閑話4
あれ、レーナの姉って『ルーナ』だっけ?(設定を忘れている)
レーナとニャルは喫茶店で向かい合っていた。話の中心は勿論、レーナの姉ルーナについてだ。いい加減、何があったのか聞きたいとレーナはニャルに詰め寄った。
「話の前にこれを見てほしいの」
ニャルは前置きをすると、袖を巻き上げた。すると、白い腕には大きな火傷のような模様が出来ていた。
「特殊な呪詛とでも言えばいいかしら? このまま進行すると、私は焼き消えてしまうわ」
「呪詛ですか……」
「えぇ、そして貴方の姉であるルーナは、私の中にいるわ」
「うん?」
要領を得ない告白に困惑を浮かべる。そんな反応を予想していたニャルは、無駄に高いINTを総動員しながら分かりやすく解説しようと努力した。
「始まりはハスター……私と同じくらいの力を持つ神性だと考えくれればいい。私、アイツと仲があまり良くなくて。ヨグ=ソトースを一度起こすか否かで、殺し合いになるくらいの大喧嘩をしたの。宇宙の隅っこで殴り合いをしたわ。その時に、ハスターにやられたのよ」
「負けたって事?」
「えぇ、負けたわ。ハスターによって私は人間にまで神格を落とされて、暫く地上を這いつくばっていたの」
コツコツとニャルは手の中にあるコップを指で叩く。コーヒーの水面に映るニャルは……言葉とは裏腹にとても楽しげな顔をしている。
「そこで出会ったのが貴方の姉であるルーナ。彼女に拾われて、どうにか消滅は免れた」
「まぁ、お姉ちゃんならやりそう。それで?」
「彼女と共に暫く暮らしたわ。けど……ほら? 私って『だいたいの黒幕』って呼ばれる程に遊んできたから……敵は多い。前に探索者とした人間が私の転落に気がついていたようでね。クトゥグアを召喚したの」
「クトゥグア……聞いた事ありますね。確か炎の神だと」
「えぇ、旧支配者の一体。私を殺したくて仕方ない神性。ところで突然、話を変えて申し訳ないけれど、この世界軸には独自の『魔法・魔術』が存在するわ。私達ではなし得ない事も成せる、人間の力があるの。そして、クトゥグアに消滅しそうになった私をルーナが庇ってくれた。ルーナは所謂、私の魂の柱になったの」
魂は人間を形作るモノ。それは神であろうと変わらない、この世界の摂理だ。その根幹を担うということは『消滅』を免れるということでもある。
「そんなの……」
神の炎をくらい、ニャルの魂の根幹になったなら。人間性や理性や存在が消滅しているんじゃないか? そうでかかった言葉を飲み込む。ついこの間、神の一端と戦闘したのだ。神性という恐ろしさは嫌というほどに思い知った。
「あいにくと、私も神の端くれ。退散の呪文は知っていた。あとは、ルーナをどうにか回復させて私から切り離すだけ。でもそれが難しいの」
「話は分かった、でも今は神性を取り戻したんでしょ?」
暗にもうできるんじゃないか? と伝えると。
「呪詛は強力で。念話による軽い意思疎通ができるくらいには回復したけれど、まだまだ予断を許さない状態よ。それで、軽い念話で話したわ、貴方のことを。いいお姉さんね、探索者でもある貴方のことをとても心配していたわ」
「それで、私に加護を……」
無茶しすぎの姉。そして優しい姉を知れてよかった。そして死んでいない事に胸をホッと撫で下ろす。
「話は以上よ。質問は幾つでも受け付けるわ」
ニャルはそう言って話を締め括った。
「まず、お姉ちゃんは助かるの?」
「最善を尽くしている、としか言えないわね……」
「まぁ、神の最善なら医者より確かか。次に念話で話をしたって言ってたけど、私もできない?」
「今彼女は呪詛を少しでも減らし回復をする為に眠っているから、難しいわ」
「なるほど、じゃあ話は以上かな」
「いいの? 私のせいで貴方の姉は死にかけたのに」
「お姉ちゃんなら人だろうが神だろうが助ける性格だから。うん、私のお姉ちゃんは立派だって分かったよ。それに、一応はニャルラトホテプの庇護の元にいるなら、これ以上ないくらい安心できる」
「ありがとう」
「寧ろ、貴方の加護のおかげで助かった場面もあるからか、文句を言う資格がないしね」
それからは、神についてと呪いについての講義を行なってもらい、レーナは探索者として新たに一歩、踏み出せたのだった。呪いは不思議だ。日本区域の呪いとは別。呪詛も地域や神々によって異なる。レーナの今後の課題は、クトゥグアがつけた呪詛の解除と魂の根幹作り。ただ魂の根幹はニャルラトホテプしか出来えない事だと思う。だから、ここからは神話の世界だ。現代魔術がどこまでいけるかは、今後の努力次第による。
「ところで、ニャルラトホテプ。貴方、まだ探索者で遊んでるの?」
「当たり前じゃない」
「救いようがないな……」
「しょうがないじゃない。私は『そういう神』に産まれたのだから」




