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水の記憶 16 ビルと少女とアンゴラウサギ

(んーっと、どうしょうかな)


アンゴラウサギを抱っこしたマントをすっぽりと頭からがふった細い少女を横目にみやりビルはどこに行こうかと頭をひねる。


「姫君・・・は目立ちますね。お嬢様でよろしいですか?」


自分の身なりは旅人然としてていても、育ちのよさはわかる人にはわかってしまう。


目の前のマントの人物にしてもそうだ。


そもそもー。


「お嬢様、その風貌ではあなたの素性はわからないとおもいますので、マントは逆に悪目立ちするだけかとおもいますが・・・」


少女の腕の中のウサギもコクコクと首を縦に振る。


すると、そんなウサギとビルをみくらべたあと、おずおずと頼りなさげながらもふわりと少女の顔をおおっていたマントがとりはらわれた。


(おっと・・・、これはー)


あらわれた少女の容姿にビルは一瞬息をのみこむ。


さらさらの漆黒の髪に清純な漆黒の瞳。


ファシル・アルド・バードの至福の森でよく目にしている精霊たちのように整った容姿は、


しかし彼らに比べるとどこか幼く人間らしく頼りなげで・・・


まさしく可憐な深層の姫君といったものだ。


「すいません、やはりできるだけマントを被っていてください」


一般的な黒髪に黒い瞳でもこれでは目立ってしまうし、いくら治安のよいシャンフィールとはいえ、人買い商人やそれに売るために人狩りをするタミは、はどこの国にだっている。


それこそ、認めたくはないがファシル・アルド・バードにだって存在するだろう。


目の前の少女は、街へ出たならあっという間に格好の餌食になるに違いない。


ヒズと自分がいるとはいえ無用な争いはできるだけさけたい。


「はい。わかりましたホーク様」


「私のことはホークと呼び捨てにしてください。なんならビルと名前でもよいですが」


「でもファシル・アルド・バードの騎士様を呼び捨てなんて・・・」


「よいのじゃ姫よ。ファシル・アルド・バードの騎士といえども、主君はあやつじゃ、儂が許す」


アンゴラウサギに言われビルは嫌そうな顔になる。


「その言い方は、ちょっと・・・。一応、ファシル・アルド・バードの王なのですから、わが主は」


「頑固者で融通のきかん、面白みのないやつじゃ」


「臣下にとっては他国に誇れるわが国の王なのですがね」


「儂にとっては、まだまだひよっこじゃよ」


ーそりゃそうだろう。


なにせ目のの前の魔女は古の伝説の聖王をしっているのだから。


ビルは肩をすくめた。


「それではビルさんとお呼びしてもよろしいですか?」


サラシアナは困った顔で提案する。


中性的な顔立ちのせいかビルにはあまりどきどきしないで接することができる。


「ではそれで。ところでお嬢様、ご要望はございますか?」


「えっ?」


「例えば、食べ物、衣料品、小物など・・・。さすがに宝飾品を買うような大金はもちませんが・・・。行ってみたい場所があるのならご案内いたしますよ」


優しくビルに問われてサラシアナは少し考える。


そもそもサラシアナは王城からでたことがない。


ごく稀に式典などででたことはあっても、魔法で空間移動したので町の様子をみたことがない。


「サラシアナ王女にわかるはずもなかろう。こやつは筋金入りの箱入りじゃし、本人に外に出る意志がない」


「まるで悪いことかのようですね。姫君なのですから当然かとおもいますが・・」


「国民の暮らしをしらずして王族とは言えまい。王族には王族の責務があるのじゃ。王女だから、水の子だからといって責務から逃れることはできん。今回のことはいい機会じゃ。本来なら儂が王族の責務を骨身にまでたたき込んだあやつに案内させたかったのじゃが、まあお主でもよかろう。姫よ、儂の言葉はわかるな?」


可愛らしいアンゴラウサギの紅い瞳が冷酷な色をおびる。


サラシアナはこくんと頷いた。


幼少の頃からヒズはサラシアナの師としていろいろなことを教えてくれた。


むろん、何度も王族としての責務についても口にしていた。


サラシアナも自分が王族として血税で養われているのは理解している。


異母姉妹もみな国のため婚姻をするのだと当たり前のように理解していたし、だからこそサラシアナは自身の婚姻についてなにも考えずにすんでいたともいえる。


いずれ水の子であるサラシアナは王家の者として、異母兄弟のいずれかに嫁ぐのだから。


一生を慣れた親しんだシャンフィールの王城で優しい母の元で暮らすのだと。


だからといって、国民の暮らしをしらなくてもよいというわけではない。


極度の人見知りと水の子としての立場と何より彼女を溺愛する家族から大切に世間と隔離されいままで生きてきた。


それが当たり前だと認識もされていた。


だが目の前にいる魔女も騎士もシャンフィールの民ではない。


他国の王女にたいする敬意は払うもののそれだけだ。


なにより彼女の師は絶対に甘えさせてはくれない。


「・・・はい。ヒズ」


心うごかす。細さをそのままに表すか細い声で、それでも返事をする王女にヒズは満足げにヒクヒクと髭をうごかす。


「まあ、この王都でもにぎあうのはやっぱり市じゃろう。市に行けばある程度、衣食はみられる」


「市ですか?それはいくらなんでも危険では?」


「ファシル・アルド・バードの騎士のお主と儂がいるのじゃ。市でも危険はあるまい」


それくらいやってみせろとウサギがビルをにらむ。


「そもそもふらふらしているあやつが悪い。姫を護るのはお主でなくあやつの役目であるというのに」


不機嫌そうなうさぎの本音にビルは苦笑した。


そして、不安そうな王女に優しく笑いかけた。


「ここにいてもおそらくじっとしていることのない我が国の王は、もどってこないでしょう。いきましょうか」


部屋のドアをあけサラシアナを促した。

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