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ゴールドシーカー6


 暖房の効いた船の客室でリアとケイは一度、自身の身体を調べてみる事にした。リアはまず、魔力の流れ。血管一本一本に糸を通すように魔力を流して、全ての経路と感覚を覚醒させる。流動に澱みなし、いつでも魔法は正常に作動する。異常はない。


 次にドラゴンの血。心臓の鼓動のように、強者たりえんとする特殊な血は、常に細胞を作り替えて身体を保護している。異常無し。


 神力はどうだ? 有名人になる、つまり信仰される事でほんの少しだけ宿っている神への梯子。眩い後光の如く、人と神を隔てる壁。そこに手を入れると、味方として力を貸してくれる。問題無し。


 呪力。最近になってようやく掴んだ新たな力。暗い感情や負の感情により生まれる、日本区域において古来より用いられた本来ならば忌み嫌われる力。しかし、使い方を正せば強力な味方となる。そんな呪力は腹の中心を渦巻き、いつでも使える状態だ。問題無し。


 魔力で全身をスキャンしてみる。パワー系魔法ばかりにかまけて《治癒魔法》をサボっていたわけでない。人体の構造や筋肉は学んできた。だからこそ、少しでも違和感……特に『脳』を念入りに検査する。脳は全ての力を使う場合において最も重要な部位……ブラックボックス。


 その時、ふと引っ掛かりを覚えた。違和感。脳細胞を中心に鼓動するほんの僅か、水滴にも満たない小さな力。鼓動し、糸よりも細く、薄く、透明な……。今は何にもなれない力の残滓。


「なんだこれ」


「リアは何か分かったのか? 俺はさっぱりなんだが」


「親父、ちょっと検査させてくれ」


 小柄なケイの頭にポンと手を置き魔力を流す。

 同じだ。ケイにも同じ力が流れている。


「……なんか俺たちに変なパワー流れ始めている」


「なに!? まさかこの俺に隠された力が?」


「あのさぁ、普通は怖がる所だぜ?」


「ふっふっふ、我が息子よ!! 俺はこれでも色んな遺跡や墳墓で訳のわからんエネルギーを浴びてきたんだぜ!! きっと悪いものじゃないさ!! 大丈夫!!」


 ウインクしながらサムズアップするケイに、リアは溜息を吐くしかなかった。


「根拠の無い自信だけはデケェ」


…………………


 次に一旦、回収した石板と矢を改めて観察する事にした。矢は先に説明したように繊細な彫刻が施されており、もし古代の文明が残した物ならば彫金技術の高さが伺える。


 しかし、その割には石板なのはなんでだ? 長年考古学者として研究を重ねてきたケイにとって、最大限の違和感がそこだった。彫金技術がここまで高いならば、石板など使わなくても。


 ただ……文字を撫でる。なんと書いてあるのか分からないが。なんとなく経験で理解した。この石板は──。


…………………


 温かな船で一泊し、身体を休め。サレンクラ遺跡へと向かう。


 ジャングルに囲まれ、ありとあらゆる動植物が毒を持っている事から特別指定の侵入禁止区域となっている、超がつく危険な場所だ。場合によっては植物に掠っただけで致命傷になり得る。


 ただ、そんなジャングルはサレンクラ遺跡を起点に半径5キロメートル程と狭い。そして、5キロメートルほどを過ぎれば線を引いて隔てたかのように、毒を持つモノ全てが無くなる。生態系もガラリと変わり、穏やかな空間へと変化する。そこは正に『異常』。故に立ち入り禁止なのだ。それに下手に弄って、もし範囲が広がったら不味い。


 そんな人を拒むような場所にサレンクラ遺跡はあるのだ。遺跡の形状はよくある小さな遺跡群の塊、中央に祭壇のような場所が見受けられる。


「最後の謎解きは『至高の毒を注げ』」


「毒なんて腐る程あるだろ……。王水とかじゃダメなのか?」


「たぶん不正解だろうな。でも確かなのは『人体に影響を与える毒』だ。考えながら進もう。まずは装備だな」


「装備だけど、親父。上からこれ羽織ってくれ。《結界の薄外套》……少しでも危険は減らしたい」


「ふっ」


「んだよ」


「いやぁ、息子の優しさが身に染みるぜ」


「うっせ、それと今は娘だ」


 照れ隠しするリアにニヤニヤするケイ。う、ウゼェとリアは思いながらも、母ノルンの事を思うと守らなくてはと思う。

 それから最新式の防具を身につけていく。宇宙服のような厳重で分厚い装備だ。王水をぶっかけても溶けない、チェーンソーでも切れない素材で出来た、デルヴラインド社が誇る最高の装備である。


 《境界線の狩武装》を着れば必要ないのだが、魔力を温存する為にリアも借りる事にした。最後に気休め程度の《結界の薄外套》を羽織る。


 ところで純粋に気になるのだが、今の自分はどれほどの『毒耐性』があるのだろうか?

 ドラゴンの血、全てのエネルギーを用いた《解毒》は何処まで通用するのか気になる。気になるだけで実験しようとは思わないが。


 さて、ではショートカットしよう。そう思い魔力を流すと《門》を開いた。


「《門》で直通するなら、こんな重装備はいらないのでは?」


「蛇とかいたら怖いじゃん」


「えっ、蛇怖いの?」


「……」


「怖いんだ……考古学者なのに?」


「うるさいなー!! 行くぞ!!」


 可愛らしく怒りながら、ケイは《門》に触れて。


 バチン!! と音が鳴り弾かれる。


「え、弾かれた?」


「ほぅ? 考えなかったわけじゃないが、《門》は使用禁止って事か」


 《門》が人を弾くのは、セーフティーシステムが組み込まれているからだ。何が言いたいのか簡単に言えば《門》の出口が繋がっていない。出口がないのだから、入り口に入れないように弾く。どうやらショートカットは出来ないという事のようだ。サレンクラ遺跡のある毒のジャングルは、魔法という『ズル』を拒むらしい。


「試練は簡単じゃないって事だな。頑張って歩いていくぞリア!!」


「この重装備で5キロは結構キツイな。はぁ、でも仕方ないな」


 さて、最後の遺跡は入る前から試練が始まった。


 溜息を吐いてはいるが。昔の人は何を考えてここを作ったのだろうか? 全てが謎めいていて、なのに怖いよりも楽しいが勝る。ワクワクは熱を持ち胸を打った。


 ジャングルに足を踏み入れる。毒区域の境界線を越えると、ガラリと空気も雰囲気も変化した。まるで死を振り撒くように寒い。空気も重く、人間が大嫌いだと動植物が言っているようだ。


 それでも、毒の世界は美しかった。ゲーミング草花に、変な模様の虫、爬虫類。空を飛ぶ鳥や動物は毒を食い続けているせいか真鱈模様に変色している。


 50歩ほど進んだところで、本当に綺麗か? と思った。まるで悪夢だ。


「この中に正解の毒があるんだよな?」


「あると思うけど、これはちょっと数が多すぎる。虫だけで何百種類いるんだ? しかも調査資料には無かった蜘蛛がいたぞ。ひぃ」


 ケイは男にしては可愛らしい悲鳴を溢した。

 進む中で、試験管にゲーミング草花から蜜を取って、毒々しい色をした虫を捕まえ、動物は遠くから《結界魔法》で捉えてから体液やらを採取し。持ってきていた試験管が尽きる頃には、太陽は傾いていた。日没まで長くない。リアとケイは流石に不味いと思い先を急いだ。


………………


「つ、着いた!!」


 ジャングルを抜けると拓けた場所に出る。途中、遺跡の残骸が散らばり始め、元々は大きな遺跡群ってある事が窺えた。


 そして中央。例えるならマヤ文明の生贄の祭壇。死体を置くのにピッタリな石作りの台に、どこか不気味な顔の装飾が施された柱。近寄り難い雰囲気に自然と冷たい汗が流れる。そんな場所だ。

 そんな祭壇の石作りの死体置き場の前。腰の高さくらいの石柱の上に、小さな金色の皿が置かれている。嫌な想像だが、死体から取り出した心臓や脳みそを置いていたのだと思う。同時に直感的に、ここが毒を入れる皿だと理解した。


 陽が傾いて、橙色に照らされる遺跡はとても不気味だ。幽霊がこの世に存在する事を知っているリアは少し身震いする。ケイはのほほんとしていた。


「リア!! 採取した毒を全部ぶち込むぜ!!」


「試験管500本くらいあるんだよなぁ……」


「めっちゃ疲れた、でも頑張った!! ……俺は虫嫌いだからリアに頼むね?」


「俺も虫苦手なんだけど。というか考古学者なんだから虫くらい平気にしとけや、きむすめかよ」


「何を言う!! 俺は童貞じゃないぞ!! ノルンに主導権握られて喪失した!!」


「生々しい話はやめろ!! 両親の初めてとか聞きたくねぇよ!!」


 軽口を投げ合いながら、試験管を一本取り出す。花の蜜、猛毒かは分からないが、ねっとりとした液体には虫の死骸が浮かんでいた。蜜を皿に入れると、ジュッと蒸発する。


 リアとケイは顔を見合わせる。これハズレって事でいいよなと確認すると、今度は毒蜘蛛っぽい奴を試験管から取り出し皿に入れた。すると、ジュッと音を立てて灰になった。


 なるほど、ハズレのサインは理解した。


 そのあとは片っ端から皿に毒を突っ込んでいく。試験管全てを空ける頃には陽は完全に沈み、夜の静寂と虫の鳴き声が木霊する。


「……正解なし?」


 試験管を危険物廃棄ボックスに入れていたケイも「調合とか必要だった? でも流石にヒントないと無理じゃんね」と呟く。


「「うーん」」


 ここにきて謎解きが一気に難解となった。けれど、今までの謎解きは『簡単』だったのだ。ここにきて、急に高難易度になるのは逆に違和感を感じる。


 毒……。毒……。


「あ」


 その時、リアは最も身近な毒を思い出した。原初から脈々と続く、全ての生物にとっての毒。

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― 新着の感想 ―
お母様は肉食系だったのかぁ ドラゴンの血とかかなぁ
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