閑話3
アイガと話をする。忘れられかけているが、家の仕事を一身に受け持ってくれている彼女にお礼をしたいとリアは考えていた。しかし、機械人形、又はオートマトンの欲しいモノなど分からない。だから、プレゼントとして何が欲しいか聞こうと思ったのだ。
リアの省略された「何か欲しいモノある?」という質問にアイガは悩む。機械人形が悩む時点で、ある種の特異点を超えているのだが、のほほんとしたリアが気がつく事はない。暫し考えたのち、アイガはこんな事を言った。
「みなさんと、家族団欒の時間だ欲しいです。デイル様が相手だと暇でして。それに、皆さんの顔を合わせた様子を記録メモリに収めたいです」
「ぬ、母さんの予定だけ聞いたらいつでもいけそうだな」
それから家族は久しぶりに全員揃い、アイガに構いながら共にゲームをしたり語り合ったりと楽しく時間を過ごす事ができた。特にクロエが懐き、2人でよく対戦ゲームをしていた。
ギルグリアも一応呼んでみたが、今回は彼女は大人しく、それでいてリアにベタベタと付き纏いルナにボコられてを繰り返している。意外と嫌な接し方は無かったのでそこまでボコらなくてもと思ったのだが、コミュニケーションの取り方がドラゴンとしての感覚から人間に近づいてる証拠なんだなと思う。コミュニケーションを学んでいるのだ。その点で言えばアイガとギルグリアは似た者同士である。
そして3日目あたりでノルンが仕事の為に離脱してしまった。
そんな折、リアはひとつ提案をする。
「家の事は師匠に任せてさ。うちの学生寮に来るか?」
「ちょっと待つのじゃリア。わしが寂しくて死んでしまうぞ」
「師匠は遊び歩いてるじゃん。部屋の掃除だけしてくれたらいいよ」
「むぅ、しかし確かにわしも、感情としてはアイガが学生寮に行く事は賛成じゃ」
「どう?」
リアの問いに、アイガの動かないはずの表情が綻んだように見えた。
「是非!!」
……………………
時は経ち。デルヴラインド社の広告の為に、ドレス姿を撮影する仕事を請け負ったリアは、本社前に立っていた。
壮観だ。グレイダーツ校もある意味で壮観だが、こちらは機能美とでも言うのだろうか。本社に無駄が無く、それでいて最先端のサイバーパンクな感じを惜しげもなく出していた。広告は宙に浮かび、道ゆく人や車に宣伝を撒いている。
これに映るのか? 引きそうになる足を無理矢理に動かしてリアは本社のゲートを通る。
広いロビーに、こぢんまりとした受付。ロビーはカフェも兼ねているようで、至る所でスーツ姿の人の取り留めのない会議がなされている。
視線がこちらに向くのを感じつつ、受付まで向かう。受付に行くと、優しそうなお姉さんが「リア様ですね、お待ちしておりました」と告げた。
「こちら、社内通貨も兼ねた仮社員証になります。社内で何か欲しい物があれば、これで決済できますよ」
「あ、はい」
「それから、撮影場所は第二スタジオになりますので、エレベーターで2階に向かい、そこから4番目の部屋に向かってください。扉の上にネームプレートがあるので、すぐに分かると思いますよ」
「ご丁寧にどうも……」
仕事なのに超VIP待遇である。やはり次期社長は伊達じゃ無いという事だ。
そして言われた通りに向かい部屋の前に来ると、軽くノックをしてから扉を開く。
「お、来たか。ようこそリア」
撮影機材の影にライラを見つけ、思わずホッとする。
「来ましたよ先輩。なんか凄すぎて、もう俺の語彙力では表現できないです……」
「まぁ……知名度が高くなると、それなりにオフィスも豪華にしないと、他企業にナメられるからなぁ。それはさておき、リア。覚悟はできてるな?」
「今更ですよ、何着ればいいんですか?」
「あの中央を見るのだー!!」
撮影機器、その中央に映えるのは、一輪のドレスだった。というか……。
「ウェディングドレスじゃないですか!?」
「あぁ、被服部門初の防弾仕様ウェディングドレスだ」
「防弾機能いらねぇ……。でも、そっかウェディングドレス」
まさかのドレスに驚くと同時に、別に着てもいいかと思う自分自身に驚いた。3年前の自分に、ウェディングドレスを着る機会があるなんて言えば鼻で笑い飛ばすだろう。
「じゃあ早速だが、着替えてくれ。撮影するぞ!!」
「はーい」
…………………
女は化粧で変わると言うが、いざこうしてプロの人にメイクしてもらうと。
「これが俺? まじかよ男だったら告白してるぜ」
思わずナルシストな台詞が出てくるくらいには、変わるものだと思い知った。自分で言うのもなんだが、リアは格好良い系の少女だ。しかし、メイクひとつで乙女になる。まるで、これこそ魔法のようだと思った。
それからデルヴラインド社の人にウェディングドレスの着付けを手伝ってもらい。
「お、重いな」
結構な重さに驚く。着飾る為には苦労がいるのだなと思った。そうして着替え終わるとほぼ同時にライラが入室してくる。ライラは顎下に手を当て「ふむ」とリアを観察すると。
「予想以上に似合っているな。これなら他のドレスも……いやスポーツウェアの方が? いやしかし」
次に着せる服を想像しているライラに思わず苦笑いしつつも。
「先輩、撮影いきましょうか」
「む、そうだな」
撮影はつつがなく行われた。ある程度のポージング指示にも従い、作り笑顔もそこそこに、リアの輝いた姿がカメラに納められていく。
百以上のフラッシュがたき終わる頃には、そこそこ時間が過ぎていた。
「ふぅ、結構つかれた」
「お疲れ様だ、どうだった?」
「まぁ……正直」
こればかりは、女になってみないと味わえない楽しさだと思った。男は格好良さやセクシーさを、女は綺麗や男と同じくセクシーさも求められる。撮影するプロ達によって、被写体は幾らでも輝くし、被写体も努力次第で幾らでも変わる。そんな一度の撮影会では、様々な分野で歩んできた人々の技術の結晶がいるのだ。
その中心に立つ事は、こんなにも楽しい。
「楽しかったです」
「そうか、なら良かった。あ、あとな」
ライラが遠くにいる人を手招きする。1人の女の人が駆け寄ってきた。スタッフさんであり、彼女はリアの前でペコリとお辞儀をする。
「あ、あの!! ファンです!!」
「はえ、ファン?」
意味が分からないと首を傾げるリアに、ライラは笑みを浮かべて口を開いた。
「なんだかんだで、リアは有名人だぞ」
「実感が無いなぁ」
自分の師匠であるデイルのように、人の記憶に残る人間になれている。しかしいざ、こうして対面すると実感が全く湧かなかった。そんなリアに、スタッフさんは興奮した様子で。
「それで、その!! 《境界線の狩武装》を見せてもらえませんか!?」
どうやら、リアの魔法に惚れ込んでいる様子だ。リアは暫し逡巡し、快く了承する。
「いいですよ、ドレス脱いでからになりますけど」
「ありがとうございます!!」
そこで、ライラは良いことを思いついたと表情に出しながら。
「リア。なんなら《境界線の狩武装》の状態も撮影させてもらえないか?」
「俺の魔法が紙面に……?」
「特大号で載せてやるぜ?」
「そんなの……大賛成に決まっているじゃないですか!!」
有名人になりたいリア。掴んだ今は、自身にしか展開できない魔法を見せる機会だ。断る理由などどこにあろうか。
別室でウェディングドレスを脱ぐと、再び撮影場所に戻る。
「リア、好きなように変身してくれ。カメラ目線で頼むぞ」
「私、ワクワクしてきました。頑張ってくださいリアさん!!」
「ありがとう、じゃあちょっと演出入れて装着しますね」
撮影機器の前に立つ。キラリと魔力の鱗粉が舞う。ぶわりと風が吹いた。すると、周囲から魔力が固まり始め《境界線の狩武装》の装備が展開されていく。空中に浮かぶ装備の数々に、女性スタッフさんは目を輝かせながら見つめていた。
「変身!!」
リアが両腕を広げると、ガシャンと音を鳴らしながら武装が装着されていく。最後にふわりと被服部分が舞い装着が完了した。
「どう?」
「ナイス装着、カメラマンの皆も撮れたか?」
「バッチリっす!!」
ライラは満足そうに。カメラマンの方々もかなりノリノリであった。それから、様々なポージングをしつつ撮影会はつつがなく進んでいき。気がつけばお昼を過ぎた時間になっていた。
「ライラ先輩、今日はありがとうございました。スタッフの皆さんもお疲れ様です」
ペコリとお辞儀をすると、周りから「俺達も楽しかったぜ」や「また来てねー!!」など温かな言葉が返ってくる。
本当に楽しかった。そんな思いを胸に、リアはデルヴラインド社を後にした。
後日、紙面にリアの姿が載った。結果、リヴァイアサン事件の動画の再生数がとても増えたらしい。ミヤノさんがウカノ様からどうしてもと頼まれて作った動画アカウント、その再生数も鰻登りであり。神社の修繕費が楽になったと礼を言われた。




