水の記憶26 赤子
すいません 間違えてました
ビルの転移魔法で転移した先は想像よりも落ち着いていた。
まだ煙はくすぶり焼け焦げたにおいはのこっているものの、人々は積極的に身体を動かしケガ人の手当てや炊き出しが行われている。
「これは・・・」
第一王子のアイオンが目を瞬く。
いままでもオークに襲撃された村を訪れたことはあるが皆絶望に打ちひしがれて動けないでいた。
女子供を連れ去るだけでなくオークは井戸に毒を放つ。
何よりも生命の源である水を立たれることが絶望となって民を脅かす。それなのに。
桶にきれいな水がなみなみと継がれ人々にまわされる。
ふとみると簡易のテントが張られそこが医療施設になっているようだ。
村の中央には焚火に大きな鍋で炊き出しが行われている。
その炊き出しのまえにいる老婆と赤子を抱えた銀糸の髪を持つ華奢なその姿にわが目を思わず疑う。
「サラシアナ?」
第一王子の自分にとっては、妹でありながら許嫁のような存在。
身内でありながら生まれてからその姿をみたのもほんの数えるほどの水の子である姫。
あまりに存在が遠すぎて信じられないアイオンの隣で腹違いの双子の妹アイリスとロレーヌが反応した。
「サラシアナ!?」
その声に慣れぬ手つきで赤子を抱っこしていたサラシアナがこちらを見やる。
遠目にもわかるアクアマリンの瞳がわずかにほころんだ。
「お姉様、お兄様、ビルさん」
可憐な声がほっと安堵をあらわしていた。
その妹にバダバタと王女にしてははしたなく双子の妹たちが駆け寄っていく。
「サラ、大丈夫?」
「カインから話を聞いた時はまさかと思ったけど、本当にゾドに来ていたのね」
心配する姉姫にサラシアナ穏やかに頷いた。
「はい。ファラシス様にお連れ頂きまた。…間に合いませんでしたけど」
悲し気に腕に抱いた赤子をみつめるサラシアナの隣で老婆がとんでもないと声をだす。
「そんなことはありませんよ。王女様がいなかったら、いまでも井戸は使えずこの子はお腹がすいて泣き疲れて熱を出したか、衰弱していたはずです。あなた様とファシル・アルド・バードの国王様は私らに希望をくださった。そんなことはおっしゃらないでください」
「私は何も・・・。ファラシス様が水の子として、王族として導いてくれたから・・・」
自分からこの力を役立てようとしたわけじゃない。
道しるべをくれたのはファンだ。
そっと瞳をあげてその姿を探すと医療テントの中からちょうどファンが出てきた。
「移動魔法の気配を感じたが・・・。ああ、やっと追いついたかビル。それに、アイオン王子。この前の大陸会議以来かな?カイン王子、王女様方も遥々ご足労頂き済まない」
鋭く大地色の瞳で一行を見渡し最後にサラシアナの腕に抱かれた赤子をみる。
「ようやく落ち着いたようだな」
少女の腕の中で赤子はスヤスヤと眠りに落ち着いていた。
その安心した寝顔に鋭い瞳がふと和らぐ。
サラシアナも微笑んだ。
「はい。食欲はあるようで聖水を二瓶飲み干しました。ライザさんが炊き出しをされている間もとってもいい子で・・・」
「そうか。赤子は眠ると重くなるだろう」
そういうとファンは華奢な少女の手から赤子を抱きとる。
その手慣れた態度に目を丸くする少女に苦笑した。
「私は独身でビルにもまだ子はないが。私の友人たちはもう既婚者も多くて子供もいてな。生まれるたびに呼ばれて、子供はかわいいからはやく結婚しろと家臣たちもうるさくて。こっちは若くして王位を継いだせいでそれどころじゃないというのに。文句は私が相手を決める前に退位して行方をくらました先代に言ってもらいたいんだが」
「先代がいても貴方は女性よりもシリウスに夢中でしたよ」
横からビルが赤子を抱きとる。
「宰相様や他の大臣方がご令嬢を紹介しようにもすぐにシリウスで天に駆け上がってしまう。さすがに空に逃げられては追いかけようもありませんよ」
「そうか?お前の相手なら空まで駆け上がってきそうだが」
「私のリタなら逃げる前に矢が飛んできます」
「なるほどな」
天にかける前に射落としてしまえばいいと強気に笑う姿が容易に想像できる。
そしてマジマジと目の前の中性手的な自分の相棒を見返した。
「何ですかその目は」
「いや・・・」
つくづく目の前の男の趣味は変わっていると実感しただけだ。
自分もリタには好意は持てるがあくまでも友情としてしかみれない。
(まあ、確かに出るとこはでてスタイルは抜群なんだが・・・)
目の前にいるマント姿の華奢な少女はリタくらいの年齢になったとしてもスタイルに期待は持てそうにない。
「きみはもっと食うものをきちんと食べるべきだな」
「えっ?」
「なんですかやぶからぼうに貴方は」
ビルが胡乱気に主をみる。
なにやら真剣に考えているがこの主はたまにろくでもないことを真剣に考えてることもある。
「いや、リタの性格やらは私の好みではないが彼女のスタイルは魅惑的だ。出るとこはでているし、サラがリタの年齢になっても今のままではぺったんこーぐえっ!」
思いっきり臣下から頭をはたかれへんな声をだすファンを冷えた瞳でビルは見た。
「あなたは人の妻をどういう目でみてるんですか。それに一国の王女に対してなんという口の利き方です?」
「いや、どうみてもサラは華奢だろう。14歳にしても華奢すぎる。このまま、成長してくれなければ困る」
「どうしてあなたが困るんですか?」
心底あきれたビルの言葉にファンは真顔でサラシアナをみる。
「二年はちゃんと待つ」
「えっ?」
唐突な言葉にアクアマリンの瞳が瞬く。
「だが三年は待てない」
二年とか三年てなんのことだ。
「この国で成人になる16歳まであと二年だな?」
確かにいまサラシアナは14歳だ。
シャンフィールの成人年齢は16歳。
確かにあと2年あるけれど、それが一体何だというのか。
「あと2年でそのぺったんこな胸を育ててくれ」
巨乳じゃなくてもいいから、せめて人並みにーと言われたとき、人生で初めてサラシアナは人の頬を叩いていた。




