ゴールドシーカー4
「読める読めないにしろ、この2つの遺物は回収するの?」
リアはケイに問いかけると、彼は腕を組んで悩むような仕草を見せる。
「下手に回収して生き埋め系の罠が発動したら終わりなんだよなぁ」
「俺がいるの忘れてない? 地中に埋まる前に全て吹っ飛ばしてやるよ」
「リアの拳ってそこまで強いの?」
「いけるぞ」
「我が娘すげー。なら回収するか」
リアが断言すると、ケイは決心がついたのか石板に手を伸ばした。左右の手で両端を掴み、ゆっくりと持ち上げる。罠などの類は……発動しなかった。
「なんか……すんなり取れたな」
ギュンと音が鳴り、ケイの《鍵箱》に石板が仕舞われる。リアも何事も起きなかった事に内心でホッとする。
さて、じゃあ謎の黄金の矢も回収しようか。そう思い視線を移した時だ。
ない。
「あれ、矢がない?」
リアの呟きにケイが確認の為、覗き込もうとした瞬間。リアの第六感が危険を告げる。ケイを小脇に抱き持ち上げると身を翻す。そして、ギリギリ見える速さで金色の軌跡が通り過ぎた。
「動いて!?」
それが矢である事はすぐに分かった。壁に当たる寸前で止まった矢は方向を転換すると、再びリア達に鏃を向ける。リアは咄嗟に結界で矢を囲った。しかし……。
「はい、いつもの」
矢は結界を無視してゆっくりと通り抜ける。それが魔法の無効なのか魔力の無効なのか分からないが、不味い事態なのには変わりない。ここでドラゴンの血と《境界線の狩武装》を纏っていて良かったとリアは思った。
そして、耳を澄ませば風切り音が鳴る。空中に踊るように避けると、矢は再び黄金の軌跡を描く。
「うっぷ、目が回る」
「んな事言ってないで親父!! どうにか出来ないのか!?」
《皐月華戦・改》をぶっ放したい。しかしそんな事をすれば生き埋めは確実だ。それから、人よりも体力があるとはいえ、避け続けるには限界がある。というよりも、さっきから矢の動きが速くなっている気がする。
「最適化してるのか? 確実に突き刺すつもりだなこの野郎!!」
立体起動で避けるリアに対し、三半規管をぐるぐるにされたケイはただただ吐き気を抑えるのに必死だ。だから、脳内に直接言葉を届ける《念話》を発動するとリアに提案する。
『リア、俺を降ろしてくうぇっぷ』
『何か策があるのか?』
『一か八かだが、やってみよう』
『……』
信じているからなと言いたかったが、この親父に言うのは癪なので黙るリア。空中から一回転し避けた後で、ケイを降ろす。リアを狙っていた矢は、一旦空中で止まると、標的をケイに変えた。
「来い!!」
金の軌跡が駆け抜けて。鮮血が舞った。ドサリと小柄が崩れ落ちる音が虚しく響く。
「は?」
すんなりと、矢に貫かれたケイを見て、リアは思考が一瞬止まる。その間を逃す矢ではなかった。右肩を抉るように突き抜ける。《境界線の狩武装》は意味がなかった。
「くはっ、ぐっ!?」
焼けるような痛みが走り、胸元を見ると、薄らと非ユークリッド幾何学な模様が現れて、即座に消えた。同時に痛みも消え、カランと目の前で何かが落ちる音が鳴る。矢は俊敏な動きを停止して、リアの前に転がった。金色の鏃は色褪せず、血すら付いていない。
「って、親父!!」
倒れているケイの元に走り寄ると、身体を起こす。首元に指を当て、動脈を確認し生きてる事にホッとした。それから、貫かれた胸元の服を開き確認する。傷口はそこには無かった。
「はぁ……」
良かったと言うべきなのだろう。だが、同時に訳も分からない。そう思いながら、リアはケイの頭をペシペシと叩く。
「起きろー」
「んんっ、あれ、俺死んだんじゃ?」
「滅多な事を言うなよ。アンタが死んだら母さんが悲しむだろ。それで、俺もあの矢に貫かれたんだが、傷口が塞がった」
「俺の胸にも……服は破れてるし、確実に貫いてはいるんだな……。なるほど、やはり仕掛けの一つだったか」
「仕掛け?」
「無事な事に意味があった。狙い通り……ではあるんだけど、少々面倒な事になったかもしれない。……取り敢えず、矢を回収して一旦街まで撤退しよう」
「……分かった」
…………………
泊まっていたホテルに戻ってくると、ソファに座る。ケイは前にあるテーブルに石板と矢を置いた。
「それで、話してもらおうか? 何が面倒なんだ?」
「うーん、それが……よく分からん!!」
「は?」
「我が娘よ、真剣に考えて普通に分からんだろ。謎の矢に貫かれて、なのに怪我はない。リアの話では幾何学模様が浮かんだみたいだけど。専用の装置で血液を調べてたり、全身の筋肉を調べたり、骨を調べたりしても『健康』なんだ」
「魔力的な……いや、呪力や神力の場合は俺にも分からないか」
「そうなる。つまり、分からないことが厄介だ。ナニカされたのは確実なんだからな」
「……師匠とかに協力してもらうか?」
「ダメだ、この矢がどういう原理で人を襲うのか分からない以上は、下手に俺達のパーティーに入れるべきじゃない」
「確かに、《鍵箱》の封を破って人を襲う可能性もあるしな」
「あと、リアの最強魔法すら貫通したんだ。ハッキリ言って普通じゃない」
徐に矢を手に取り、鏃に目を向ける。黄金の矢はうんともすんとも言わず、ただ手の中に収まっていた。
「リア、お前はどうしたい?」
唐突にケイがリアに問いかける。どうしたいか。つまり、調査を続けるか降りるか。この場合……ケイは単独で最後まで突っ走るだろう。幾らろくでなしの父親といえど、家族なのだ。リアは見捨てるなんて事はできない。1人の魔法使いとしても。
「次の遺跡に行こう」
「……分かった。とはいえリアの時間は有限だからな!! 今日はしっかり休もう!! そして明日《門》で移動して海底のラグ遺跡に向かうぞ!! 装備はきっちり揃っているから安心するといい!!」
「あ、俺半分ドラゴンだから水中呼吸できるぞ。あと、たぶん深海の水圧にも耐えられる」
「まじで? ドラゴンの血ってすげーな。普通に俺も欲しい」
「その代わり、長い寿命っていう枷が着くけどね。親父は……母さんと一緒に歳をとってくれ」
「……そうだな。すまない」
その「すまない」には、今まで家を空けては調査に明け暮れて、挙句家族が人外になってもなお帰って来なかった自分への戒めなのだと分かる。反省はしているだなと、言葉にはしないがリアは受け取った。
……………
翌朝。ケイの持つ小型船ごと《門》で飛び、ケイが示した南太平洋の南極海に近い、ある所。GPSで座標を確認しながら船を進めていき、1時間ほどで目的地に到着した。とにかく寒い。
ここから向かうは、海底に沈んだのか、将又海底に誰かが作ったのか。全てが謎の『ラグ遺跡』。砂漠以上に作った理由も作り方も不明の、超技術か超文明の名残り。
事前にケイの振動や音波装置により、遺跡の外見だけは判明した。作りは三角形だ。けれど、至る所に謎の柱が立っている。これまた、仕掛けというやつだろうか?
「ラグ遺跡の伝承には『行き先を照らすは炎のみ』『光差す道は熱の糸』。ってあるけど、つまり入りたければ謎解きしろってことだな。砂漠と違って、こんな所に来れた時点で試練とやらはクリアしてると思うんだけどなぁ」
リアはケイのため息に大凡同意して頷いた。
短編にならない気がしてきた




