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水の記憶 18 ビルは苦労性


 予想外の言葉に戸惑い、驚いているうちにカインのペースのまま気が付けば見覚えのある宿の前にたって、ようやくファンは我に返った。


「えっ?ここは?」


どうみても朝早くに出立した宿屋だ。


(ま、まずい)


「あっ、じゃあ、私はこれで」


「まあ、まてよ。食事をしてからでもいいだろう。心配しなくてもここの代金は私がもつし、味も保証する」


がしっと右腕をとられ、


「女将ー」


とカインは宿屋の入り口をくぐった。


 (なにをやってるんだ、この人は)


いきなり騎士団の騎士と一緒になぜか兵士の服を着てもどってきた主にビルはこめかみをおさえる。


すると女将も目を瞬いた。


「おんやあ、あんたは・・・」


見慣れた第六王子と一緒なのは・・・。


と思った瞬間、女将の目の前をなにやら白い塊が飛んでいったかとおもいきや、


「うわっ!?」


兵士の顔面にびたん!とはりついたーアンゴラうさぎ。


(なにをしているのだ、このおおたわけめ!)


うさぎは怒り心頭とばかりにガリガリとファンの顔をひっかく。


なにせそこは魔女のヒズの爪。そこそこ鋭くかなり痛い。


「うわっ、なんだ。このウサギは」


カインが驚きウサギをつまみあげようとするが相手は魔女である。


ウサギの紅い瞳が一瞬、カインを捕らえたかと思うと動きがとまる。


「ちょっ、ちょっと、待ってください、ヒズ殿。相手はシャンフィールの王子ですよ!?ーって、あああ、待って、待ってください!」


慌てたビルがウサギに声をかけたそのとき、


「ええい!せっかく、わしが出会いを演出しようとしていたのに台なしじゃ!このおおたわけのバカ王が!予定変更じゃ!姫の案内はこやつにさせるから、お主はそやつらと適当に過ごしておれ。姫は儂が送るので護衛は無用じゃ」


言外に捜すなど許さないと告げ、あっというまに顔面にはりついたウサギとファン、それに黒いマントのサラシアナが消える。


「待ってください!この状況をどうしろっていうんですか!?ーって、ああ・・・行ってしまうんですね」


がっくりとうなだれるビルの前には、初めて魔法を目にしただろう女将がまんまるどころかとびでそうな目でいなくなった場所を指さしていた。


「き、消えた!?きえちまった。あんれまあ!さすがファシル・アルド・バードの民だねえ。すごいねえ。あんたも使えんのかい?急に消えたりして宿代ふみたのすのだけはやめとくれよ」


「そんなことしませんよ。それに移動魔法が使えるのは我が国でもほんの数人の限られた者だけです」


的外れな女将の言葉にビルは肩を落としたまま律義に説明する。


「そうだろうな・・・。移動魔法は古えの魔法だ。使える者は至福の森の魔女にファシル・アルド・バードの直系王族。現国王のファン・ファラシス国王と側近の数人だけ・・・」


金縛りがとけたカインが固い声でビルをみつめる。


ビルはまずい状況になったと思いながらも片膝をつき頭をさげ礼をとる。


「はじめましてカイン王子様。私はファシル・アルド・バード国王、ファン・ファラシス国王の従者でビル・ホークと申します。詳しいお話をしたいのですが・・・」


そこまでいってビルはまだ驚いた顔の女将をみる。


これ以上の話はさすがにこのような場所では・・・。


「ああ、そうだな。女将。食事はまた今度いただくことにするよ。すまない」


「いえいえ。まあ、珍しいものがみれたんでいいですよ。それに私は飲んだくれのあのひとと違って口はかたいんでね」


女将はかなり勘が鋭い。


この商売で磨かれたのかのんだくれの亭主をもったため磨かれたかは謎だが。


「まあそういうな。また顔をだす」


そう言ってカインはビルを促し外に出た。


「ここではろくな話もできないからな。城で我が父と一緒に話をきくとしよう」


(それって、シャンフィールの国王陛下ってことですよね・・・・)


おもわずビルは空を見上げた。 


澄み切った空かと思いきや遠くになにやら分厚い雲もみえる。これからのビルの運命のように。


(リタのお土産きのう買っておいてよかったなあ)


愛しい妻の面影に現実逃避したのは許してほしいと思う。


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