閑話2
リアは白亜の城でもある学舎の屋上で少し黄昏ていた。この3年間に多くの事があった。そして後輩もでき、顔が有名になった自分を慕ってくれる子も出てきている。自分は成長していて、周囲には恵まれている。これだけは事実だ。
だからこそ、この先の自分の進路……というものを考えた時にどうすればいいのだろう? と考える。ぼんやりと魔導機動隊に就職する事を考えていた。けれども、皆が生きたいように生きる姿を見て……憧れた。
「俺のやりたい事……か」
改めて声に出すと、やっぱり分からないなと思う。
「なぁ、ギルグリア」
手の甲に話しかけると、直ぐに《門》の扉が現れてギルグリアが出てくれた。
「どうしたリア? 我に解決できる事なら、なんでも聞くぞ!!」
パリコレモデルのようなプロポーションにはいつも拍手を送りたい、そんな彼女にリアは進路を相談してみる。
「この先の人生で悩んでてさ。ギルグリアはどう生きてきたの?」
流石のギルグリアとて、今までの人生を問われれば即答は出来ない。いや、したくなかったのかもしれない。ほんの少しだけ考えてから口を開いた。
「そうさな。我らドラゴンは人の暮らしを見守りながら、献上品の酒や食い物を貰いつつ、村々を守った時期もあった。時には別のドラゴンと対立し殺し合いもしたな」
「殺伐としてんねぇ」
「だが、そんなドラゴンとして生まれてから、ひとつだけ信条を抱いているんだ」
「信条?」
「そうだ。後悔はなく、進む先で笑えれば良い、とな」
「笑う為に行動する、か」
「リアは我の血を受け入れて長い時を生きる事となった。少しだけ寄り道しても、誰も文句は言わないだろう」
「そうだな。ありがとうギルグリア。参考になったよ」
「うむ!! あぁ、それなら我の妻になる話を」
「しません、お帰りください」
手の甲の紋章の効果を使い、ギルグリアを強制的に元の場所に送った。
しかし、ふと思うのはギルグリアとも旅をしてみても良いかもしれないと感じた事だ。だが、レイアとの約束が優先である。けど、うん、心境の変化はかなりあるようだ。
…………………
夜。シャワーを浴びてからテレビの前でまったりしている時。先にシャワーを浴びていたルナが熱いお茶を淹れてくれたので「ありがとう」と言いつつ。
「なぁ、ルナは将来のこと考えてる?」
唐突だが、そう聞いた。
「将来ですか? うーん、進学したいなぁと考えてますね」
「え、そうなの?」
グレイダーツ校では結構、進学を進めていたり、研究所に斡旋したり、魔法とは関係のない事への興味を後押しするシステムが構築されている。さらに優秀な生徒には補助金も出してくれる為に結構な人気だ。ルナは勉学と魔法・魔術ともに優秀なので、おそらくだが補助金は勝ち取れるだろう。リアは勉学はそこまで良くないので無理である。
「まだ、決め切れていないって事でもあります。少しだけ、長い目で見て、色んな体験をしてから職業は決めたいなって考えてますねー」
「ルナも色々と悩んでいたんだな」
「そうですよお姉様!! あ、でもお姉様が私と付き合ってくれるっていうなら私は就職して養いますよ?」
「ダメ人間になる気がするからやめとく」
「ぶーぶー」
ムッとした顔で抗議するルナの頭を優しく撫でて、誤魔化した。
しかし、進学かと思う。自分の場合では答えの先延ばしにしかならない気がするが、残りの2年でやりたい事が見つかるかもしれない。その時に出来ることや技能を増やせればいいが。魔法においては唯一無二で最強を自負しているリアだが、魔導機動隊の実働部隊や護衛などの任務系の仕事、もしくは探偵。それ以外で役立つ事はあまりなさそうなのが、現代社会の悲しい所だ。それでも需要があるのも、まぁ面白い所だなと思う。
…………………
そういえば。エスト先輩はどうしたのだろう? 途端に気になったリアはエストへの連絡先を開いてメッセージを送る。
『こんにちは、リアです。エスト先輩に聞きたい事があるのですが』
簡潔にそう送ると、直ぐに既読が付いて返信がきた。
『私に答えられる事ならなんでもいいぞ』
ならば直球に聞いてみよう。
『エスト先輩はどこに就職しました?』
『私か? うむ、魔導機動隊の対人部隊だな。《鎖魔法》は捕縛に向いているからな。しかし意外と時間も余るから、何か隙間時間にできる副業も探している所だ』
『なるほど、参考になります』
『進路に悩んでいるのか?』
『はい……』
『私は他人の人生にとやかく言えるほど立派な人間ではないが……リアの得意な事が活かせる場所だと良いなと思う。まぁ、まだ2年あるんだ。悩みたまえよ』
『ありがとうございます』
『ではな、また悩んだらいつでも連絡してくれ』
メッセージのやり取りを終えて、また考え込む。自分の力を活かせる場所か。それならば、出来れば『あの場所』が良いな。そう思わずにはいられない。けど、今の自分が手をかけられるとは思えない。
「ならば、必要なのは知名度か」
進むべき道に少しだけ光が差した気がする。
………………
リアの魔法への憧れはデイルという1人の魔法使いの憧れから始まった。だから、彼のようになりたいと思う最初の気持ちを思い出した。
「という訳で師匠、貴方のようになるには、どうすればいいですか?」
「なかなかに難しい質問じゃのぅ」
実家の縁側で、ならんでお茶でも飲みながらのんびりと会話をする。ド直球の質問に流石のデイルも困りながらも。
ずっと、リアの憧れを一身に受けたからこその言葉を紡ぐ。
「わしら一部の魔法使いが英雄と呼ばれたのは、あの時、あの時代に名を刻む程の戦いをしたからじゃ。その点で言えば、リアの知名度もそこそこあると思うがの」
「事変の時に最前線で防衛したから、まぁ知ってる人は多いと思う。けど教科書に載る程じゃない」
「いや、載ると思うぞ? 呪力汚染事変もそうじゃが……リアの持つ魔法《境界線の狩武装》は唯一無二。全てを破壊尽くす最強の拳じゃ。これだけは教科書に載る。それに、その辺はグレイダーツにも頼むつもりじゃぞ」
「そうなの? うん……そうなんだ」
自分の魔法が教科書に載る、というのはどこかむず痒いと思った。けど、それ以上に嬉しい。この時代に名を残せる者など、ごく一部しかいないのだから。その点で言えば、リアの人生における目標の半分くらいは達成したと言える。
「あとは、純粋にビジュアルの良さをゴリ押すのも良いと思うぞい」
「あー、やってみてもいいかも」
ビジュアル。特にリアは黒髪の美しい美少女だ。それに胸も大きい。モデル業には欲しい人材の要素をこれでもかと持っていた。TSして美人とは、かなり恵まれているなと思う。
「ふぉふぉふぉ、わしとの話は有意義じゃったかのぅ?」
「ありがと、結構すっきりしたよ」
「やりたい事を探すのは、人生の最大の目標でもある。目標地点があるなら別じゃが、普通なら今すぐに決められるような簡単なものではないからの。悩むのじゃぞ」
「そうだな……。悩むよ、しっかりと」
…………………
呪力汚染事変の後の話なのだが、夜にグループ通信をする事が多々あった。別にグループメッセージでも良い気がするのだが、なんとも言えない縁を大切にしたいライラの提案を他の遊戯部メンバーが快く了承した形だ。
リア「ってな訳で。人生について悩んでまして」
ダルク「ダルクさんはジル公の事務所に一旦就職するつもりだけど。なんならリアっちも来る? 正直に言えば……死者蘇生の一件みたいな事件が起きた時に助っ人として居てくれると助かる」
リア「探偵ですかぁ。不謹慎かもしれませんけど、楽しそうではありますね」
そんな会話をしていると。
レイア「僕も、とても興味はある」
ダルク「お、レイアは乗り気なのか?」
レイア「うん、けど世知辛い世の中、新卒カードを切るには中々に勇気がいるだろうね」
ダルク「世知辛いって言うけど。連合国化してから、あぶれる事なんてそんなにないぞ。ジル公も一時期、真面目に仕事を考えてた時期があったからな。ジェラート専門店が今は軌道に乗ってるからいいけど」
話が一区切りついた時。聞いていたライラが口を開く。
ライラ「提案だがリア、デルヴラインド社のモデルとかやってみないか?」
リア「モデルですか?」
ライラ「あぁ、ティオも誘っているのだが、デルヴラインド社もブランドイメージを大切にしているところもあるしな。世界的な企業だから、信頼できるモデルが欲しい」
ティオ「我は子供向けと聞いて憤慨したがな。ライラ、我はやらんぞ。それに薬学の方に進学か、薬剤師の資格を取って研究職をやるつもりでいるからな。師匠からもお墨付きを貰った」
リア「おぉ、英雄からのお墨付きなら安心ですね。それと、ライラ先輩とティオ先輩はしっかりと将来を決めているんですね」
ライラ「私の場合は、運命付けられているとも言えるがな。嫌という訳でないぞ?」
リア「知ってます、毎日楽しそうですし。それとモデルの件、折角なら引き受けようと思います」
ライラ「おぉ!! じゃあ今立ち上げてる新ブランドのモデルをやってもらうぜ。ドレスとか着る事になるけどいいか?」
リア「いいですよ」
それから他愛ない会話を垂れ流し続ける5人であった。




