第二十一話:優しさの行き先
※本話には、子どもに関わる辛い展開が含まれます。苦手な方はご注意ください。
秘密の新研究所――その地下室は、ひどく静まり返っていた。
音がないわけではない。どこかで水が滴る微かな音、遠くで軋む金属の気配。
それでもなお、この空間には生きた気配が希薄だった。
魔道具の結界に囲われたその中心に、エレナはいた。
カミラから告げられた内容は、あまりにも常軌を逸していて。
理解しようとするたびに、思考が拒絶する。
(……いったい、どうすれば……)
足元が揺らぐ。
現実感が、希薄になる。
この場に立っていることすら、夢の中のようで――
「……っ」
小さく息を呑み、ふらついた体をなんとか支える。
(しっかりしないと……)
自分に言い聞かせるように、ゆっくりと周囲を見渡した。
そのときだった。
暗がりの奥――
何かが、こちらを見ている。
「……え……?」
目を凝らす。
そこにいたのは――子どもたちだった。
だが。
ただの子どもでは、ない。
腕に鱗が浮かぶ者。
片目が爬虫類のように細く裂けた者。
背に、歪な突起を持つ者。
人と魔物の境界が、曖昧に混ざり合った存在。
一瞬、息が止まる。
本能的な恐怖が、胸を締めつけた。
(……怖い……)
そう思った、はずなのに。
――その瞳を見た瞬間。
「……あ……」
気づいてしまった。
そこにあるのは、異形ではなく。
ただ、怯えている“子ども”の目だった。
不安と、諦めが入り混じった、幼い瞳。
(この子たち……)
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
ゆっくりと、エレナは膝を折った。
目線を合わせるように。
「……大丈夫よ」
そっと、優しく声をかける。
自分でも驚くほど自然に、その言葉は口をついて出た。
「怖くないわ。ね?」
一歩、また一歩と近づく。
子どもたちは警戒しながらも、逃げようとはしない。
「物語は、好き?」
柔らかく微笑む。
「お話、してあげる。だから――こっちに来てくれる?」
手を差し伸べる。
その仕草は、かつての“母”としての記憶をなぞるように、あまりにも自然だった。
「眠れないなら、子守唄も歌ってあげるわ。一緒に休みましょう?」
沈黙のあと。
ひとり、またひとりと。
おずおずと、子どもたちが近づいてくる。
触れることを恐れるように、それでも縋るように。
やがて。
小さな手が、エレナの服の裾を掴んだ。
その瞬間。
空気が、わずかに変わった。
――懐いたのだ。
異形と呼ばれるその子どもたちが、エレナに。
彼女は、子どもたちを包み込むように歌い、物語を優しく話し出す。
子どもたちは穏やかな眼差しで耳をそばだて、エレナと共に微睡んでいる。
その光景を。
少し離れた場所から見ていた男がいた。




