第四十一話:誓いのように
今日もまた、彼はエレナの傍にいた。
静まり返った寝室の中、時間だけがゆっくりと流れている。
ベッドに横たわる彼女の白金の髪に、指を差し入れる。
絡まぬよう、傷つけぬよう、細心の注意を払って梳いていくその仕草は、慎重で――そして、どこまでも優しかった。
まるで眠っているだけのような横顔を、ジャックはじっと見つめる。
その眼差しには、隠すことのない愛情と、言葉にしきれぬ焦燥が静かに沈んでいた。
「エレナ。もうすぐ、全てが終わる」
穏やかな声音だった。
だがその奥底には、終わらせなければならない何かへの決意が、冷たく沈んでいる。
わずかな間を置いて――ジャックは、ふと視線を落とした。
「……お前がいない世界など、俺には耐えられないらしい」
誰に聞かせるでもない、ただ零れ落ちた本音だった。
強く、揺るがぬはずの男の中にある、どうしようもない空白。
「このまま眠るなら、一緒に逝くよ……」
あまりにも自然に、その言葉は口にされた。
そこに迷いはなく、誇張もなかった。ただ、事実を告げるだけの静けさがあった。
「きっとお前は怒るだろうな。その時は来世で文句を聞こう」
くすりと、小さく笑う。
それはいつもの軽口にも似ていたが、その実、未来を信じるための最後の縋りのようでもあった。
指先で前髪をそっと払い、ジャックは身を屈める。
そして、エレナの額に、触れるだけの口づけをひとつ落とした。
それはまるで、誓いのように。
やがて、何も言わずに背を向ける。
足音を立てぬまま扉へと向かい、静かに部屋を後にした。
――そのときにはもう。
彼の顔からは、いっさいの感情が消え失せていた。




