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ゴールドシーカー7


 右手の手袋を外す。人差し指に魔力を流すと、ドラゴン特有の尖った爪が生えてくる。その爪で親指を引っ掻くと、じわりと『血』が滲む。


「リア?」


「まぁ見てろよ親父」


 滲んだ血は塊を作り伝い、ポタリと皿に落ちた。皿がキラリと光ると、空中に黄金の鍵穴が現れる。


「血が正解!? 古来より確かに『血』には多くの文献があるが、なんで血が『毒』なんだ?」


「正確には『血』と適当な毒を混ぜるんだと思う。血には特別な意味が多いんだろ? 血は生命の基盤だ……」


「生命の象徴に『血』が表現される事は確かに多いな」


「……だから血に少しでも異物が混ざれば生き物にとって猛毒になる訳だ。血は全身を巡るからな。蛇に噛まれても、応急処置が早ければ助かる時は助かるだろ? だからこそ、この遺跡に来る過程で最も危険視してた事は、毒を吸収する事だった。恐れる事は傷口ができる事だ」


「なるほどな。生命活動に必要な血液は止められない。逆に言えば人間にとって血こそ1番の毒ともいえるか……。輸血とかも間違えたら大問題だもんなぁ。全く、遺跡を作ったやつは色々と考えるねぇ!! あれ、でもリアは普通に血を落としただけだよね?」


「ほら、俺にはドラゴンの血が流れてるから。輸血なんてしたら。たぶん普通に人殺しになっちまう、ある意味で毒だ」


「ほほー、やっぱ面白いな我が娘!! ドラゴンの文献には俺も気になる事が多い!! 今度ギルグリアくんを紹介してくれ」


「ギルグリアは親父みたいなタイプは苦手だろうなぁ」


 会話をしながら、ケイから黄金の鍵を受け取ると鍵穴に差し込み回す。「ゴゴゴ」と石のベッドがズレ、階段が現れた。リアとケイは防護服を脱ぐと、軽装で階段を降る。


「《灯よ》」


 闇を照らしながら階段を降り切ると、2つの遺跡と同じ拓けた空間に出る。


「《鍵箱》、と。LED照射装置起動!!」


 ケイの持ち込んだ光源機器で遺跡を照らせば、外の荒れ具合とは真逆の綺麗な円状の空間だった。


 今更、警戒も何も無いので台座に直行する。


 予想通り、石板と……銀色の矢。


「これで最後だな……」


 ほんのり寂しげにケイは言うが、リアは最後にならないだろうなという確信があった。絶対に面倒ごとが起きてる。


「無事に全部の遺跡を周れたんだし良かったと思おうよ。回収したらのんびり検査しようぜ」


 ケイは石板を持ち上げる。そして矢がカタカタと震え始めた。


「こい、矢ぁ!!」


 分かっていたが、銀色の矢が浮かび上がり、ギリギリ目で追える途轍もない速さで向かってくる。避けるのは簡単だが、無限に避け続ける事は不可能だ。リアは飛んできた矢を掴むと、指先を軽く刺した。矢は満足したのかケイの方に飛んでいき、肩を貫く。


 無数の影が這い回り、消えた。

 身体がほんのりと熱を帯びた気がした。透明だ、気分が良い。


 こんなにも気分が良いから、余計に不気味で気持ち悪いと思った。


「親父、大丈夫か?」


「痛いぉん……」


「大丈夫そうだな」


 石板と矢を《鍵箱》で仕舞うと、ケイはゆっくり起き上がる。


「楽しかったなぁ、息子……じゃなかった。娘と遺跡を巡るの」


 今までの時間を噛み締めるように言うケイ。リアも……正直に楽しかった。


「……はぁ、また付き合ってやるから感傷に浸るのはやめろ」


「本当かリア!? よっしゃ、言質とったからな!! んじゃ、本部に帰るぞ!! 調査はここからだ!!」


 嫌いだったはずの父親だけど。ここまで楽しそうな姿を見てしまうと、本当に考古学が大好きなのだと分かる。家族と同じくらい『愛して』いるのだと。少々、癪ではあるが、ちょっとだけ許してもいいかもしれない。


…………………


 巨大な調査拠点。考古学に関する多くの物品が保管されている。奥には歴史や神話の本、考古学の記録を保管している図書室もある。


 ケイは仲間達に軽く挨拶すると、まずは図書室に向かい一冊の本を回収した。それから遺物調査の機械類が多く設置されている部屋に入る。今は誰も使っていないのか、人はいなかった。


 大きなテーブル。色んな紙が乱雑に散らばったテーブルに石板と矢を置いていく。


「俺の予想だとな、この石板は『地図』だと踏んでいる」


「地図? なんで?」


「すまないが経験による直感としか言えないかな……。今から石板のアダム言語を解読するから、リアは自由に見て回っていいぞ」


「じゃあお言葉に甘えて」


 調査中、修繕中、解読中、検査中など博物館に届くにはまだ時間のかかる品々は、金銭的価値は無視しても宝物だ。過去から現代までやってきた数々の品々には見る価値がある。ガラスのショーケースに入れられた黄金の「……なんだこれ」と言いたくなる物体や「あ、これエジプト文字……じゃなくて、ヒエログリフだ!!」と読めはしないが知ってる文字を見つけ。結構楽しく見て回っていた時である。


「あ、あの!!」


「……俺?」


 若い考古学なのだろうか。少し草臥れた灰色の職員服に身を包んだ眼鏡の美少女が話しかけてくる。返事を待っていても返ってこず、ずっと視線が交わる。困っていると、めちゃくちゃ身体を乗り出して顔を至近距離まで近づけてきた。


「綺麗な瞳……」


「あの……?」


「おっと、失礼しました。私はユーティリアと申します。ドラゴン文明の研究者でして。ずーっと!! リアさんの事が気になっていたんです!! まさかこんな所で出会えるなんて!! 奇跡!! にしても、テレビで見るよりもお綺麗ですね、イケメン系女子というのでしょうか?」


「お褒めに預かりどうも?」


「はい!! それでその、ドラゴンの眼をもう少し見せてもらえませんか?」


「ん、いいよ」


 今度はこちらからずいっと顔を近づける。鼻がぶつかりそうで、互いの息遣いすら伝わる至近距離。リアは性別が変わったおかげか、こういう仕草は思ったより恥ずかしくない。一方でユーティリアはリアの長い睫毛の下から覗く美しい瞳に見惚れる。


「はわわ、ありがとうございます!! はぁ、綺麗……抜き取ってホルマリン漬けにしたい」


 全力でドン引きして距離を取る。


「あぁ!! まって誤解です!! つい!!」


「つい!? って事は、やりたいんじゃないっすか!?」


「はわ、言葉の綾です!! だって、こんなにも綺麗で澱みのない……『人の悪』の無い瞳も初めてなんですもん!!」


「人の悪?」


「はいっ!! 要するに、挫折の無い瞳って事ですね!!」


「挫折の無い……」


 そう言われて、リアは過去を振り返る。確かに、壁には当たった事は幾度とあるが挫折した事はない。だからといって驕ってはいないと思う。思いたい。


「ふぅー、はぁ満足!!」


 人を複雑な感情にしておいて1人満足するユーティリアに溜息を溢す。


「では、私は修復作業に戻ります!! えっと、リアさんはケイさんの娘さんなんでしたよね? ならまた会う機会は幾らでもありますね!! 願わくば、ドラゴンの瞳が人らしく濁ったモノになっていると嬉しいですね!! ではー!!」


 一方的に言うだけ言って、ユーティリアは走り去ってしまった。


 残されたリアはかなり複雑な心境だった。挫折をした事がない。それは、悪い事なのだろうか? 周りには凄い人たちが沢山いて、ライバルにも先輩にも恵まれている。だから自分だけが特別だとかは、思った事はない。だから驕り昂りもしない。


「挫折ね」


 目を細める。綺麗な瞳は、どこまでも透き通っている。


…………………


 ユーティリアとの邂逅で、他の場所を見て回る気が削がれたリアはケイの元に戻る。ケイは難解な本を幾つも並べて、少しずつ解読しながらノートにメモをしていた。本来、解読作業は複数人でやるものだ。それを1人のタスクでこなしてしまう彼は相当に優秀なのだと、リアは改めて父親を少し、ほんの少し見直して。


「なぁ親父」


「どしたリア、なんか思春期特有の悩みがありますーみたいな声出して」


「そこまで分かりやすいか!? まぁ、確かにその通りなんだけど。俺の目を見て、君は挫折した事がないねって言われたんだよ」


「あー、ユーティリアか。挫折ねぇ、なぁリアにとっての挫折ってなんだ?」


「魔法が習得できなくて、他の皆に置いていかれる事」


「置いていかれる……か。周りが凄いと、自分が卑屈に思える事は俺だってある。だから俺はこう思う、挫折なんて味合わなくていいんだよ」


「必要の無い経験って言いたいのか?」


「少し違う。お前の歳で挫折云々なんざ考えなくていいって言いたいのさ。この先の人生、挫ける時なんて幾らでもあるよ。俺だって、ノルンと結婚するまで幾つも挫折してきたんだぜ? あー、だから……挫けたら立てばいいだけだ。出来なかったら、なんもねぇ、そこまでの奴ってこと」


 父親の言葉に目を丸くする。まさか、こんなにも的確に胸を貫くような解答が返ってくるとは思ってもいなかった。悩み多き思春期らしい自分の浮き沈みやすい心が浮上して、リアは思わず笑みを浮かべる。


「……ふふっ、あぁ、分かったよ」


 リアの笑顔に、ケイはドヤ顔を浮かべた。


「……いやぁ、にしても娘とこんな会話が出来るなんてな!! 少しは父親を見直したかぁ?」


「見直したよ」


「ふへ!?」


「ありがとうな親父」


「お、おう。んじゃ、俺は解読に戻るけど……」


「隣で見てていい?」


「なら、一緒に解読してみる?」


この日初めて、リアとケイの距離は大いに近づいた。


…………………


 ノートに書き綴られた、石板のよく分からない文字と翻訳された共通言語。全ての翻訳は無理とケイは判断して、一先ず出来る翻訳は済ませ言葉に出す。


「リ、アマラ、ガディ……ンケル……難しすぎない?」


「少しでも読めるだけスゲェよ」


「ありがとうリア。でも、何も分からないな。古い言語を総当たりしてもみたが当て嵌まらない。読める文字も意味が分からない」


 ケイは頭をガシガシと掻いて「ァー」と不甲斐なさに嘆く。考古学者の楽しさを伝える為にリアを連れ出したのだから、最後まで行ってみたいのに。ここで『壁』にぶち当たった。さっきの挫折の話が脳裏を過ぎる。


 考え込み黙ってしまったケイの隣で、リアは金銀銅の3本の矢を手に取って眺める。シャフト部分は木製で色は付いていない。鏃だけ金属の光を鈍く放ち、繊細な装飾が施されていて、本体なのだと分かる。貫かれた時のことを思い返し。目を瞑ると身体の中の『エネルギー』を探る。


 あった、脳にある。矢に貫かれてから発現した、純粋で透明で……なのに魔力のように万能足り得ない、ハッキリ言って使えないエネルギー。ドラゴンの血をフル稼働させて集中力を倍加させると、ゆっくり身体に流してみる。純粋故に、魔力よりすんなりと流れていき、目的の指先に集う。


 目を開く。魔力のように目に見えたエネルギー光がないから確信は持てない。けれど、感覚としては指先で炎のように揺らめいている。


「親父、ちょっといい?」


「どした?」


「石板の解読と矢に関連性があるんじゃないかと思ってさ。今、指先に謎エネルギーを集めてみたんだ」


「そういや言ってたな。俺には感じられないが、分かった。試してみるといい」


 ケイと場所を変わり。リアは指先で石板の文字をなぞる。するり、水が文字に染み入るようにエネルギーが染み渡っていく。


 文字が淡く光る。


 現代の呼び声に、古き文字が呼び起こされた。

遺跡パート2話で終わる筈だったのに……

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話が勝手に転がって続いてしまうならそれはそれで仕方ない
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