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水の記憶12  潜入したら?


 シャンフィールの王城は当たり前だが、生まれ育ったファシル・アルド・バードの王城とは違う。


水の流れが多く、水の精霊たちの清廉とした気配があちらこちらにしている。


春の日だまりのようなファシル・アルド・バードの王城とはまた違うが、精霊の恵みあふれた城にファラシスは満足する。


少なくても精霊に愛されるものが国を治めているのだろう。


(さて、どこにいけば水の子の王女にあえるかだな)


さすがに王族が住まう別宮には入れないだろう。


一応、魔法で一般的な者が相手ならば、シャンフィールの一兵士として認識されるようにしてはいる。


ただし、あくまで相手が魔法の力をもっていない場合のみであり、魔法を使えなくとも潜在的に魔力をもっている者などにはきかない。


王城の奥に入れば入るほど護りは厳しくなっているはずだ。


どうしようかとまわりを見渡してみる。


清廉な神殿のような王城は水路も多く流れており、なかには小さな魚も泳いでいた。


観賞用ではなく自然に生きる類いの小魚だ。


「そういえば、アクア・フィール殿の住まう湖があると言っていたな」


ここまできて挨拶をしないのも礼儀にかける。


というよりも勝手に守護している王城に入り込んだ時点で大いに問題だ。


精霊たちがあまりにひとなつっこすぎてうっかりしていたけれど、よくよく考えてみればかなりまずい。


ファシル・アルド・バードの王族は、その国を守護するものに真っ先に挨拶にいくのが習わしなのに。


お忍びとは言え、さすがにまずかった。


城の外れの森から神聖な空気を感じる。というより呼ばれているようだ。


あちらはとっくにファラシスの存在に気づいているらしい。


ー当たり前である。


人間に慈悲深いアクア・フィールだからこそ無理にまねいたりしないのだ。


これがビルの妻の住まうグリフォスであったなら、草原の神に稲妻をくらっていただろう。


かの国の守護精霊はかなり手荒い。


「おい、どこにいく?」


アクア・フイールの住まう森に向かうファラシスの背にいぶかしげに声がかかる。


ふりむくと青い髪に青紫の瞳のファラシスと同じ年の頃の青年がいた。


(シャンフィールの王族か)


青い髪に青紫の瞳は王族の特徴だ。


そういえば、この国にはファラシスと同年代の王子も何人かいたはずだ。


一夫多妻の王家では、王子や王女の数もかなり多くなるという。


一人っ子のファラシスにはうらやましい話ではある。


両親は大変仲睦まじかったが、子供はファラシスひとりだ。


なにしろ父が母を溺愛するあまりに、実の息子にまで嫉妬したので、子供はひとりでいいと言い放ったのである。


むろん、ファラシスのことも愛してはいるらしいが、


父にとって、息子はライバルらしく、ファラシスが二十歳になるやいなや、母と一緒に国外に放浪に行ってしまった。


父いわく、ファラシスがおなかにいたためできなかった新婚旅行をやりなおすという名目だったのだが、


息子のいない国外で母を独占したいだけだろう。


まあ、にこにこと父の隣で幸せそうに母が笑っていたからいいのだけど。


「・・・お前、シャンフィールのものではないな」


さすがは王族。


精霊の加護をうけているか。


ファラシスはさてどうするかなと考える。


「精霊たちが騒いではいないから、魔女どのとおなじくファシル・アルド・バードの関係者か?」


そういえば、ヒズが先にこの王城を訪れていた。ここは、話をあわせよう。


「ええ。魔女長の警護に配されたのですが、ひとりで勝手に行ってしまいまして。アクア・フィール様にお会いしに行くとの事でしたので、私も行こうと思いまして」


「なぜ、シャンフィールの兵士の格好を?」


「魔女長のいたずらです」


きっぱりと言い切る。


ヒズを知っているものなら、これで通る。


案の定、あっさりと目の前の王子は納得した。 


「魔女殿なら、この王城にはいないぞ」


「えっ?」


「わが妹のサラシアナを連れて城下に行ってしまった」


「サラシアナ姫を?」


なんでまた。


予想外の展開にファラシスが目をしばたくと王子は不機嫌そうに眉をよせた。


「ファシル・アルド・バードの国王が城下街にいるらしく、迎えに行った」


「はっ?なんで?」


こんどこそファラシスは驚く。


わざわざ城に侵入して会いに来たはずの相手が自分に会いに城の外に行ったなんて、なんの冗談だ。


「お前はファシル・アルド・バードの国王のもとにかえるのか?」


「・・・はあ。そうなりますね」


ここに目当ての王女がいないのなら、ここにいる必要はない。


というより、ヒズが一緒だということは、かなりやっかいだ。


あの魔女はとことん、ファラシスたち王族で遊び倒すことで有名だ。


吟遊詩人がかたるようなファシル・アルド・バード王家の恋愛話は、ほとんどの場合、ヒズがからんでいる。


自分の両親のように幼なじみや政略結婚以外では、ほとんどすべてヒズが自分の趣味で動いている。


なにしろ、実はファシル・アルド・バードの王家も民もあまり身分は気にしない。


いや、ある程度の身分はわきまえているが、こと恋愛において血筋がどうこうということはない。


片一方の血が王家なら相手はどんな相手であれ、その子供は王族の血をひくものだ。


貴族もそうであるし、平民でも祖先はおなじ「聖霊界」の人間だ。


王はあくまで民のためにいる存在で導くものではあるが、神々のように神聖なものではない。


聖王ラディオンの血を受け継ぐものでも、ただの人間でしかない。


もとはおなじ「聖霊界」のものである。


そういう考えがあるから。


平民と貴族の婚姻もふつうにありえる。


ただし、貴族には貴族の礼節があり、平民には平民の矜持がある。


お互いに育ちが違うので、その傷害を乗り越えられるかは本人達次第だ。


だが、ここにヒズが絡むと大いにややこしくなる。

あの魔女は年甲斐もなく御伽噺が大好きなのだ。


困難を乗り越えて苦労の末にお姫様と王子様が迎えるハッピーエンドが。


ーそう、困難と苦労の末に、だ。


思わずため息がでる。


この場合、災難なのは、ヒズの悪癖をしっている自分より巻き込まれたまだ幼いサラシアナだろう。


「サラシアナ姫様もおかわいそうに。よりによってヒズに巻込まれるとは」


思わずでた言葉に青い髪の王子はうなずく。


「ほんとうだ。サラは私の妻にるものだというのに」


「ーへっ?」


しごく真面目に言い放った目の前の変態ロリコンをみる。


どうみても自分と同じ二十代前半にみえる。


同腹ではないといえ妹と婚姻するということは、まあ、いい。そういう伝統なら、それが当たり前なら、仕方ない。


けれど、ロリコンはどうなんだ?


目の前の王子は、ビルににている。男臭さのない爽やかななかなか整った顔立ちの王子だ。


王子としての気品も自分よりもあるだろう。


なにしろファラシスは旅をしているとた大抵ビルの方が貴族と間違われる。


「サラシアナ王女さまとご結婚を?」


いささかひきつりつつ確認する。この場合、まだ子供と本気で?という意味だが。


目の前の王子は至極真面目な顔でうなずいた。


「ああ。兄や弟も溺愛しているが私ほどサラを想っているものはいない。私にとってサラはすべてだ」


ー変態だ。


自分はこうはならない。


サラシアナ姫はこの王子に譲ろう。うん、そうしよう。


目の前の変態の登場に、サラシアナに抱いた興味は薄れてしまった。


それに、ヒズにのせられる気はない。


ファラシスにはただひとりの相手に夢中になるという感覚がわからない。


父のように母を溺愛することも、ビルのようにきつい言葉を投げ付ける相手を愛しげにニコニコとみつめることも正直、自分には想像つかない。


ましてや、目の前にいる変態王子と同じになることなど・・・・。


(女神に挨拶してルナ・ムーンにでもいこう)


従姉妹が嫁いでいったファシル・アルド・バードと同じく一夫一妻の国。そこにはこんな変態はいないだろう。


そうだ、そうしよう。


「では、私は魔女長をおいかけますので」

礼をして踵をかえそうとしたファシスの肩を変態王子がつかんだ。


「まて、サラが心配だ。私も一緒に行く」


ー勘弁してください。

厄日だ。

アクア・フィールに挨拶に行かなかった罰なのか。

ファラシスは天を仰いだ。


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