ゴールドシーカー5
ラグ遺跡のある海域はとても寒い。それこそ『火』が欲しくなるくらいには。
「行き先を照らすは炎のみ。つまり海底に火をつければ良いのか?」
「どうやって、と言いたい所だけど仕掛けがありそう。潜ってみないとなんとも言えないな」
「広範囲地空立体透過投影機でほぼ遺跡の位置は分かったが……予想以上に深い。これは深海だな。光が届かない暗闇かぁ」
「もしかして親父、暗いの苦手なのか?」
「苦手というか……闇に対する本能的恐怖は人並みにあるよ」
ケイはスーツに着替え、酸素ボンベを背負い、水圧耐性の魔術を発動させるネックレスを首にかけあ。リアも一応スーツは着て、それから水圧にどこまで耐えれるのかは未知数なので、水圧耐性ネックレスとゴーグルは借りる事にした。耳栓をし、軽くストレッチをする。
ケイは水中対応のLED照射装置を《鍵箱》に入れると、シュコーとレギュレーターを吹かす。確認作業を完了し《念話》で「いけるか?」と問いかける。リアは静かに頷いた。
そして海に飛び込む2人。水飛沫を上げ、挑戦者は水底を目指す。
海水が清く綺麗が故に、水底まで透き通り……どこまでも深い闇を見て。リアもこれは確かに怖いなと思った。水への恐怖と何処までも続く闇は深遠のようだ。そう思ってから、ドラゴンの目は夜闇を見通せる事を思い出し、目に魔力を込めると視界が明るくなったので、ケイには少し申し訳なく思う。
………………
リアとケイは、《結界魔法》で作った足場を蹴る事で急速に深海へと向かって行く。水圧耐性のネックレスのおかげで、急速な圧力にも耐えられる。軈て太陽の光も届かなくなり、暗闇の中を進む事となった。
ケイは水中対応型の大きなLEDライトで周囲を照らす。光は闇を切り裂いて周囲を照らした。
まず見えた、三角形のピラミッド型の建造物。明らかに人の手で作られた、しかし巨大な岩を切り出したかのように隙間が無く入り方が分からない。
ただ、三角形の先端から数メートルの3方向に3つ。豪華な灯台のような建物が設置されていた。中央には光の灯らない黄金の皿が中央にある。皿の真ん中には謎の穴が空いていた。
「火を灯せか。今回の謎解きは海中の灯台に火を灯す方法ね」
「詳しく調べた所で、謎めいた灯台って事しか分からんな。周囲を調べてみるか?」
「離れて動くとお互いを見失いそうだし、一緒に行くか」
リアとケイは互いに長めの紐でお互いを結ぶ。これで見失う事はないだろう。
「光差す道は熱の糸、これを解かないと灯台の謎も分からない?」
「アルマスラ遺跡みたいに、月と太陽の謎かけとかじゃない?」
「なら光差すは太陽光? ここ深海だぞ……」
「けど俺は太陽光じゃないと思う。もうちょい、今度はラグ遺跡の本体を調べてみようぜ」
スッと結界を蹴りながら泳ぎ、ラグ遺跡に近づく。そして軽く触れた。なだらかな石材で作られた表面は、長く海中にあるはずなのに藻のひとつもついていない。あり得ない奇妙な材質。保存状態の良さにオーバーテクノロジーの片鱗を感じる。
そして……何か起きないだろうかと両掌を押し当てた時だ。
ボコっと気泡のようなモノが遺跡の至る所から吹き出し始めた。
「まずっ、なにか要らないことしたか?」
「リア、考古学的に考えた時、遺跡に触れて何か起きた場合は『敵対』か……『挑戦』かだ」
「つまり? というか敵対ってなに怖いんだけど!!」
「謎解き進展!! 灯台に行ってみよう!!」
「聞けよ!!」
紐で繋がっているので、ケイの行く方向に流されるリア。仕方ないので結界を蹴り横に並び泳いで灯台に向かう。天辺にある灯台の黄金の皿。その中央に小さな氷のような物体が飛び出ていた。
「匂いは嗅げないが、これで答えは分かる」
ケイは魔力を指先に纏うと、塊に向けてパチンと火花を散らした。魔力で構成されたが故に、一瞬とはいえ水の中でも生み出された『火』は。着火した。塊を起点に炎が吹き上がる。
「やっぱり、メタンハイドレートだ」
「あぁ!! あれね、燃える氷ってやつだろ?」
「合ってる、ここが高圧で冷たい海だからこその仕掛けだな」
「でも、それって水中でも燃えるもんなの? 酸素いるんじゃないの?」
「さぁ?」
「まーた遺跡のオーバーテクノロジーか?」
そんなどうでもいい会話をしていた時。黄金の皿がキラリと光ると中央のメタンハイドレートが赤化し始め……もう一つの灯台に向かって紅いビームのような光を放った。
「ぼふっ、びっくりした。どう考えてもメタンハイドレートじゃないじゃん!!」
「というか、魔力の火種でも正解でいいんだ」
紅いビームはもう一つの灯台にあるメタンハイドレートに着火。同じように、火の灯っていないもう一つの灯台に向けて紅いビームが放たれる。3点を結ぶビームは三角形を描き、次いでラグ遺跡の頂点に向けて紅いビームが伸びる。ちょうど中央でビーム同士は衝突し、火花のような光を放つ。近づく前にケイは水陸対応望遠鏡で火花を確認。
「鍵穴だ!!」
「よしきた、行くぜ親父!!」
火花の中央には深海の闇よりも黒い鍵穴の形をした穴があった。そこに黄金の鍵を差し込み捻る。すると、大地と海が共振を始める。
「あばばばば」
リアは《結界魔法》でケイと自分を覆うと土埃から身を守る。濁った海水の向こうでラグ遺跡が青白い光を放っている。
「親父、どうする?」
「見えない中突っ込むのは危険だ、と言いたい所だけど俺の酸素ボンベもギリギリだな。行こうかリア」
「りょーかい」
近づくと分かったが、ラグ遺跡がまるでルービックキューブのように動き形を変えているのが分かった。そして時間にして十数秒。凄まじい速さで組み替えられた遺跡は四角形へと変わり、リア達の眼前に渦が巻いた。リアは渦に軽く魔力を流して検査して、少し驚く。
「よくある《門》の類いだ」
「《門》か。少し考えものだが、ここで引き返すのも。うむむ、リア、ここから先は父さんだけで行かせてもらえないか?」
「やだ」
「ふふっ、なら勇気を出して踏み込もう」
ケイが渦に触れると、掃除機のように吸い込まれる。当然、紐で繋がっているリアも「ぐえっ」と腰に衝撃を受けながら吸い込まれていった。「ごぼぼぼぼ」。
…………………
「「うぉぉ!?」」
2人して情けない声をあげながら、空気のある空間に放り出される。ドサリと落ちた地面は硬く、リアは少し咳き込みながら《灯よ》と周囲を照らした。
小柄が故に酸素ボンベに押し潰されているケイを起こす。ケイはゴーグルや装備を外し一息つくと「良かった、即死トラップじゃなくて」と溢し、リアは「はぁ!? 危険性くらい最初に言えやぁ!!」とアイアンクローをする。
「いたたたっ!? す、すまんて!! でもほら!! こうして遺跡の謎は解けたんだから!!」
「……はぁ、付き合うって決めたのは俺だしな」
どのみち選択肢も無し。アイアンクローを解く。
「にしても、ここは遺跡の中なのか?」
灯りで飛び出してきた場所を照らすと、未だ渦を巻いている。《門》……のような仕掛けはまだ機能している様子だ。ケイは《鍵箱》を捻ると巨大な照射装置を取り出した。
「LED照射装置起動」
瞬間、遺跡は広範囲に照らされる。内装は砂漠のアルマスラ遺跡とほぼ同じだ。唯一違うのは、入口も出口もないところ。
そして、中央には台座がある。リアとケイは慎重に台座まで歩みを進める。
台座にはアルマスラ遺跡と同じように石板があり。隣には銅色の鏃を携え、小さな魚達の装飾が施された『矢』が置いてある。
「なー親父ぃ、これさぁ」
「絶対動くぞコイツ」
「金色の方に貫かれたから今更と言えばそうなんだけども。身体に何か起きてるよな?」
「明らかになぁ。でも……」
「「今更、引き返せねぇ……」」
もう後退は詰んでいる。そうだ、進み続けるしかないのだ。謎を解かなければ、身体に刻まれた幾何学模様の正体が分からない。これから先、気にせず暮らせるかと言われれば無理である。ケイは石板を撫でる。刻まれている文字は解読できない。
「リア、準備はいいか?」
静かにコクリと頷くと、ケイは台座から石板を外した。
そして、魔力もなく浮かび上がる矢。鏃はリアに狙いを定めて飛来する。反射神経で思わず掴んだ。
「うぉおおおやっぱ怖いぃ!!」
抵抗する。しかし推進力の方が高いのか、ずるずると矢は進み。
「あ」
手からすり抜け胸を貫いた。全身に、今度は奇妙で説明し難い模様が浮かんでは消えた。
「普通に痛いっ!!」
「俺も痛い……」
リアとケイを貫いた銅の矢は、仕事を終えたとばかりにその辺を転がる。ケイは拾い上げると、石板と矢を《鍵箱》に片付けた。
「親父、この『矢』に関する情報とかないのか?」
「うーん、一度本部に戻って調査ファイルを確認してみないことには。こういう不可思議なケースは初めてじゃないが、今回は身体に『模様』っていう異常が出てるしな。詳しく検査した方がいいか」
「はぁ……これは1週間で復学は無理そうだなぁ」
「いいじゃないか。1年ぐらい留年しても」
「よくねぇよ」




