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第三十七話:公女の決意



グラティオラ公国――その奥深く、華美に整えられた公女の私室には、張り詰めた沈黙が満ちていた。


ローゼマリーは、侍従からもたらされた報せを前に、しばし言葉を失っていた。

整えられた指先が、わずかに震えている。


「……そんな……」


かすれた声が、ようやく唇から零れる。


「カミラが、拘束された……? 何かの間違いではなくて?」


信じたくない、という思いがそのまま言葉になっていた。

彼女にとってカミラは、単なる侍女ではない。自分の“物語”を理解してくれる、唯一の存在だったのだから。


侍従は一歩進み出ると、主の動揺を抑えるように、しかし事実から目を逸らさぬよう慎重に言葉を選ぶ。


「……はい。アイーゼで拘束されたのち、ヴァルデンライヒ王国へ移送され、現在は取り調べ中とのことです」


その声には、現実を否定させない重みがあった。


「理由は……王弟殿下、並びに王太子殿下に対し、呪術を行使した疑い。現在、取り調べを受けていると――」


そこまで聞いた瞬間、ローゼマリーの表情が変わる。


悲しみと困惑の奥に、別の感情が静かに顔を覗かせた。


「……そんなはず、ないわ」


ぽつりと呟く。

それは事実を否定しているのではない。

自分の“物語”と食い違う現実を、拒んでいるだけだった。


カミラが誤るはずがない。

彼女は、自分のために動いているのだから。


「きっと……何かの手違いよ」


自分に言い聞かせるように、言葉を重ねる。


そして、次の瞬間。


ローゼマリーは、はっきりと顔を上げた。


「――ジャック様にお会いするわ」


決意が、その瞳に宿る。


「直接お話しして、カミラを解放していただくようお願いするの」


その声音には、迷いがなかった。

まるで、それが当然に叶う未来であるかのように。


侍従がわずかに息を呑む。

だが、止めることはできなかった。


「……すぐに、支度を」


「ええ。急ぎなさい」


短く命じると、ローゼマリーは静かに立ち上がる。

ドレスの裾が揺れ、その動きには一片の躊躇もない。


胸の奥で、ひとつの確信が揺らぐことなく燃えていた。


(ジャック様は、きっと分かってくださる)


唇に、かすかな微笑が浮かぶ。


それは恋する少女のものというには、どこか歪で、執着に満ちていた。


(――だって、私たちは、運命の恋人なのだから)


その確信だけを胸に抱き、ローゼマリーはヴァルデンライヒ王国へと向かう。


誰にも揺るがされることのない、“彼女だけの物語”を、貫くために。

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