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水の記憶 20 水の子の価値

 

その祝福は意図せずシャンフィールの国王に謁見することになっていたビルにも届いていた。


むしろファシル・アルド・バードの民であるビルの周りには、祝福のつむしじ風がイタズラに金髪をまきあげていく。


王宮の中、それも謁見の間で風がまきおこるなどありえないのに。


ーオメデトウ。


ーオメデトウ。


ーヒカリノタミニ。


ーアナタタチノコクオウサマニ。


ーカワイイワレラガオウヒニ。


ーオメデトウ。


くすくすと祝福の声にビルはひきつった。


(精霊たちの祝福はありがたいけれど、これはちょと・・・)


目の前の厳しい顔つきの国王とはっきりと青いをとおりこして白いとさえいえる顔色の正妃に、おなじく色を失った顔のカイン王子。


精霊たちはそれでもビルにじゃれついている。前髪を風がまきあげていく。


視界がとぎれてたまらずビルは言葉をだした。


「ちょっと、まってくれ。まだ、私の国王のお相手はきまっていないはずだ」


ーオメデウ。


ーオメデトウ。


ーヤットデアッタ。


ーワレラガヒカリノオウジノタンジョウニ。


ーオメデトウ。


その言葉にはっと息を飲んだのはビルではなくシャンフィールの国王だった。


「光の王子・・・」


呟くように小さくもれたその言葉にビルを取り巻いていた春風がさあっと吹き抜けていく。


精霊たちにとってファシル・アルド・バードの民は友人だが、それ以外の人間には興味がない。


むしろ嫌っている。


「言いたいだけ言ってまったくもうあの子たちは・・・」


みだれてしまったたたずまいを軽く直し改めてシャンフィールの国王にビルはむきなおる。


その緑色の瞳を国王は見つめなおすとひとつため息をついた。


「カイン、ロレッタを休ませてくれ。そして人ばらいを。私とファシル・アルド・バードの騎士殿だけにしてくれ」


「父上それは・・・」


「命令だ、カイン。ロレッタを頼む」


顔色の悪い正妃の姿にカインは言葉をのみこむ。


正妃を促そうとするとロレッタは首をふった。


「いいえ、私もここに残らせてください陛下。私はサラシアナの母ですもの」


「しかし・・・」


「大丈夫ですわ。母でもありますが私はこの国の王女でも有りました。生粋の王族でもの。王族の務めは理解しているつもりです」


青白い顔のままそれでもはっきりと言葉を口にする妻でもあり、妹でもある正妃に国王は迷う。


確かに王族として生まれた時から教養を授けられ、そしてまたその義務も責任も誰よりも理解している自分の最愛の存在だ。


そしてなによりもサラシアナを愛している。


それがこれからさきのつらい宣言になるのかもしれないが。


「わかった。ではロレッタを以外のものは退室するように」

ロレッタ以外の者たちが退室するのを見届けて改めて国王はビルに向き直る。


「説明をしてくれるな?」


国王の言葉にビルは正直に首を振った。


「もうしわけありません。私にもいま何が起こっているのかはわかりません」


「では言い方をかえよう。私は今回のファン・ファラシス国王の訪問は花嫁探しの一環だと認識していたが違うのか?」


そのために光の大陸の各国を訪問しているという話だったはず。


ビルはうなずく。


「はい。たしかにわが国の国王は若くして国を継いだもので政務に忙しくそのため婚姻が遅れておりました。国内も落ち着き花嫁となる女性を探していたのも確かです。ただ、少し前から精霊たちがシャンフィールの水の子、サラシアナ王女が運命のお相手だと騒ぐようになりました。そのため陛下はまずこのシャンフィールを訪れサラシフナ様にお会いするつもりでした」


「だがサラシアナは我が国の王子たちのいずれかの妃になることが決まっている」


「ええ。それはわが国王も存じておりました。ですのでシャンフィールの女神殿にご挨拶をしたらルナ・ムーンにて花嫁探しをする予定でした」


「我が国にもサラシアナ以外の王女はいるのだが」


「わが君は一夫多妻が理解できないとの考えでして」


「-まあ、ファシル・アルド・バードの国王だからな」


特に前国王の王妃の溺愛ぶりは有名だった。


かの国の民はみな純粋に一人のものを大切に愛して一生を添い遂げていく。


まるで純粋な獣のように。


「ファシル・アルド・バードの男性と一緒になるのは、女性なら一度は必ずおもうことですわ。特に我が国のように一夫多妻の国では」


うっとりと言うロレッタの言葉に若干あせりつつ国王は続ける。


「いくら精霊たちが口にしようとも水の子であるあの子は国外に嫁がせるわけにはいかない。それに極度の男性恐怖症でな。父親である私にもおびえてしまう」


あきらめてくれと続けた国王にビルは微笑んだ。


「精霊たちの言葉を、古き光の友の言葉を我々ファシル・アルド・バードの民がないがしろにすることはありません。ですがまた、だからといって鵜呑みにするほど素直な男でもありません。わが国王は」


「ではサラシアナとの婚姻はないと思ってよいのだな」


確認するシャンフィールの国王に中性的な顔立ちの青年は不敵な笑みで答えた。


「我が国王は無理やり嫌がる女性を手に入れようとするほど愚かではありませんが、本気で欲しいと信じ時のあきらめの悪さは魔女長以上です」


なにせそれこそがファシル・アルド・バードの王族だ。


「もしもわが国王がサラシアナ王女に恋をしたら相手が振りむくまでこの国に滞在することを許可願います」


そう言い放った金髪の騎士にロレッタは思わず口にする。


「サラシアナをこと一目見てきにならない殿方などいないですわ。あの子は水の子ですもの」


「いいえ、王妃様。私は王女を可憐でかわいらしいとは思いましたがそれだけです」


「それはどうして?」


「私にはすでに愛する妻がおりまして。我が国ではお相手の容姿も精霊の加護もなにも関係ありません。とくにわが国王に光の守護がありますから水の子とはいえ、ただのない王女様としかみないものと」


「サラシアナは水の子よ」


「我々ファシル・アルド・バードの民にとってはそれだけです」


「そんな!」


「もうよいロレッタ。お前もわかっておるだろう。サラシアナには水の子としてだけしか価値がないことを。王女としての役目はまっとうしておらん」


国王の言葉にロレッタは押し黙る。


つい数時間前も脱走してしまった王女が、公務となると熱をだす娘が王女として役目を果たしているかといえない。


「ですがあの子は水の子ですわ」


「それだけの価値しかない子でもある。騎士殿、その場合もファン・ファラシス国王はサラシアナに価値をみないと思っても」


「どうでしょうか。水の子としか扱われていない王女の本音を知りたいとおもうかもしれません。なにしろファシル・アルド・バードの王家の人間はかわりものなので」


それに、と内心ビルはつきたす。


(今回はやっかいな世話好き魔女(ばばあ)までついてるし)


マントから一度だけ顔をのぞかせた可憐な王女は間違いなく自分の主の庇護欲を誘うだろう。


ただし、それだけだ。


庇護欲以上のものを彼女が見せなければ精霊や魔女長が何を言おうとも主は水の子を選ばない。


「どちらにしろ、いまはお帰りになるまで待つしかないかと」


「魔女長殿がご一緒ですものね」


「サラシアナに危険がないのはだけは確かだな」


三人は自然とため息をついていた。












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