ゴールドシーカー3
ふたつ目の鏡を調節すると、みっつ目の鏡に光の線が伸びる。そして、みっつ目の鏡の光は空に向かって伸びていた。リアとケイは砂を踏み締めみっつ目の鏡の元に向かう。
「魔力の残滓だ。驚いたな、この鏡はひとつの魔法……いや『情報媒体』として機能している」
「これって考古学的に……どういうこと?」
「リアへ分かりやすく説明するなら、古代のスーパーコンピューターだ。現代でも通用する最新式のな」
「オーパーツじゃん」
話をしていると、ひとつ目の鏡の辺りから鳴き声のような音が聞こえる。蠍型の魔物のようだ。リアは遠距離からの《結界魔法》でぶん殴る。魔物は呆気なく消滅していった。
「リアがいると魔物の処理が楽でいいな。今度、別の遺跡に同行しないか? あぁでも考古学者の証明が無いとダメなんだったか」
「俺が興味を持つ事だったら手伝ってやらん事もないよ。でも今はこの鏡に集中しようぜ」
みっつ目の鏡を調査すると、台座に上下のレバーが備わっている事に気がついた。どうやら調整用のレバーのようで、下に動かせば鏡も下に向いた。
「鏡の光を月に向ける……」
ケイとリアは協力して台座を動かす。薄らと、太陽の光に隠された月に向けて、鏡の光を飛ばす。
「……」
「……」
無言で空を見つめる。青空の明るさで、薄らと存在感の薄い月に光の線は照準を合わせられた……はずだ。
「なにも起きねぇな?」
「そんな筈は……」
その時。月がキラリと光った。
「お?」
そして、瞬きの次。
ミサイルが如く光の爆弾が墜落する。無数の魔法陣を纏う、魔力で出来た青白い光の玉は、三角形の中央に着弾して周囲を吹っ飛ばす。
「「ぬわーぁ!?」」
凄まじい爆風の中、リアの「《結界魔法》!!」と叫ぶ声が聞こえる。土埃が舞い、周囲の視界が途切れる。砂の暴風は荒れ狂い、暫く視界が拓ける事はないだろう。
「び、びっくりした。助かったぜリア」
「俺も心臓がバクバクしてんよ、マジでびびった」
尻餅をつき、ケイはケラケラと笑う。これだから古代の調査は辞められないのだと。未知に攻撃されるのは初めてではない。寧ろ、侵入者を拒む為に罠や攻撃魔法を仕掛けてある遺跡の方が多い。だからこそ、古代の人の思いを知り、未知を歴史を遺跡を暴くのは楽しいのだ。まぁ、悪い言い方をすれば墓荒らしと大差ないのだけれど。
そして、光の着弾点から魔法陣が広がっていく。鏡の台座が勝手に動き、三角形の魔法陣を描いた。何処かで「ガチッ」と音が鳴り、地響きが鳴り始める。
地響きの中からやがて遺跡が姿を現す。古代の技術で作られた、隠し部屋への入り口は丁寧な石彫りで装飾されており。侵入者を歓迎しているように見えるが、当然ながらそんな事はない。中から香る独特の匂い、生温かい空気。まるで、巨大な生物の口のように感じた。
端的に言えば、生物特有の恐怖を感じる。
だが、同時にワクワクも最高潮だ。ケイはWi-Fiの中継機を入り口に設置すると。
「よし、行こうリア!!」
「おう!!」
……………………
《純粋な灯り》。この魔法は、魔法という存在が生まれて最も原初とも言える魔法だろう。けれど文明が発達するにつれ、皆が忘れていった魔法だ。そんな魔法をケイは愛していた。かつて意味があり、今は無価値とされたそれら。歴史の歩みでもあり、遺跡を巡る上で楽しみの一つでもある。
《純粋な灯り》が照らす階段を、リアとケイはゆっくり降りていく。左右の壁には松明がかけられているが、下手に火を着けていらぬ仕掛けを動かしたくない。
火は時に、攻撃性をもつもの。古来より火の扱いに人間は丁寧だ。そして、火は時に神を意味し神聖視される。古い時代、誰もが魔法使いになれたわけではない。だからこそ『火』に対する信仰は多い。
故に、人は信じられる《灯り》を求めたのだろう。
「あと、どのくらい降るんだ?」
暗闇が手招きしているような闇に向かって、リアは少しだけ恐々とする。闇は現代まで続く純粋な恐怖。闇は大人も子供も関係ない、誰だって怖いものだ。ただ、色んな遺跡を巡ったケイからすれば慣れた隣人でもある。
「経験から……あと200段くらいじゃないかなー。それよりも、リア。折角の遺跡だから、説明しときたいことが多数ある。時に、リアは『魔物』についてどこまで知っている?」
「え? うーん、廃棄された濁った魔力が、動植物の死骸を介して受肉した害獣?」
「大体あってるよ。でも、なら不思議じゃないか? なんでそいつらは自然の動物じゃなくて人間を襲うんだ?」
「……」
今まで、産まれてから世界の常識として魔物は人を襲うモノだと考えていたが、確かに真剣に考えると『何故』? リアは言葉を返す事ができなかった。
「昔の人々は今よりも、もっと曲がった考えた方をしていてな。魔物は人々に対する天罰だと考えた文明がある。ここで問題だ。魔物を倒してくれる魔法使いや戦士を、昔の人はどう捉えていたでしょう?」
「……物語で言うところの、神聖な巫女や勇者のような存在」
「正解。そう、遺跡は勇者に対する畏怖と尊敬で築かれる事がある。もしくは人々を護った勇者を弔う『墓』になる」
「つまり、この遺跡は墓だと?」
「たぶん違うんじゃねぇかな」
「さっきの話なんだったんだよ!?」
「いやね、死者のいる独特の雰囲気がしないのよ。だから、警戒しろって言うのさ。墓じゃないなら、遺跡は何の為に残すんだって話だろ?」
「王様の生きた証とか?」
「間違いじゃない。けど、正解とも言い難い。質問を続けるようで悪いが、リアはギルグリアを見るまでドラゴンなんて信じなかっただろ?」
「まぁ、そりゃあなぁ」
「けど、昔の人々はドラゴンを知っていた。魔物に伝説の生き物。彼らの畏怖や恐怖は計り知れない。故に作るのさ、遺跡を」
「……余計に理由が分からないな」
「考古学はだからこそ面白いのさ。そして今回の遺跡から感じるに……。ここはシェルターか兵器……もしくは『倉庫』だな」
「はぁ? 突飛しすぎじゃないか?」
「そうでもないぞ? 例えるなら……ノアの方舟伝説を知ってるか?」
「世界中の動植物を乗せて、世界規模の大洪水を生き抜いた御伽話? 確か今回の伝説でも、ノアの話があったな」
「あぁ。そして、あれも一種のシェルターだ。昔の人々からは『残す』或いは『遺す』事が大切だ……と感じさせる痕跡が多い。そして今回、鍵による封印と、あまりにも簡単すぎる謎解きがあっただろ? あれは単なるお遊びじゃない。魔物やドラゴンが一々謎解きなんてしない」
「だから、大切なモノを仕舞うシェルターか倉庫ってこと? じゃあ、兵器はどういう意味なのさ?」
「言葉通り。昔の魔法使いが杖を使っていたように、古代の人々も何かしらの特異な武器を持っていた。見てきたからこそ言える言葉、いや確信だ」
「武器……」
「よし!! さて、Wi-Fiと繋げた反響端末によると、そろそろ終点だ。さて、今までの話を総まとめして、なぜ俺がもっと警戒しろって言ったか分かるか?」
「兵器を守るって事はつまり、遺跡の守護者とかがいるかもしれないからだろ? 現代でもミサイルを撃つボタンは厳重に管理されるもんな。昔の人も簡単に必殺技を放つ訳にはいかないし……その、生贄とかも普通だったと思うからな。奥の手は慎重だったろうぜ」
「大正解。生贄に関しては特に。んじゃま、気ぃ引き締めていくぞー!!」
………………
拓けた場所に出た、と思う。余りにも暗い為に、空間が広がった事しか分からない。灯りを設置したいが下手に歩き回り罠でも踏めば厄介だ。
ので、ケイは浮かんでいる《純粋な灯り》をガシリと掴むとぶん投げる。その細腕からは想像できない音が空を割き、灯りの弾はざっと50メートル先辺りの壁にぶつかると引っ付いて、より強い光を放つ。光のお陰で壁が仄かにカーブしている事が分かった。
「ざっと中心から25メートルの円状ね」
「割と狭いな」
「雑な謎解きだけさせて、はいそうですと簡単に遺物を渡す訳がないんだがな。厄介な遺跡の多くは、少なくとも罠があった」
「じゃあ、俺が先行を切るよ。罠ごと踏み壊せるしな。《純粋な灯り》《境界線の狩武装》」
「あ、待ってリア。《鍵箱》っと」
ドサリと装置の落ちる音が鳴る。
「LEDの広範囲照射システムだ。これを中央に配置してくれ」
「了解」
重い装置を軽々と持ち上げたリアは、ゆっくりと歩みを進めていく。なんとも言えない空気だ。墓でもなく、宝の山がある部屋でもない。それでも確かな『意思』がある。人の『思い』を感じられる。
歩みを進めていくうちに中央まで辿り着く。すると、《純粋な灯り》が一つの台座を照らし出す。気になるが、下手に触る訳にはいかない。ここは経験豊富な父親に任せるべきだ。リアはLED照射装置を設置すると電源を押す。ガシュ!! と装置が動き、柔らかな光が辺りを照らす。
「罠は無さそう?」
「甘いぜリア、気を抜いた時に古き一撃が飛んでくる。最強の装備なのかもしれないが、貫通する可能性は考えておいた方がいい」
「俺の魔法を貫く?」
「過去は常に未知だ。未知というものは凡ゆる可能性を内包している。リアだって、つい最近まで『神』や『呪力』の存在を知らなかっただろ?」
「うん……。分かった、慎重になるよ。でも……」
リアは中央の台座に目を向ける。そこにはスマートフォンや携帯端末サイズの石板と、古そうな『矢』が安置されていた。矢は芯の部分は普通の鋼鉄製に見えるが、鏃が少し特殊な形状をしている。どこかの漫画で見たような、黄金の鏃。金色の鏃には蠍が装飾されていて、小さな赤い宝石が埋め込まれていた。
石板には文字のようなモノが刻まれているが、なんと書いてあるのか読めない。首を傾げるリアの元に、ケイが周囲を警戒しつつも歩み寄ってくる。
「これは……」
右側にある矢を一瞥した後、ケイは石板を見る。手袋をつけると石板の文字をなぞった。
「驚いた。古代ヘブライ語……いや、アダム言語か?」
「アダム言語?」
「アダム言語は、神が人に授けた最初の言語とされている、全ての言語の祖となる言語で。古代ヘブライ語は一度滅亡した言語だ。翻訳するにはかなりの時間がいるし、翻訳作業もここではちと無理だな。それに、どう頑張っても半年はかかる」
「意味は分からなくても、読める?」
「声や音としてなら口に出す事ができる。だが、流石にわからない部分が多いな。アダム言語なら、友達に手伝ってもらわないと無理だ」
まさかこの訳のわからない言語を、意味は分からずとも少し読めはするケイに、ほんの少しだけ尊敬の念を抱くリアであった。仕事には本当に真摯なのだと分かったから。




