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水の記憶 17 宿屋で


 宿の一階は食堂だ。


夜はアルコールも出すが朝や昼は宿泊客や労働者相手となるので無用なトラブルの防止としてアルコール類はでていない。


宿の食事は美味しいがせっかく市に行くのならもっと珍しい食べ物もあるため、


ビルは宿の女将に今日の宿泊代を追加で支払い、昼は外出することをつたえると女将は怪訝そうに、

アンゴラウサギを抱っこした黒マントのかたまりをみる。


昨夜は若い男の二人連れだったはずだが・・・・。


黒マントですっほり姿をかくしているとはいえその形から男ではないことむはわかる。


旅人が花売りを連れ込むことはあるが・・・・。


「・・・新婚だって言ってなかったかい?」


昨夜、飲んだくれの常連たちと愛想よく盛り上がっていたこの異国の若者は幸せそうにそういっていたはずで、


飲んだくれの亭主に何度か浮気疑惑をもっていた女将は好感をもったのに・・。


胡乱げに若者をみると、


「ええ。とっても可愛くてきれいな妻がいますよーっと、ち、違います!この方はそのような

お相手ではなく私の連れのお客様です」


なにを勘違いされたのか返事をかえす途中で気づいたビルは、あわてて言葉をつなぐ。


「あまりお屋敷の外を歩く機会がないとのことで、連れがもどるまで私が市を案内しようかと思いまして」


「お貴族さまのお忍びってことかい」


まあ泊まり客のであるこの男たちには品のよさがある。


ファシル・アルド・バードの貴族だろうと推測していたので、その知り合いとなればやはり貴族なのだろう。


「いまはファシル・アルド・バードの国王様がいらっしゃるってことで、街の中はにぎわっているからね。あたしらでも珍しいものがたくさんでてる。お姫様にはさぞ喜んでいただけるだろうよ。本来ならあたしの料理でも楽しんでもらいたいとこだね」


「ええ、女将さんのお料理もとても美味しいです」


ビルの言葉に女将はアハハハと声に出して笑う。


「うれしいことをいってくれる。今日の夕食は腕を奮うことにしようかね。お姫様も機会があればあたしの料理もよろしく」


「あ、は、はい。こちらこそよろしくお願いします」


返事は期待していなかったのに、予想外に可憐な声がして女将は野良猫のような目をまんまるにする。


「おやまあ、驚いた!お貴族様のお姫様ってのはまあ、ほんとにお姫様のような声音なんだねー」


ー意味不明であるが言いたいことはなんとなくわかる。


ビルは苦笑した。


「ええ、とてもきれいな声ですよね」


「そ、そんなことありません。アイリスお姉様やロレーヌお姉様やそのほかのお姉様たちだって私よりずっときれいなお声で・・・」


あわてたように言い募る可憐な声に女将は笑いながらこたえた。


「いやいや、じゅうぶんきれいな声さ。あたしのダミ声にくらべたらね。それにしてもお姫様は姉妹が多いんだね。しかもアイリスにロレーヌといや第一王女に第二王女と同じ名前ときたもんだ。これで姉妹にサラシアナっていたら立派な王族様だ」


楽しげなその言葉にビルは肩をすぼめる。


(姉妹にでなくてサラシアナ王女そのひとなんですがね)


さすがに王族がこんな場所にそれも突然現れるとはおもわないらしい。


とおもったのだが、


「まあ、第六王子様のカイン王子様は騎士団所属ってのもあって、よくここにも食事にきてくれるけれどね。あの王子様はみかけによらず酒豪でね。うちののんだくれ亭主と恐れ多くも飲み仲間なんだよ」


「えっ?」


ビルが目を瞬いていると、


「ああ、そういや、今日も市を見学にいくついでに食事をしにくるとかなんとか言っていたような・・・」


女将がぽんっ、と手をうったのとアンゴラうさぎの髭がぴくんと動いたののと、


「女将ー、新しい客人をつれてきた。他国のものだからぜひここの料理を食べてもらおうと思って・・・」


と騎士団の騎士と城の兵士の二人組みが店に入ってきたのは同時だった。


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