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2日目①

「それで色々聞きたい事はあるけど、結局あの時なにがあったんだ?」


 リアは単刀直入に、ショッピングモールでの出来事をレイアに問う。彼女は問いに対し、難しそうな顔をしながら頭を左右に1度振った。


「正直に言うと分からないんだ。僕のオクタ君が魔物と知ってて乗っ取ろうとしたのか、はたまた召喚術士の使役する生物を奪おうとしたのか。確かにあの日、僕は召喚術士のイベントに出る予定だったけど、仮面つけてたから素性は誰も知らない筈だし。その点で見たら僕を狙っていたのかもしれない」


 肩を竦めながらレイアはため息を吐き出す。リアは言わんとする事を察して、確認するように口を開いた。


「狙われたのがグレイダーツ氏の弟子だったからかもしれない、という訳か」

「そうなんだよ。別に隠しているわけじゃないし、どこかで犯人が見ていた可能性はあるけどね。それで僕の呼び出す者が擬似生命ではなく、生き物と知ってて奪おうとしたんじゃないかな」


 そう考えた場合……魔物を奪おうとした犯人がもし存在するならば、彼女はずっと跡をつけていたのかもしれない。


「ストーカーの被害者みたいだな」


 苦笑しながらそう言うと、レイアは腕を組みながら。


「ストーカーなら楽なんだけどね」


 ……仮に『ただのストーカー』だとしても《契約コントラクトゥス》を上書きできる時点で相当な実力を持っていると考えた方がいい。

 しかし先も言ったように情報が少ない今は、憶測や推測しか出ないわけで。警戒に徹するしか無いと結論付け、この話はこれ以上しても無駄であると思いリアは話を打ち切る事にした。


「結局、相手の目的が分からないしこれ以上議論のしようがないな」


「確かに」


 レイアも同意して、頬杖をつきながら前方の教壇近くに目を向ける。


「それ以外にもリアが狙われる理由はあると思う」


 その言葉に、リアは頭に疑問符を浮かべる。

 レイアは何気なしに呟いたのだろうが、その言葉の意味がイマイチピンとこなかった。


「それ以外って、何だ?」


 椅子に背を預け、レイアの方に顔を向けて問いかける。レイアはリアの問いに小首を傾げながら答えた。


「リアってなんか綺麗だし……そっち方面で狙われる可能性もあるかなーって思ってね」


 思わぬ発言に、返事に困った。

 女になってから可愛いなどと言われたのは、今日が初めてではない。妹のルナにも母さんにも何回か言われた言葉だ。だがしかし、いざこうして第三者にハッキリと言われると、形容し難い感情が胸に湧き上がる。


(はぁ、綺麗……か)


 本当はそんな事を言われるのは嫌なはずなのに、なぜか嫌だと感じていない。寧ろ嬉しいような、不思議な気分だ。ただ男の精神が邪魔をしているのか素直に喜べるものではないが。例えるならば、男がカッコいいと言われて喜ぶように、女も可愛いと言われて喜ぶ。その二つの心がぶつかり合っている感じだ。


「すっごい複雑」


「んっ?」


 思わずぼそりと呟く。

 レイアは呟かれた言葉に反応してこちらに顔を向けるも、特に意味はないと思ったのか、問い直すことはせずに、自身と同様に深く椅子に腰かけた。

 しかし、彼女の言葉は自分にも当てはまると気がついているのだろうか? そう思ったリアは、仕返しとばかりにレイアの容姿を褒め称える事にする。


「というか、俺よりレイアの方が可愛いと思うぜ? 今日こうして話してみて分かったけど、凄く親しみやすいし……何より、僕っ娘ていうのもポイントが高いからな」


「ふぇ!?」


 ズルッと椅子からずり落ちそうになりながら、レイアは間抜けた声をあげた。それから、カァーっと擬音がつきそうな程に顔を赤くしていく。

 そんな彼女の反応に思わず笑みがもれた。


「な、何を言い出すんだい!? 僕が可愛いなんて冗談はやめてくれよ!」


「冗談なんかじゃないさ。本当の事を言ったまでだ」


「ほ、本当の事って……僕はそんな」


「可愛いよ? 例を出すなら……小動物っぽい感じが思わず抱きしめたくなる」


「うぅ…」


 あまりそういった事を言われる事に耐性がないのか、レイアは俯いてしまった。しかし、耳まで真っ赤なので恥ずかしがっている事は明白である。可愛いな、ほんとうにとリアは心が温かくなるのを感じた。

 そうしてレイアの恥ずかしがっている姿を暫くの間観察する。すると、彼女はバッと顔を上げて。


「って、小動物はちょっと失礼じゃないかな!?」


 あまり良い意味に捉えなかったのか、ちょっと怒り気味の様子。リアはそんな彼女の誤解を解く為に、また褒め言葉を並べた。


「悪い意味で言ったんじゃないよ? なんか兎か猫みたいで庇護欲を掻き立てられるって意味だ。それに兎とか猫とかって、可愛いし抱きしめたくなるだろ? それと同じくらいレイアが可愛いって事だよ」


「え……そ、そうなんだ」


 カウンターを喰らいあたふたするレイアは本当に可愛い。


(ふっ、こんな時に女の精神が役に立つとはな。昔、友達を作る為に女の子に対する褒め言葉を調べておいてよかったぜ。結局、女友達なんてできなかったし今日まで使う機会などなかったがな!!)


 あと、ちょっとクサイ台詞なのに女になったせいか全く躊躇いなく言えた。たぶん男だったらキモすぎて引くような台詞だと思う。

 レイアはリアの台詞に顔を赤くしながらも、必死な顔で口を開いた。


「ど、どちらにしても!! お互い暫くの間は警戒した方がいいかも。そう考えると今日君に会えて良かったよ!! うん」


 あたふたしながらレイアは言う。急な話題転換で話を逸らした事は分かっていたが、これ以上追撃して嫌われたくはないので、彼女の言葉に乗っかる事にした。


「そうだな。お互いに情報交換もできるし……」


 その時、情報交換という言葉で俺は友達ができた時にやっておかなくてはいけない、重要なイベントがある事を思い出した。

 そう、それは……メールアドレスの交換である。

 自分の携帯端末内には残念ながら母さんとルナ、それから師匠の3人しか登録されていない。改めて交友関係の皆無さに悲しくなってきた。だからこそ、これが初めての身内以外とのメアド交換になるかもしれない。

 俺はポケットに手を突っ込み携帯端末を引っ張りだした。それから、緊張した語調で言う。


「よ、よかったら連絡先の交換しようぜ。ほら情報交換に使えるし連絡取り合えるほうがいいと思うしさ」


 もし拒否されたらダメージで立ち直れないと思ったせいか、言い訳じみた事も言ったような気がする。しかしどうにか「メアド交換しない?」の一文を言う事ができた。後はレイアの返答待ちだ。

 レイアはリアの提案を聞いた後すぐに、ポケットに手を突っ込むと携帯端末を取り出した。


「いいよ!! こっちこそ君の連絡先が欲しかったくらいだ」


 快い了承をもらい、お互いにアドレスを交換し合う。アドレス帳に番号を打ち込み名前に「レイア」と名前を打って登録ボタンを押した。友達の名前がアドレス帳にあるのを見ると、なんだかとても嬉しい気持ちになってくる。こんな気持ちになったのは初めてだ。


「登録完了。ありがとな」


 礼を言うと、レイアは携帯端末から顔を上げた。


「こっちも登録終わった。あっとそれから、さっき情報交換の為って言ってたけど、普通に雑談でも連絡してきていいからね?」


 そう言って彼女はニッと笑う。

 その言葉は気を遣ったりした訳ではなく、本音でそう言ってくれていると分かる。リアは携帯端末をグッと両手で握りしめて胸元に抱くように持ちながら返事をした。


「……うん、絶対する!!」


 ニヤける顔を抑える事なく、満面の笑みを見せる。どこかで息を飲む音が聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 しかし、なぜか数秒経っても彼女からの言葉が返ってこない。心配になり顔を上げると、レイアはまるで金縛りにあったかのように固まっていた。よく見るとほんのり頬が赤い。


「ん? おーい」


 顔の前で手を振り呼びかけると、レイアはハッとしたようにびくりと体を揺らした。


「ご、ごめんごめん。僕からもメールしていいかな?」

「勿論大歓迎だぜ」


 リアがサムズアップしながら言うと、レイア「僕も絶対するよ」と言ってサムズアップした。

 それと同時に教室の前方からガラリと音が鳴り、前方に顔を向ける。この時レイアがぼそりと「笑顔が眩しい……」と言ったのだが、その声は小さすぎて誰にも聞かれる事はなかったのだった。


………


 開いた扉からペタペタと足音を鳴らしながら、1人の女が教壇に向かって歩いてくる。音の原因は、彼女が靴ではなくビーチサンダルを履いているせいだ。っていうかなんでビーチサンダル?

 疑問に思いながら足元から上へと目線を上げていく。彼女の服装はだるんだるんといった表現が適当な程にだらしない。ズボンは黒いジーパンだが、サイズが合ってないようで、裾を左右とも捲っている。上着にはジーパン同様にサイズの合ってない大きな黒いローブを羽織り、その下には『ざるそば』と書かれた白いTシャツが顔を覗かせる。胸は大きいようだが、そのせいで『ざるそば』の文字が強調されている。っていうかなんだこのTシャツ。ざるそばの文字のせいか、色気の欠片も感じなかった。


 それから長い赤毛の髪が見えたが、寝癖なのか癖毛なのか、いろんな所にが跳ねまくってボサボサだ。しかし、顔つきは美人であった。睫毛は長く、鼻梁も整っている。だが、化粧っ気も無く目の下には酷いクマができており、瞼も半分閉じている。眠そうな榛色の目からは生気が感じられず、まるで死んだ魚のような目だ。更に肌色は綺麗な白い肌というより病気なのかと心配になる程に白い。

 美人な筈なのにもういろんな意味で台無しである。


 そんな彼女は、壇上に上がって、チョークで黒板に小さな字を書いていく。どうやら自身の名前を書いているようだ。

 彼女は名前を書ききると、チョークを置いた。黒板に書かれた小さな文字を頭の中で呟く。

『ハーディス・カルセス』

 それが彼女の名前のようだ。


「出欠取るから座れー」


 やる気が無さそうな声で、ハーディスは着席を促す。立っていた生徒は急いで着席していった。全員が座ったのを確認すると、彼女はバインダーを片手に持ちながら口を開く。


「じゃあ出欠を初め………いや、面倒だ。全員出席でいいか」


 バインダーを放るように教卓に乗せ、ハーディスはぐるりと生徒を見回す。


「私がお前らの担任のハーディスだ、よろしく。専門は薬品の調合だ」


 片手をビシッと上げ、簡潔な自己紹介を棒読みっぽい声で言う。

 横でレイアが「本当に担任だったんだ……なんだかこの先が心配だなぁ」と呟いた。

 リアはレイアの呟きに同感し、そして同時にこのクラスの皆も同じ気持ちなんじゃないかと思った。そう思い周りを見ると、殆どの生徒が顔を引きつらせていたり苦虫を噛み潰したかのような顔をしたりしていた。やっぱり、みんな何処か適当な様子の担任に、不安感を抱いているらしい。


 そんな生徒達の心情など御構い無しにハーディスは話を続けた。


「はー、なんだっけ? あぁ、連絡事項か。えっとプリント……配るの面倒だから全員前に取りに来い」


 とてもやる気がなさそうな先生だった。しかし、同時に面白いとも思う。 

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