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2日目②

 翌日。ルナに案内してもらい部活動の見学に向かったのだが。初っ端、廊下から爆発音がした。


 爆発音のした場所を探すまでもなく、すぐに音の発生源は見つかった。なぜなら、目の前にある教室の扉から白い煙がもくもくと立ち昇っているからだ。

 その教室の前に立ち、架けられたプレートを見ると『調理室』と書いてあった。それを見たレイアは、ルナに確認を取るように問いかける。


「料理部かい?」


「たぶん、料理部の部室で合っているかと…」


 ルナの言葉に、リアは首を傾げながら口を開いた。


「料理部って言うけどさ……これは料理の匂いか?」


 鼻を突くような薬草らしき匂いに、消毒液のような薬品っぽい匂い。更に焦げたような匂いまで合わさり、なんとも形容し難い異臭が漂っていた。

 こんな異臭のするものは、もはや料理などではない。


「……どうする? 初っ端だけど見ていくかい?」

「いや……うぅん、どうしよう? 料理は嫌いじゃないけど。なんか嫌な予感がする」


 レイアの問いにそう返答しながらも、どうしようか悩む。だが、わざわざ面倒に(ショッピングモールの一件で懲りた)巻き込まれるのも嫌なので、もうこのまま立ち去ろうか。

 と、そう考えていたその時。ルナが扉の取っ手に手をかけた。リアはその行動に驚きながら声をかける。


「入るの?」

「……私一応生徒会の役員ですから。爆発を無視することはできないというか」


 ルナの言い分に、こういう時は真面目なんだなぁと思いながらも、少し心配なので付き合う事にした。


「じゃあ仕方ないな。行こうか、ルナ、レイア」

「すみません、お姉様」

「オーケー。僕も何が爆発したのか気になる付き合うよ」


 了承の言葉を聞いたルナは、スライド式の扉を開けた。

 すると、先程よりもキツイ薬品や薬草の香りと、甘い何かの香りが一斉に嗅覚を襲う。

 そんな強烈な匂いの部屋。調理室に立ち入ると、数人の女子生徒会がせっせと何かを作っている。調理台の上にはよく分からない葉っぱや草に花。さらに青や紫といった毒々しい色の液体が入った試験管やビーカー、フラスコなども置かれている。それから、コンロの上には鍋が置かれており、茶色い液体で満たされていた。

 そんな光景を見て、やっぱりここ、料理部じゃないのでは?と思っても悪くないと思う。だって、どっからどう見ても水薬などを作っているようにしか見えないからだ。

 暫くの間、部屋の光景に目を向けていると、こちらに1人の女子生徒が歩いて来るのが見えた。彼女はこちらに近寄り立ち止まると。


「あら、ルナさんと新入生かしら? いらっしゃい」


 そう、歓迎の言葉を口にする。ふと隣を見ると、彼女の姿を見たルナが少し驚いた顔をしながら口を開いた。


「セリアさん?」

「えぇ。久しぶりね、ルナさん」

「あ、はい。お久しぶりです。と言っても春休みぶりですけど」


 ルナとセリアと言う名の女子生徒はどうやら知り合いのようだ。軽く挨拶を交わしつつも、どこか親しさを感じるやりとりである。

 ルナの友達なのかな?セリアと名乗った彼女に目を向ける。彼女は、どこか妖艶な雰囲気の女子生徒だ。瑞々しい肌は白く、シミひとつなさそうなほど綺麗だ。それから、すっと通った鼻筋に、小ぶりで形の良い桜色の唇。


 目元は少し垂れ下がっており、瞳は杏色なのも相まって優しげな印象を受ける。髪は亜麻色の長髪で後髪をベレッタで留めているのがチャームポイントだ。

 スタイルも完璧で、スラリと伸びた白い足に、発育の良い胸が目を引く。


 そんな彼女は、ルナとの挨拶が終わるや否や、リアとレイアを交互に見て頬に手を当てた。


「貴方達は部活見学に来たのよね?私はセリア。ここの部長をしているの。よろしくね」

「どうも、俺はリアと言います」

「僕はレイア、よろしくっ」


 自己紹介を終えた直後、セリアは小声では「俺っ娘に僕っ娘……ふふっ、お二人ともゆっくり見て行ってくださいね」と言って微笑んだ。

 そうして、セリアは踵を返して再び調理台に戻っていく……前に、彼女の手をルナが掴んでそれを阻止した。


「ちょっとセリアさん!! 話はまだ終わってませんよ!!」

「あら? 話ってなにかしら?」

「なにかしら? じゃありませんよ!! さっきの爆発音について説明して下さい」

「爆発音? ……あぁ、あれね」


 セリアは今も尚コンロの火にかけられて、グツグツと煮え滾っている茶色い液体の入った鍋に目を向けた。


「あれ、なんですか…?」


 ルナが恐る恐ると問うと、セリアは妖艶な笑みをさらに濃く浮かべた。


「鍋に入ってるのは……チョコレートよ」


「は?」


「え?」


「……チョコレート?」


 3人揃って間抜けた声を出してしまう。そんな3人をセリアは愉快そうに眺めていた。


「なんでチョコレート作ってて爆発音が鳴るのさ?」


 レイアがもっともな事を聞くと、セリアはそれに答える前にとんでもない事をカミングアウトした。


「私、レズなの」


 唐突な同性愛宣言に、レイアは「えっ」と戸惑ったような声を出す。勿論リアとルナも反応に困った。というより、ルナに関してはポカーンとした顔をしていた。こんなルナを見るのは久しぶりだ。そんなこちらの事など御構い無しに、セリアは説明を続ける。


「そしてこの料理部では、好きな人の為に料理を作る、をテーマにしているの。それこそ、どんな手を使ってでも惚れさせる程の”料理”を作る為に。

 そうなると、どうしても必要なのよねぇ。媚薬や惚れ薬なんかが。でも、作り方や効果などは未だ未開拓な技術なの。だからこそ、偶に失敗して爆発してしまう事があるわ。

 たぶん、貴方達が聞いたのはさっき失敗した時の爆発音でしょう」


「ちょ、学校で何てもの作ってんですか!? ってかそれはもう料理じゃねぇよ!!」


 リアは思わずツッコミを入れた。だって、目の前の少女があまりにも自信満々に言うものだから。「惚れ薬」などは、精神に影響のある薬の中では、法律的にギリギリセーフなものだ。

 それは、過去に麻薬と同等に危険視された事が要因だからである。だが、現状の惚れ薬は心の底から嫌らわれている場合には全く効果がなく、またその効果の薄さと10分程で薬の効果が切れる事もあり、あまり危険視されなくなってきている。だからこそ、法律的にはグレーゾーンなのだ。まぁでも、いくらセーフと言っても実際に惚れ薬を作る事はあまりお勧めされておらず、更にもし効果が出たとなれば色々と面倒な事になる。それこそ、練金や調合に関する法律がガラリと変わる程だ。


 あとは「媚薬」についてなのだが、これは法律では禁止されていない。それは、惚れ薬と違って単に発情させるだけの薬だからだ。だが、女の子が作っているとなると、なんとも危ない気がするのと、本気ガチで作られた媚薬を盛られた場合、例え同性相手であれ堕ちる事もあると師匠から聞いていたので、俺のツッコミはあながち間違いではないはずだ。


 だが、彼女は非難する言葉を微風のように聞き流し妖艶な笑みを崩さないまま、のらりくらりと口を開いた。


「だって仕方ないじゃない。女の子に告白しても断られるんだもの。それに、薬が入っていても味は保証するわ。だって、好きな人に不味いものを食べさせるわけにはいかないから……あ、なんなら食べてみる?」


 そう言って、彼女はまな板の上に置かれた箱の中から一粒のチョコらしきものを摘み、ずいっと顔を近づける。次いで片手で俺の顎を掴むと、くいっと持ち上げた。

 彼女の水晶のように綺麗な栗色の瞳が俺の顔を写す。肩から流れた髪からは爽やかな石鹸の香りがして、その一房が俺の頬を撫でた。

 くすぐったさもあり身じろぎしようとするが、なぜか体が動かない。恐らく、過去に経験がない事をされて思考が追いついていないのだろう。だが、大きく鼓動を続ける心臓のせいで、今の状況に自身がとても恥ずかしく思っており、更に彼女の蠱惑的な行動に対してドキドキとしている事は嫌でもわかった。

 第一、可愛い女の子に対してこんな事をされれば、男なら誰だってこうなる。


 いや、これは言い訳か。ぶっちゃけ、過去に女の子との付き合いが全くなかったからどうしたらいいのか全く分からなかくて、頭がフリーズしているだけであった。


「はい、あーん」


 追い討ちをかけるように、甘く蕩けるような声色で言葉を紡ぎながら、彼女は口元にチョコレートを近づける。だがしかし、このチョコレートは明らかに薬品入りであり、食べてはいけない物だ。


 そんな事は分かっている。分かっているのに、チョコの甘い香りと彼女の甘い匂いが混じり、意識が朦朧としてくる。そしてリアの口は意に反して開こうとする。そのチョコが欲しいと思ってしまっている。

 そうして長いようで短い攻防の末……唇にチョコレートが触れた。あと少しで入ってしまう。その時だ。

 助け舟が出た。


「ストップ!!」


 声とともにセリアの手首を細く白い手が掴んだ。

 止めてくれたのはレイアだった。よく見ればほんのりと頬が朱に染まっている。ルナに関しては、頬を染めながらもどこか期待のこもった目でこっちを見ていた。だが、リアの視線に気がついた瞬間目をそらす。 薄情ともとれるルナの行動に、心の中でおい、助けろよ!! と思った。

 それはそうと、助けてくれたレイアのおかげで動けるようにはなった。なので、彼女から離れようとしたのだが、その時。セリアは掴まれていた腕をするりと振り解くと、唇に触れていたチョコレートを滑らすように離して、そのままレイアの口に突っ込んだ。


「そ〜れ」

「っ!? むぐっ」


 レイアは口の中のチョコレートを吐き出そうとするも、セリアが吐き出させないように口元を塞いだせいで吐き出せないでいた。そして、行き場がなくなったチョコレートは舌の温度だけで雪のように溶けていく。やがて、レイアは抵抗する事なくチョコレートを飲み込んだ。セリアはレイアの喉が動いたのを確認してから、口元の手を離した。


「だ、大丈夫か?」


 目を瞑り沈黙していたレイアに、心配になって無事かどうか確認を取る。すると、レイアはスッと目を開くと。


「リア……」


「な、なんだ?」


「このチョコ、かなり美味い」


 そう言ってゴクリと喉を鳴らした。そして、レイアの率直な感想にセリアはとても嬉しそうな笑みを浮かべると、自慢するように言う。


「そうでしょう? ふふっ……あと一応言っておくけど、さっきのチョコに薬は入っていないわよ?」


 それを聞いて内心ホッとすると同時に「あれ、それじゃあ俺結構勿体無い事した?」と思ってしまった。女の子からチョコなど貰った事がないのだから仕方ない。

 だがしかし、そんな心情が顔に出ていたのか、セリアはチョコレートの入った箱を掴み胸の前に差し出してくる。


「よかったら1つ、いかが?」


「いいの?」


「はい、味の感想をしてもらえれば。あ、ルナさんもいかが?」


「じゃあ、遠慮なくいただきます」


 2人揃って箱に手を伸ばし、各々違った形のチョコを摘み、口に運ぶ。レイアの感想通りに、チョコレートはまるで雪のように溶けていく。それと同時にカカオの風味や苦味とチョコの甘味が口いっぱいに広がっていく。

 思っていた物よりも倍以上、レベルが高かった。

 これは……お菓子作りに疎い自分では、簡単には作れないかもしれない……。

 ほんの少しだけ敗北感を感じながらも、リアは素直に褒め言葉を口にした。


「美味い、ビター具合がちょうどいい」


「そう言ってもらえると、作った甲斐があるわね」


 セリアが返答を言い切ってから、続くようにルナも感想を告げる。


「本当に美味しいです、店に出せるレベルですよ、これ」


「あら、嬉しい事を言ってくれるわね。ふふっ、なら残りはお土産に持って行っていいわよ」


 セリアは調理台にあるピンクのリボンでラッピングされた手の平サイズの赤い箱を、3つこちらに差し出した。

 3人は断る理由がないので礼を言いながら受け取る。そして渡し終えたセリアはというと、パンと手を叩いて「そういえば、言い忘れてたわ」と呟いた。


「一応弁明させてもらうけど、薬なんかを作ってるのは私くらいだし、他のみんなは割と真面目に部活動しているから、もし興味があったらまた見学に来てね。勿論、体験入部や掛け持ち入部も大歓迎するわ」


 締めの言葉とともに、セリアはリアの手とレイアの手を両手で掴みながら微笑んだ。

 まぁ…確かに周りの部員らしき女子生徒の調理台にはセリアさんのように薬品などは置いていないし、割と真面目に部活動をしているというのは本当なのだろう。なら、俺自身料理は好きな方なので、料理部というのは結構いいかもしれない。一応、候補に入れておこうとリアは考えつつ。


「なら、また機会があればぜひ」


「んー、面白そうだし、僕も機会があれば」


「ふふっ、まぁ、たとえ別の部活に入ったとしても気楽に遊びに来てくれていいからね」


 そう言って、セリアは手を離した。


 その後の事は、軽く会釈をしてから調理室を後にしたくらいである。


 なにはともあれ、結構楽しかったし、先も言ったようにまた顔を出すつもりだ。


 その事とは別に、少しだけ気になったことがあった。それは、レイアが意外にも「機会があれば」と言った事だ。レイアはあまり料理をするタイプには思えなかったから。

 いやでも、人を見かけで判断してはいけないって言うし、もしかしたら意外と料理が上手かったり……。


(あ、まてよ?)


 頭に浮かんだ答えを確かめるように、レイアに言葉を投げかける。


「レイア……機会があればってさ、薬の調合の事じゃないよな?」


 レイアは、ほんの少しだけ目を開いた。


「なんで分かったんだい? まぁ、どちらにせよ僕はあまり料理なんてしないからね。機会があればって言うのは、確かに薬の事もあるけど、一応料理も学びに行きたいって意味でもあるよ?」


 と、レイアは弁明するように話す。

 正直やっぱりか、とは思った。流石、錬金術に長けているだけあって、こういった得意分野は気になるらしい。それと、レイアはやはり、あまり料理をしないタイプのようだ。

 そう一人で納得していると、レイアは背後を振り返りながら「あれ?」と呟いた。それに釣られて背後を振り返るも、特になにもなかった。


(って……ん? 何も?)


 あれ、何かおかしい。こう、大事な事を忘れているような……そんな違和感が頭の中を巡り巡る。


 記憶を探ろうと目を瞑ったその時、大事なというよりは、1人いない事に気がついた。


 ルナだ。ルナがいない。


「まだ調理室に残ってるのかな?」


「そうじゃないかい? というか、今まで普通に気がつかなかった」


「俺も」


 とりあえず、もう一度調理室に戻ろうか。そう考えて踵を返したのだが、その時ちょうど調理室から出てくるルナの姿が見えた。ルナは自分たちを見つけると、早足でこちらに駆け寄ってくる。


「申し訳ありません。少し遅れました……」


「別にいいけど、何してたの?」


 特に気になった訳ではないが、なんとなくで聞いてみる。すると、なぜかルナは頬を染め、チョコレートの箱を見ながら「ちょ、ちょっとセリアさんとお話しを……」と吃りながら誤魔化した。そのせいで、余計に気になってしまうが、リアはあえて再度、問う事はしなかった。


「それじゃあ、次行くか」


 再びルナに案内をお願いして、3人は移動を開始した……。


………………


 これは2分前の出来事。


 お姉様とレイアさんが外に出たので、私も続いて出ようとしたのですが、背後から左腕を掴まれました。掴んでいるのは勿論セリアさんです。私は引き留められる意味が分からずに首を傾げます。


「ルナさん」

「はい?」

「貴方、お姉さんの事大好きなのね」

「当たり前じゃないですか。だってお姉様ですよ?美人でスタイルも良くて、更に凛々しくも優しいあのお姉様ですよ? 正直お嫁さんに欲しいくらい好きです」


 私のお姉様に対する評価(リアが聞けば過大評価すぎると思う程)をセリアさんは優しげな笑みで眺めながらも、いい終わった私に顔を近づけてきました。それから、手で軽く耳元を覆い耳打ちしてきます。


「実はね、ルナさん。そのチョコレートの中に一粒だけ、『媚薬入り』があるの」

「えぇ!?」

「青い銀紙で包んであるわ。ふふっ、だからね、ルナさん。頑張ってね、応援しているわ」


 頑張ってね、という言葉に、私はセリアさんの言わんとする事を察します。


「分かりました、必ずやお姉様のお口に入れてみせます!」

「ふふっ、あぁ、あと、効果は10分程だから気をつけてね?」

「了解しました!」


 私とセリアさんは共に手を出して、がっしりと固い握手を交わしました。どこか、心が通じ合った気がします。


「それじゃあ、ルナさんもまた来てね?期待して待っているわ」

「はい!! 必ずや、お礼も兼ねて伺います!!」


 そう言って、私はセリアさんに軽く手を振り、教室を後にしました。


 お姉様、待っていてください。今晩は寝かせませんよ……。

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