしたサラシアナの口に強引に匙で口にスープが入ってきた。


結構熱い。


むせそうになるのをなんとかこらえる。


「だからきみは小さいんだ。しっかり食べないと大きくなれないぞ」


したり顔で頷くファンに抗議しようと口を開いたら今度は具材をたべさせられた。


苦い薬草の香りに今回は堪えきれずに思わずむせてしまう。


「まあ、王女の口にあう料理ではないだろうな」


言いながら残りをあっというまに食べてしまうとサラシアナの前に小さな赤い木の実を差し出してきた。


「これから長い時間馬にのる。シリウスはあまり揺れないがふつうの馬はかなり体力を使うし揺れる。さらわれたものたちのことを思えばかなりの速度で追いかけ目必要がある。これはファシル・アルド・バードの酔い止めによく使う木の実だ。食べておくといい」


「・・・ありがとうざいます」


なんだかいろいろと言いたいことはあったけれど、そんな暇はないと思いなおし素直に木の実を口にする。


噛まずに飲み込んだので味はわからなかった。


「それと、念のためこれももっていてくれ」


ファンは自分のネックレスを首元から取り出すと金色の鎖につながられていた二個ある指輪のひとつをサラシアナ差し出した。


「わがファシル・アルド・バードの王家に伝わる光の指輪だ。光の加護が受けられるしどこにいてもお互いの指輪の所在が分かる。きみのそばをもちろんはなれたりしないが万が一ということもある」


そういうとサラシアナの左手を取って薬指に金色の細い指輪を通す。


サラシアナの華奢な指には大きすぎるように思うが指輪は指にはめると自然と形を変えてサラシアナの指にちょうど良いサイズになった。


その様子に満足そうにファンは目をほそめる。


「けっこう似合うな」


太陽のようにきらきら光る指はサラシアナ華奢な指にもよく似合っていた。


そして残りのひとつを自分の薬指にもはめる。


こちらは変化もなくシンプルにファンの剣を握る武骨な指になじむ。


「オークたちは光が苦手だ。指輪自身が君から離れることはないだろうからきみを守ってくれるはずだ」


まるで生き物のように指輪の事を言う。


「時間がいからそろそろアイゼン王子と出立しよう。行くぞ、サラ」


サラシアナが呆気にとられて自分の左手をみているとその手をファンが握った。


反射的に握り返し引っ張られながら慌てて振り返る。


「ご、ごちそうさまでしたライザさん。お兄様、姉様、また後でお話します」


同じ様に目を丸くしている兄姉に言うと立ち直りがはやい姉たちは軽く手を振ってくれた。


「気を付けてね」


「無事をいのってるわ。こっちのことは心配しなくていいから」


その言葉に頷き返しながらファンについてく。


迷いなく進むその背中に。



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