部活見学2
案内は進み。ルナが言うには大凡の設備や場所は説明したとの事で、行く当てがないらしい。というわけで、予定無くブラブラと校舎内を彷徨う事となった。
とは言っても紹介されている部活動の多さと、その魔法学校らしい内容からか、それほど退屈はせずに済んでいた。
そんなこんなで校内を楽しく巡っていた時だ。前方から銀髪のポニーテールを揺らしながら、綺麗な姿勢でこちらに歩いてくる1人の少女が見えた。入学式の前にネクタイを直してくれた生徒会副会長のエストだ。彼女はこちらに気がつくと、柔らかく笑みを浮かべ向かってきた。
「おはよう、ルナ、リア」
「おはようございます、副会長」
「エストさん、おはようございます」
軽く会釈をしながら簡潔に挨拶を済ます。それからエストの目がチラリと横に向く。レイアも軽く会釈をしながら自己紹介をする。
「僕はレイアです、よろしくお願いします」
「私の名はエスト。今は生徒会の副会長をしている。よろしく頼む。さて、ルナ。いい所で君を見つけた。少々君に説教をしなくてはならなくてな」
「私何かしましたっけ……?」
困惑しながら本当に心当たりが無いといった様子のルナ。そんなルナの態度にエストの眉がピクリと動く。
「昨日、先輩達に生徒会の書類仕事を押し付けただろ?」
「……」
「この忙しい時期によく人に仕事を押し付けてくれたな……」
「いやでもあの、お願いしたら先輩方が嬉々として請け負ってくれましたし、私は悪く」
ルナの言い訳にエストの微笑みが深くなる。その笑みには側から見ていても怖いと思ってしまう程の怒気と威圧を含んでいた。
当然、矛先が向いているルナはガクブルと震えながら後退り始める。そして脱兎の如く駆け出し、勢いそのまま《念力魔法》で飛んで逃げようと浮かんだ所で「ジャラジャラ」と金属の鎖が擦れ合うような音が鳴った。
よく見るとルナの身体中に銀色の光を放つ半透明の鎖が巻きついている。そのせいでルナの身体は前に進まず空中で静止したように止まっていた。エストは笑顔のまま距離を詰める。
「……どこに行くつもりだ?」
「えっと……見回り?」
「そうか、それは結構なことだ。だがしかし、まだ私が話している途中なのだが?人の話は最後まで聞くべきだぞ?」
「それは……」
「罰として、生徒会室に連行する。縛れ《魔力の鎖》」
地面から這い回るように魔力で作られた半透明の鎖が出現し、ルナの身体に巻きついていく。そして全ての鎖が巻き付くと今度は数本の鎖がエストの手に向かって伸びていった。それをエストが掴むと離れないように幾つかの鎖が腕に巻きついた。
「っん!! 外れない!」
鎖の中で必死にもがくも抜け出せない様子。そんなルナを他所にエストは申し訳なさそうにリアへ向き直ると。
「すまないリア、レイア。ルナを連れて行ってもいいだろうか?」
「お姉様!! ヘルプ!!」
本当に申し訳なさそうに言うエストにリアは爽やかな笑顔で言った。
「どうぞ」
「お、お姉様ぁ!?」
「ありがとう。では行こうか、ルナ」
「いやぁぁあああ」
ルナは絶望の表情でエストに引き摺られていく。それを手を振って見送ってからリアは方向転換した。
「正直、妹大好きなリアなら助けると思ったよ」
「そこまでシスコンじゃないよ?」
エストの方に正当性があったから見送っただけである。でも寮に帰ったら労おう。そう思いリアは歩みを進める。
……………
レイアと他愛無い会話をしながら適当に歩いていると、いきなり目の前の扉が弾け飛んだ。まるで爆弾が爆発したかのように轟音を響かせて。
吹き飛んで壁にぶつかった扉に目を向けると、土埃の舞う中から1人の少女が姿を現した。
髪は青みがかったプラチナブロンドで髪型はミディアムヘアだ。それから顔立ちは怜悧さを感じさせるが整っていて、髪型も相まってかとても知的な印象を受ける。
「こほっ、くっ……」
そんな彼女の呟きと同時に空中で『1000』と数字が浮かび上がる。あれは立体映像なのだろうか?
その数字は「ピピピ」と電子音を鳴らしながら500までその数を減らすが、数字の変動が止まると同時にerrorと文字が浮かんで消えた。
「くそが、地味に痛てぇ」
彼女の声色は見た目とは裏腹に強気であった。そんな彼女の声に応えるように、タンッと大きな足音が響く。
「ふっ、所詮お前はその程度なのだよライラ。この我、煉獄界の支配者たるティオ・レクト・キラニス様の前では、誰だろうと地を這うしかないのだ。クッフフ、フゥーァハッハ!!」
痛々しい台詞を口にしながら高笑いをして歩み出てくるのは、これまた1人の少女であった。
彼女を一言で言えば幼さの残る顔立ちの少女である。藤色の髪を左右結びツインテールが特徴的で、何故か制服の上から黒いコートを着ていた。さすがに外で着る分にはいいが室内で着るには暑そうだ。
そんな彼女に吹き飛んだ方の少女は片手を上げた。よく見ると円形の機械が取り付けられている。
「高笑いしているところ悪いがシステムエラーだ」
「え、ならば勝負は!?」
「ま、残念だがドローだな。ん?」
直後に彼女は、どうやら自分たちの存在に気がついたらしい。
切れ長の目でこちらに目線を向ける彼女は、優しい声色で話しかけてくる。
「見ない顔だが……新入生か?」
「は、はい」
「そうか、そういえば今日は部活見学の日だったな。すまない、驚かしてしまって。ようこそ、ここは『遊戯部』だ」
「「遊戯部?」」
共に首を傾げながら彼女の呟いた部活名を復唱した。すると横から高笑いしていた少女が腰に手を当てながら口を挟んだ。
「そうだ。ここは加古の歴史をなぞり、古きモノから新しいモノまで千差万別、遊び尽くす部活だ!! 見学できる事を感謝するがいい!!」
「あー、こいつは無視で」
「……中二病ですか?」
「だ、誰が中二病だ!!」
レイアの言葉に痛い子は食ってかかるも2人はスルー。痛い子はちょっぴり涙目になっている。
それからリアは早くも意気投合しかけている2人に声をかけた。
「結局、遊戯部とは何をする部活なんですか? あと、吹っ飛んでましたけど」
そう聞くとミディアムヘアの彼女は腕に取り付けられていた謎の機械を取り外した。
「遊戯部っていうのは名前の通り、色々と遊ぶ部活だ。今は殆どコンピューターゲームばかりだがな。さっき吹っ飛んだのは、カードゲームのキャラクターを立体投影する機会がエラーを起こして爆発したからだ」
「おぉ……」
とても興味が湧いてくる。魔法を使えば簡単だが魔法に頼らず立体的な映像を作るのはとても面白そうだ。そんな気持ちに気がついたのか、ミディアムヘアの彼女はニヤッと笑みを浮かべると部室を親指で指差す。
「見学して行くか?」
「是非!!」
リアは即答。レイアは軽く頷く。
「僕もちょっと興味ある。お願いするよ」
「よし、なら部室に招待しよう」
彼女の背後をついて行き部室へと足を踏み入れる。その背後から何やら騒ぎ立てる声が聞こえたが、全員が無視した。
……………
部室には簡素な長テーブルとパイプ椅子が中央に置かれており、長テーブルの上には沢山のドライバーなどの工具に、ネジや基盤などが置かれていた。それから左奥には小さめのテーブルに3つのディスプレイが置かれ、その前にはオフィスチェア、机の下にはデスクトップパソコンが置かれている。
右奥には大きめのテレビと最新式のゲーム機が揃い、狭い部屋に無理やり突っ込んだような大きめの黒いソファが置かれていた。
「おぉ、最新式だ」
レイアがゲーム機の方を見ながら呟くと、ミディアムヘアの彼女は自慢げに胸を張った。
「まぁ、私は金持ちだからな」
ドヤ顔を決める彼女。確かにPCもゲーム機も結構高価な品物なのでそれを揃えられているのは自慢できる。
そんな事を考えていた時である。
空気が揺れたような気がした。そう感じた時、ふわりと少女が現れ、先輩の肩に手を回しているのが見えた。
彼女の印象は眠そうな感じであった。ピンクブロンドの髪は肩口で切り揃えられており、前髪はパッツン。その下から覗く眉は長く目鼻などの顔立ちは整ってはいる。
そんな彼女はゆったりとした口調で言った。
「んやー? 新入生……かな?」
興味深そうにこちらを見る彼女を他所に、ミディアムヘアの彼女は鬱陶しそうに肩に回された手を引き離した。
「ええぃ抱きつくな。というか居たのかお前」
「最初からいたぜ?」
肩から手を離したピンクブロンドの少女は表情こそ変わらなかったが、いかにもツマラナイと言いたそうに唇を尖らせる。
「ちぇー、まぁいいや。ならライラの代わりに新入生ちゃんに抱きつこう」
「うおっ」
ピンクブロンドの少女はそう言うと真正面からリアの胸に顔を埋め、腰に手を回した。
「あ、柔らかい。ライラより抱き心地いいなお前」
「それは私の胸が無いと言いたいのか!?」
両手で胸を抑える彼女を他所にピンクブロンドの少女は続ける。
「自己紹介がまだだったな。私の名はダルク!! 2人ともよろしく!! あと一応部長をやってるぜ」
ダルクと名乗った少女は胸をパフパフしながら微笑んだ。
リアもレイアも流れに沿って自己紹介すると、背後でがっくりとしていたミディアムヘアの彼女も自己紹介をしてくれた。
「私はライラだ。この部活では副部長で、機械いじりが趣味の3年生だ」
「因みに私も3年生だよ」
「……ダルクさんにライラさんですね、よろしくお願いします」
俺に続いてレイアも口を開く。
「よろしくお願いします。あと先輩は機械いじりが好きなんですか? 実を言うと僕もなんだ。まぁ、とは言っても技術的に見て本職には程遠いんだけどね」
「ほぅ、同士がいたとは。私も魔法を組み入れての機械いじりが基本だな」
「先輩のさっきの装置、凄いですね」
「ふむ、普段は設計など人に話す事はないが。君は言いふらすような性格には見えないし、構造を見てみるか?」
「是非!!」
意気投合している2人。リアはそんな彼女達へ会話が始まる前にヘルプを求める。
「あっ、あの。それはそうと、ダルク先輩をどうすれば?」
正直ちょっと困っていた。それを察してくれたのか、ライラはダルクの首根っこを掴むと引き離してくれる。
「新入生に迷惑をかけるな」
「あー、桃源郷が……」
名残惜しそうにこちらに手を伸ばすダルクを他所に、ライラは「そういえば……」と前置きしながら首をかしげる。
「ダルクを見てて思ったんだが、ティオはどこだ?」
「あそこじゃね?」
ダルクはソファの方を指差す。ティオと呼ばれた少女はソファーの上で蹲っていた。
「完全に拗ねてるな」
「……拗ねてない。我が仲間外れにされた程度で拗ねるわけなかろう。我は煉獄界の支配者、常に孤独の身なのだ」
グスッと鼻をすする音が聞こえ、なんとも言い難い空気が流れる。横でライラが小さく「面倒くせぇ」と言いながらも声をかける気はない様子だったので、リアが代わりにソファに近づいて声をかけることにした。ついでに自己紹介も兼ねて。
「無視してすいません先輩。俺の名前はリアっていいます。できれば貴方の名前も教えてくれませんか?」
そう言うと彼女はちらりとこちらを見る。その瞳は薄っすらと濡れていたが、もう涙は止まっているようだ。しかし何故か一言も発せずにこちらをチラチラと見てくるだけである。
あぁ、なんとなくこの先輩の扱い方が分かった気がした。リアは頭の中で先程の彼女の台詞を思い出しながら考え、思いついた台詞を口にした。
「煉獄界の支配者様。貴方様のお名前を、この私に教えていただけないでしょうか?」
丁寧に言ってから頭を下げると彼女の口元が緩んでいるのが見えた。その何気ない仕草が見た目の幼さと相まって可愛いと思った。
そして彼女はバレていないと思っているのか口元を引き締め直し、コートを翻しながら立ち上がる。
「ふっ、ならば聞くがよい。我が名はティオ・レクト・キラニスッ!! 偉大なる我が名をとくと心に刻むがいいッ!!」
「よろしく、ティオ先輩」
「せ、先輩……いい響きだ……」
思春期特有の病気を患ってはいるが、素直そうだし結構いい先輩なのかもしれない。まぁ別の言い方をすればチョロいとも言えるのだが。
そんなこんなで、これが今後長い付き合いになる遊戯部メンバーとの出会いであった。




