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水の記憶 23 王の鉄拳

 

天馬シリウスが、王城の市に突如として現れ、青年とマントの少女(おそらく)とウサギを一匹乗せて、天高く舞って去っていったとの情報が謁見の間に知らされたのは、ほんの数刻後。


国王が護衛にと探しに行かせたカインが情報をもってきた。


「市でオークの肉を売っていたのですか?」


話をきいてビルが明らかに嫌悪を浮かべた。


その意味をシャンフィールの国王は正確に理解している。


「わが国では禁止にはしておらぬ。国の一部には狭間の海もある。我が国への襲撃も増えてきておる。はっきり言おう。我が国でのオークは害獣以外何物でもない」


「・・・そうでしょうね」


至福の森のオークを知っているファシル・アルド・バードの民とは違う。


実際に実害が出ているならなおさらそうだ。


むしろこの件については、『光の大陸』においてファシル・アルド・バードだけが特異なのだ。


ビルはそう理解しているが、嫌悪感が顔に出てしまっていた。


「天馬シリウスはいったいどこへ?娘が王城に戻った様子もありません。国王様と魔女様はサラシアナをどうなさったのですか?」


先ほどよりいっそう青ざめてしまった王妃にビルは考える。


「おそらくですが、最近オークに襲われたというゾドの町に向かわれたかと」


「サラシアナを連れてですか!?そんな!あの子にそんな環境が耐えられるはずがないですわ。国王陛下、すぐに上級魔導士を呼んでくださいませ」


はやくとりもどさないと、と王妃が半狂乱になる。


こんな聖域で守り育てられたサラシアナが、いきなりそのような場所に駆り出されて平気であるわけがない。


取り乱す王妃を横に国王は、ビルをじっと見つめた。


「そなたの転移魔法でゾドの村まで何人までつれていける」


ビルは冷静に国王の紫色の瞳を見つめ返す。


「地理に詳しい魔術師の補佐があれば、三人でしょうか」


「その人選は?」


「オークに襲われたとなれば医師、薬師、魔術師ですね。薬師と魔術師は女性のほうがいいかもしれません。オークは男の幼子は捨て置いたでしょうから保母的な役割も必要です」


「そうか・・・。医師はこの国の第一王子が勤めよう。薬師は同じく第一王女が学んでいる。魔術は少し頼りないかもしれないが第二王女を補佐にまかそう」


「父上それでは、高位王族すべてではないですか。たかが、オークが村を一つおそっただけですよ。サラシアナを保護してしまえば」


カインがそう発言すると、その頬を国王は握ったこぶしでおもいっきり殴り飛ばした。


「いまお前は何と言った?」


かつてないほどの怒気をはらんで、国王がカインをみていた。


口の中が切れ血の味がする。


「水の子であるサラシアナの保護を第一にーげふっ」


さらに今度は腹にもう一発力いっぱいこぶしが入った。


老いてきたといえ国王だ。


もしもしのための日々の訓練は絶やしていない。


「むだに軍隊や市井で遊んでるなとおもっていたが、これほどまでとはな。よい機会だ、ビルどの、申し訳ないが、これも付け加えてくれ。あと王妃、相手はオークだ。その現状を我らの王女は目を背けてはならぬ。たとえサラシアナが水の子でも」


半狂乱の王妃の顔を両手で優しく挟み、青紫の王家の瞳をしっかり見つめ返す。


徐々に王妃の瞳から狂気がうすれていく。


「・・・私は足手まといですわね。王子と王女、それに騎士様にお任せします」


シャンフィールの国、王家にとってなによりも民はまもらなくてはいけない存在だ。


村一つだって、たかがなんてありえない。


「カイン。お前はファン・ファラシス国王のところで学んで来い。真の統治者とはなんなのかを」


静かに王はとくとカインを放り出し、ビルと必要なものなどの話し合いにはいっていく。


呆然とするカインの肩を、そっと王妃が優しく抱いた。


「カイン。水の子はねとても大切な存在よ。我が国にとってとても。でもだからといって、国民の不幸を放っておいて優先されるべき存在じゃないのよ本来は」


「けどサラシアナは、臆病でいままでだって公務にすら・・・」


「そうね。それは私と陛下が本当に甘やかしすぎてしまったわ。でもこれからすすむあの子の道がどんなもになろうとも、自国の村一つも救えないなら水の子でいる価値はあの子にないわ」


つい先ほどまでの娘を溺愛し心配していただけの王妃はもうそこにはいない。


ふだんは優しい青紫の瞳もきつくビルをみつめている。


「なにをしているの。さっさと旅支度を、そして現状把握を誰よりも早くなさいカイン」


背をたたかれ訳も分からぬままカインは旅支度をするために駆け出した。


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