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第十一話:王弟殿下の意外な一面


翌朝、自室で静かに休んでいると、廊下の向こうから父の緊張した声が聞こえてきた。


「まさか……王弟殿下がお越しになるとは……」


(え? ジャック殿下が?)


ほどなくして、侍女が慌てた様子で部屋に駆け込んでくる。


「エレナお嬢様、殿下がお見舞いにいらしております」


「ええっ!? い、今から準備を……!」


「お召し物はこちらで手配いたしますので」


侍女たちに囲まれながら身支度を整える間も、昨夜の出来事が頭をよぎる。


(レオンハルト殿下と……少しおかしな雰囲気になったこと……)

(怒られたり……しないわよね?)


準備を終え、応接室へ向かうと――


そこにいたのは、騎士団の制服ではなく、簡素な装いのジャック殿下だった。

柔らかな日差しを受け、銀髪が穏やかに輝いている。


「エレナ!」


殿下は私の姿を見るなり立ち上がり、心配そうに歩み寄ってきた。


「怪我はなかったか?」


「は、はい……少し驚いただけです」


(……あれ?)

(いつもの騎士団長としての威厳が、ない……?)


殿下は私の顔を覗き込むように確かめ、ほっと息を吐いた。


「よかった……」


そのあまりに柔らかな表情に、胸が小さく跳ねる。


(昨日までの厳格さと、まるで別人みたい……)


私は慌てて姿勢を正し、畏まって挨拶した。


「殿下、このような場所までご足労いただき……」


「気にするな」

殿下は穏やかに微笑む。


「愛しい婚約者のことだからな」


(……愛しい)


思わず言葉を失った私をよそに、殿下は何事もなかったように椅子へ腰を下ろした。


「昨日は、レオンハルトが送ってくれたそうだな?」


(来た……!)


「は、はい……王太子殿下のご厚意で……」


その瞬間、殿下の表情が、ほんのわずかに曇る。


「……そうか」


しばしの沈黙の後、殿下は意を決したように視線を上げた。


「実は……」


「は、はい」


「君に触れたい。ほんの少しでいい」

頬をわずかに赤らめ、真剣な眼差しで言う。


「許してくれるか?」


その視線に抗えるはずもなく、私は小さく頷いた。


「……どうぞ」


殿下はそっと手を伸ばし、私の頭――つむじにやさしく触れた。


(……え、そこ?)


指先で髪を撫でながら、殿下は低く囁く。


「怖かっただろうに……」


(なにこれ……)

(噂の“大型犬属性”って、こういうこと……!?)


次の瞬間、殿下はぱっと立ち上がり、勢いよく両腕を広げた。


「エレナ!」


(え!? 抱擁!?)


固まる私を前に、殿下の顔には不安が滲んでいる。


「……嫌か?」


(そんな、捨てられた子犬みたいな顔しないで……!)


「い、いえ! 嬉しいです!」


(……って、私何言ってるの!?)


次の瞬間、身体は勝手に動き、殿下の腕の中に収まっていた。

筋肉質なのに、驚くほどやさしい抱擁。


「ありがとう……」

耳元で、殿下の声が低く響く。


「昨日は、ちゃんと守れなくて……すまなかった」


(……え?) (ジャック殿下が……謝ってる?)


胸がきゅっと締め付けられる。


「殿下……その……」


「ジャックだ」

殿下は静かに言った。


「二人きりの時は、そう呼んでほしい」


「……ジャックさま」


「よし」

満足そうに頷く姿に、思わず目を瞬かせる。


(……なんなの、この可愛さ……)


昨日までの凛々しい騎士団長像が、音を立てて崩れていく。


「もう一つ、お願いがある」


「……はい?」


「婚約式の衣装を、一緒に選ばせてほしい」


(え? あの騎士団長が……衣装選び?)


「もちろん……光栄です」


殿下の表情が、ぱっと明るくなった。


「よかった! すぐ店を予約しておく」


(完全に……乙女ゲームの攻略対象じゃない……?)


帰り際。

玄関ホールで父が深々と頭を下げる横で、殿下は私にだけ聞こえる声で囁いた。


「次の休みには、必ず連れて行く」


「……二人きりで、デートしよう」


(デ、デート!?)


言葉の意味を理解するより先に、殿下は颯爽と去っていった。


その背中を見送りながら、私は思わず呟いていた。


「……かわいすぎる……」


その一言を聞いた執事が、生暖かい目でこちらを見ていたことに、私は気づかないふりをした。


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