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第二十七話:英雄の到着

刃が、リヒトの胸を貫く――その寸前。


金属同士が激しく打ち合う乾いた音が、狭い通路に鋭く響き渡る。


弾かれたのは、ハンスの刃だった。


その軌道を、正面から受け止めていたのは――ひとりの男。


「……間に合ったか」


低く、静かに呟くその声には、僅かな安堵と、張り詰めていた気配が、わずかにほどけたのが分かる。


影の長マックスだった。


リヒトを庇うように前へと立ち、そのまま一歩も退かぬ構えでハンスを見据える。


「……チッ」


舌打ちが落ちる。


ハンスの目が細められ、その視線がマックスを値踏みするように走った。


ただの増援ではない――瞬時に理解する。


「随分と早い到着ですね」


皮肉めいた声に対し、マックスは一切応じない。


ただ短く言い捨てる。


「すぐに主様たちが来る。安心しろ」


その言葉は、リヒトへ向けられたものだった。


リヒトは苦く笑いながらも、わずかに息を吐く。


(……助かった、か)


マックスはリヒトからの信号を受けた直後、即座に動いていた。


そしてアイーゼへ入国したその瞬間、微かに残された“痕跡”を捉える。


――エリカの絶対追跡。


あの少女が、命を削って残した導き。


それを辿り、ここへ至ったのだ。


「……なるほど」


ハンスが、ゆっくりと距離を取る。


状況は一変していた。


リヒト一人であれば余裕で仕留められた。


だが今は違う。


この男は言った――主様が来る、と。


英雄が迫っている。


「流石に英雄相手では分が悪いですね。……ここは引かせていただきましょう」


静かにそう告げると、躊躇いなく踵を返す。


その判断は速かった。


一瞬でも遅れれば、逃げ場はなくなると理解しているからこそ。


ハンスの姿が、闇の中へと消える。


「……逃がしたか」


リヒトが呟くが、マックスは首を振る。


「いや――」



ハンスは研究施設の外へ脱出した。


助かった。このまま逃げ切れるーーそう思った矢先、別の気配が現れた。


「逃がさん」


低く、冷え切った声だった。


夜気の中に立っていたのは――王弟ジャック。


ハンスの足が、ぴたりと止まる。


「……っ!?」


目を見開く。


その顔に浮かんだのは、明確な動揺だった。


「くそっ……!」


即座に踵を返し、別方向へと跳ぶ。


逃げ切る――その一念で。


だが。


「無駄だ」


静かに落ちた声。


――どこからだ。


ハンスは反射的に振り向いた。


そして――凍りついた。


「あ、有り得ない……」


喉が引き攣る。


「魔道皇帝……だと……?」


そこにいたのは、ヴィルヘルム。


マックスの連絡を受け、ジャックはヴィルヘルムに応援を要請した。共に長距離転移でここへと現れたのだ。


ハンスは英雄二人の出現に驚きを隠せない。


ヴィルヘルムは、つまらなそうにハンスを見下ろす。


「ふん……この程度の男、お前ひとりで十分だな」


その言葉には、微塵の誇張もなかった。


ただの事実としての、断言。


「言われなくても」


ジャックが一歩、前へ出る。


その眼差しは、氷のように冷たく、そして――怒りを孕んでいた。


剣を抜く。


構えは最小限。


だが、その一動作に宿る圧は、空気を震わせるほどに重い。


次の瞬間。


一閃。


空間ごと断ち切るような斬撃が、一直線に走った。


「――っ!?」


反応すら、間に合わない。


ハンスの身体を、横一文字に裂く。


遅れて――血が噴き上がる。


「ば……かな……」


崩れ落ちながら、かろうじて言葉を絞り出す。


「これが……英雄……」


最後まで、その現実を受け入れることはできなかった。


「……ゴフッ」


血を吐き、そのまま力尽きる。


動かなくなった身体を一瞥することもなく、ジャックは剣を納めた。


その視線は、すでに別の場所へ向いている。


「エレナが待っている。急ぐぞ」


短く言い放つ。


「ああ」


ヴィルヘルムもまた、興味を失ったように背を向ける。


倒れ伏したハンスには、誰一人として視線を向けることはなかった。


ただ、迷いなく――地下へと向かう。


その先にいる、ただ一人の少女のもとへ。


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