部活見学1
翌日。今日は部活見学があった。色んな部活に目移りするが、ここはルナに案内を頼もうと思う。レイアも悩んでいる様子で、共に見学に向かう。
「そんな訳で、頼めるか?」
「了解です、お姉様!!」
「ありがとうルナちゃん」
ルナに案内してもらいながら広い廊下を歩いていると。初っ端、廊下から爆発音がした。
爆発音のした場所を探すまでもなく、すぐに音の発生源は見つかった。なぜなら目の前にある教室の扉から白い煙がもくもくと立ち昇っているからだ。
その教室の前に立ち、架けられたプレートを見ると『調理室』と書いてあった。それを見たレイアはルナに確認を取るように問いかける。
「料理部かい?」
「たぶん料理部の部室で合っているかと」
ルナの言葉にリアは首を傾げながら口を開いた。
「これ料理の匂いか?」
鼻を突くような薬草らしき匂いに消毒液のような薬品っぽい匂い。更に焦げたような匂いまで合わさり、なんとも形容し難い異臭が漂っていた。
「……どうする? 初っ端だけど見ていくかい?」
「いや、どうしよう? 料理は嫌いじゃないけど。なんか嫌な予感がする」
レイアの問いにそう返答しながらも、どうしようか悩む。正直、好奇心よりも面倒に巻き込まれる方が嫌なので、もうこのまま立ち去ろうと思っていると。ルナが扉に手をかけた。
「入るの?」
「一応生徒会の役員ですから、爆発を無視することはできないです」
ルナの言い分に、こういう時は真面目なんだなぁと思いながらも少し心配なので付き合う事にした。
「じゃあ仕方ないな。行こうか、ルナ、レイア」
「すみません、お姉様」
「オーケー。僕も何が爆発したのか気になる付き合うよ」
了承の言葉を聞いたルナは扉を開けた。
すると先程よりもキツイ薬品や薬草の香りと、甘い何かの香りが一斉に嗅覚を襲う。
強烈な匂いの部屋。調理室に立ち入ると数人の女子生徒会がせっせと何かを作っている。調理台の上にはよく分からない葉や草に花。さらに青や紫といった毒々しい色の液体が入った試験管やビーカー、フラスコなども置かれている。コンロの上には鍋が置かれており茶色い液体で満たされていた。
そんな光景を見て、やっぱりここ料理部じゃないのではと訝しむ。どう見ても毒を作っているようにしか見えないからだ。
暫くの間、部屋の光景に目を向けていると、こちらに1人の女子生徒が歩いて来るのが見えた。彼女はこちらに近寄り立ち止まる。
「あら、ルナさんと新入生かしら? いらっしゃい」
歓迎の言葉を口にする。ふと隣を見ると彼女の姿を見たルナが少し驚いた顔をしながら口を開いた。
「セリアさん?」
「えぇ。久しぶりね、ルナさん」
「あ、はい。お久しぶりです。と言っても春休みぶりですけど」
ルナとセリアと言う名の女子生徒はどうやら知り合いのようだ。軽く挨拶を交わしつつも、どこか親しさを感じるやりとりである。
ルナの友達なのかな? セリアと名乗った彼女に目を向ける。彼女はどこか妖艶な雰囲気の女子生徒だ。瑞々しい肌は白く綺麗だ。すっと通った鼻筋に、小ぶりで形の良い桜色の唇。
目元は少し垂れ下がっており、瞳は杏色なのも相まって優しげな印象を受ける。髪は亜麻色の長髪で後髪をベレッタで留めているのがチャームポイントだ。
そんな彼女はルナとの挨拶が終わるや否や、リアとレイアを交互に見て頬に手を当てた。
「貴方達は部活見学に来たのよね? 私はセリア。ここの部長をしているの。よろしくね」
「どうも、俺はリアと言います。一応ルナの姉です」
「僕はレイア、よろしくっ」
自己紹介を終えた直後セリアは小声では「俺っ娘に僕っ娘。ふふっ、お二人ともゆっくり見て行ってくださいね」と含みのある歓迎をして微笑んだ。
そうして作業に戻ろうとしたセリアの手首をルナが掴み止める。
「ちょっとセリアさん!! 話はまだ終わってませんよ!!」
「あら? 話ってなにかしら?」
「なにかしら? じゃありませんよ!! さっきの爆発音について説明して下さい」
「爆発音? あぁ、あれね」
セリアは今も尚コンロの火にかけられて、グツグツと煮え滾っている茶色い液体の入った鍋に目を向けた。
「なんですかコレ?」
ルナが恐る恐ると問うとセリアは妖艶な笑みをさらに濃く浮かべた。
「鍋に入ってるのは……チョコレートよ」
「は?」
「え?」
「チョコレート?」
3人揃って間抜けた声を出してしまう。そんな3人をセリアは愉快そうに眺めていた。
「なんでチョコレート作ってて爆発音が鳴るのさ?」
レイアがもっともな事を聞くとセリアはそれに答える前にとんでもない事をカミングアウトした。
「私、レズなの」
唐突な同性愛宣言にレイアは「えっ」と戸惑ったような声を出す。勿論リアとルナも反応に困った。というよりルナに関してはポカーンとした顔をしていた。こんなルナを見るのは久しぶりだ。そんなこちらの事など御構い無しにセリアは説明を続ける。
「そしてこの料理部では『好きな人の為に料理を作る』をテーマにしているの。それこそ、どんな手を使ってでも惚れさせる程の料理作る為に。そうなると、どうしても必要なのよねぇ。媚薬や惚れ薬なんかが。でも作り方や効果などは未だ未開拓な技術なの。だからこそ偶に失敗して爆発してしまう事があるわ。たぶん、貴方達が聞いたのはさっき失敗した時の爆発音でしょう」
「ちょ、学校で何てもの作ってんですか!? ってかそれはもう料理じゃねぇよ!!」
「だって仕方ないじゃない。女の子に告白しても断られるんだもの。それに薬が入っていても味は保証するわ。だって好きな人に不味いものを食べさせるわけにはいかないから。あ、なんなら食べてみる?」
そう言って彼女はまな板の上に置かれた箱の中から一粒のチョコらしきものを摘み、ずいっと顔を近づける。次いで片手でリアの顎を掴むと、くいっと持ち上げた。
彼女の水晶のように綺麗な栗色の瞳がリアの顔を写す。肩から流れた髪からは爽やかな石鹸の香りがして、その一房が俺の頬を撫でた。
くすぐったさもあり身じろぎしようとするが、なぜか体が動かない。恐らく過去に経験がない事をされて思考が追いついていないのだろう。ローディングの終わらない脳と大きく鼓動を続ける心臓のせいで、更に彼女の蠱惑的な行動に対してドキドキする。
第一、可愛い女の子に対してこんな事をされれば男なら誰だってこうなる。
「はい、あーん」
追い討ちをかけるように、 甘く蕩けるような声色で言葉を紡ぎながら、彼女は口元にチョコレートを近づける。ダメだ、これは食べてはいけない物だ。
そんな事は分かっている。
分かっているのに、チョコの甘い香りと彼女の甘い匂いが混じ意識が朦朧としてくる。唇にチョコレートが触れた。あと少しで入ってしまう。その時だ。
「ストップ!!」
声とともにセリアの手首を細く白い手が掴んだ。
止めてくれたのはレイアだった。よく見ればほんのりと頬が朱に染まっている。ルナに関しては頬を染めながらもどこか期待のこもった目でこっちを見ていた。だが、リアの視線に気がついた瞬間目をそらす。こいつちょっと面白がってたなとリアは思った。
それはそうとレイアのおかげで動けるようにはなった。なので彼女から離れようとしたのだが、その時。セリアは掴まれていた腕をするりと振り解くと唇に触れていたチョコレートを滑らすように離して、そのままレイアの口に突っ込んだ。
「そ〜れ」
「っ!? むぐっ」
レイアは口の中のチョコレートを吐き出そうとするも、セリアが吐き出させないように口元を塞いだせいで吐き出せないでいた。そして行き場がなくなったチョコレートは舌の温度だけで雪のように溶けていく。やがてレイアは抵抗する事なくチョコレートを飲み込んだ。セリアはレイアの喉が動いたのを確認してから口元の手を離した。
「だ、大丈夫か?」
目を瞑り沈黙していたレイアに心配になって無事かどうか確認を取る。
「リア……」
「な、なんだ?」
「このチョコ、かなり美味い」
そう言ってゴクリと喉を鳴らした。レイアの率直な感想にセリアはとても嬉しそうな笑みを浮かべると自慢するように言う。
「そうでしょう? ふふっ……あと一応言っておくけど、このチョコに薬は入っていないわよ? よかったらリアさんも1ついかが?」
女の子からのチョコというのもあり、誘われるように確認の言葉が出る。
「いいの?」
「はい、味の感想をしてもらえれば。あ、ルナさんもいかが?」
「じゃあ遠慮なくいただきます」
2人揃って箱に手を伸ばし、各々違った形のチョコを摘み口に運ぶ。レイアの感想通りにチョコレートはまるで雪のように溶けていく。それと同時にカカオの風味や苦味とチョコの甘味が口いっぱいに広がっていく。
思っていた物よりも倍以上、レベルが高かった。リアは素直に褒め言葉を口にした。
「美味い、ビター具合がちょうどいい」
「そう言ってもらえると作った甲斐があるわね」
セリアが返答を言い切ってから続くようにルナも感想を告げる。
「本当に美味しいです。店に出せるレベルですよ、これ」
「あら、嬉しい事を言ってくれるわね。なら残りはお土産に持って行っていいわよ」
セリアは調理台にあるピンクのリボンでラッピングされた手の平サイズの赤い箱を3つこちらに差し出した。
3人は断る理由がないので礼を言いながら受け取る。そして渡し終えたセリアはというと「パン」と手を叩いて、こちらに意識を向けさせる。
「一応は弁明させてもらうけど。薬なんかを作ってるのは私くらいだし、他のみんなは割と真面目に部活動しているから、もし興味があったらまた見学に来てね。勿論、体験入部や掛け持ち入部も大歓迎するわ」
締めの言葉とともにセリアはリアの手とレイアの手を両手で掴みながら微笑んだ。
確かに周りの部員らしき女子生徒の調理台にはセリアのように薬品などは置いていない。真面目に部活動をしているというのは本当なのだろう。リアは自身も料理を作るのは好きな方なので、料理部というのは結構いいかもしれない。候補に入れておこう。
「なら、また機会があればぜひ」
「僕も機会があれば」
「ふふっ、まぁ、たとえ別の部活に入ったとしても気楽に遊びに来てくれていいからね」
そう言ってセリアは手を離した。
その後の事は、軽く会釈をしてから調理室を後にしたくらいである。
なにはともあれ結構楽しかったし、先も言ったようにまた顔を出すつもりだ。
次はどこへ行こうか。そう思い隣を見てもルナがいない。
「あれ、ルナ? まだ調理室に残ってるのか?」
戻ろうとした所で、調理室から出てくるルナの姿が見えた。ルナは早足でこちらに駆け寄ってくる。
「申し訳ありません。少し遅れました……」
「別にいいけど、何してたの?」
特に気になった訳ではないが、なんとなくで聞いてみる。すると、なぜかルナは頬を染めチョコレートの箱を見ながら「ちょ、ちょっとセリアさんとお話しを」と誤魔化した。まぁ、追求する事でもない。
「それじゃあ、次行くか」
再びルナに案内をお願いして、3人は移動を開始した。
………………
これは2分前の出来事。
お姉様とレイアさんが外に出たので、私も続いて出ようとしたのですが、背後から左腕を掴まれました。掴んでいるのは勿論セリアさんです。私は引き留められる意味が分からずに首を傾げます。
「ルナさん」
「はい?」
「貴方、お姉さんの事大好きなのね」
「当たり前じゃないですか。だってお姉様ですよ?美人でスタイルも良くて、更に凛々しくも優しいあのお姉様ですよ? 正直お嫁さんに欲しいくらい好きです」
私のお姉様に対する評価(リアが聞けば過大評価すぎると思う)をセリアさんは優しげな笑みで眺めながらも聞き、終わると同時に手で軽く耳元を覆い耳打ちしてきます。
「実はね、ルナさん。そのチョコレートの中に一粒だけ『媚薬入り』があるの」
「えぇ!?」
「青い銀紙で包んであるわ。ふふっ、だからねルナさん。頑張ってね、応援しているわ」
頑張ってね、という言葉に私はセリアさんの言わんとする事を察します。
「分かりました、必ずやお姉様のお口に入れてみせます!」
「ふふっ、あぁ、あと効果は10分程だから気をつけてね?」
「了解しました!」
私とセリアさんはがっしりと固い握手を交わしました。どこか心が通じ合った気がします。
「それじゃあ、ルナさんもまた来てね?期待して待っているわ」
「はい!! 必ずや、お礼も兼ねて伺います!!」
そう言って私はセリアさんに軽く手を振り、教室を後にしました。
お姉様、待っていてください。今晩は寝かせませんよ。




