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第二十五話:子どもたちの選択

※本話には、子どもに関わる辛い展開が含まれます。苦手な方はご注意ください。

エレナは、ファビアンに何度も頭を下げ、懇願の末に、異形の子どもたちと共に過ごすことを許されていた。


地下という閉ざされた空間。

その中で、彼らはかすかな灯火のように寄り添い合っていた。


物語に目を輝かせる子。

歌に合わせて楽しげに身体を揺らす子。


エレナは彼らに寄り添い、そして――同じように、その存在に支えられていた。


不安に押し潰されそうになるたび、彼らの温もりが彼女を繋ぎ止めていた。


――だからこそ、手放すことなどできなかった。


いつか助けが来ると信じて、過ごしてきた日々。


そして――。


(……リヒトさんが、来てくれた)


胸の奥に灯る安堵。

だが同時に、拭いきれない想いがあった。


(この子たちも、一緒に……)


視線を落とせば、すぐそばで自分の裾を掴む小さな手。

不安げに揺れる瞳が、エレナを見上げている。


(置いていけるはずがない……)


そして――もう一つ。


(……“あのこと”も、なんとかしなきゃ……)


カミラに告げられた、あまりにも残酷な事実。

それを思い出すたび、胸の奥が締めつけられる。


だが、考える時間は与えられていなかった。


遠くから、鈍い衝撃音が断続的に響く。

金属がぶつかる音、何かが砕ける音、そして――押し殺したような息遣い。


リヒトが、戦っている。


「……っ」


思わず顔を上げる。


視界の先、隔てられた向こう側で、彼は無数の異形と対峙していた。


一体一体は脅威ではない。

だが――数が、異常だった。


途切れることなく襲いかかる影。

斬り伏せても、すぐに次が現れる。


徐々に、確実に――動きが鈍っていく。


「くそっ……分が悪いな……」


低く漏れた声が、かすかに届く。


その姿に、胸が締めつけられる。


「リヒトさん……」


思わず名を呼ぶ。

だが、その声は届かない。


そのときだった。


くい、と。

裾を引かれる感触。


振り向くと、異形の子どもたちが、じっとこちらを見ていた。


そして、無言のまま――ある方向を指さす。


「……え……?」


示された先には、一つの扉。

それまで意識していなかった、小さな部屋。


子どもたちの表情は、どこか沈んでいる。

悲しみと――それでもなお、何かを決意したような、静かな強さ。


(この子たち……何か知っているの?)


エレナは、はっと息を呑む。


「リヒトさん……!」


声を張り上げる。


「あの部屋に……何かあるみたいです!」


一瞬、リヒトの視線がこちらへ向く。

状況を即座に読み取ったのだろう、迷うことなく進路を変えた。


激しい攻防の合間を縫い、扉へと踏み込む。


内部は、他の空間とは異質だった。

中央に据えられた装置、その奥――淡く脈動する、奇妙な“核”。


「……これか」


直感だった。


躊躇はない。


刃が振るわれる。


――次の瞬間。


空気が、変わった。


「……っ!?」


外にいた異形たちの動きが、一斉に乱れる。


制御を失ったかのように、ぎこちなく、歪に。

そして――


その身体が、崩れ始めた。


「なっ……何を……!」


響く絶叫。


「なんて事をしてくれたんだっ!僕の子ども達があぁぁぁ!」


ファビアンだった。


その声音は、怒りと絶望と狂気が入り混じり、もはや理性の形を保っていない。


「その核がないと細胞が壊れてしまう!ダメだ……ダメだダメだダメだ――ッ!!」


核。


それは、彼らをこの世界に繋ぎ止めるための要だった。


つまり――


(……この子たち、自分たちで……)


あの部屋を示した意味。


それは――


自らの終わりを、選ぶためだったのだ。


「そんな……」


声が震える。


異形の子どもたちもまた、ゆっくりと崩れ始めていた。


小さな手が、力を失っていく。

身体の輪郭が、淡くほどけていく。


「……っ、やだ……」


エレナは咄嗟に、その子たちを抱き寄せた。


ひとり、またひとりと。


消えかける存在を、必死にかき集めるように。


「大丈夫……大丈夫だから……」


自分に言い聞かせるように、震える声で語りかける。


「きっと……また生まれ変わるよ」


涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。


「次は……私の家族になって……たくさん一緒に遊ぼう?」


震える指で、小さな頬に触れる。


「美味しいおやつも、いっぱい作ってあげる……お歌も、たくさん歌うから……」


言葉が、途切れそうになる。


それでも――


「だから……また、会おうね……」


抱きしめる力が、わずかに強くなる。


その腕の中で。


子どもたちは――


穏やかに、微笑んだように見えた。


次の瞬間。


光が、ふっとほどけるように。


ひとり、またひとりと、消えていく。


まるで最初からそこに存在しなかったかのように。


(……ありがとう……)


どこか遠くで。


確かに、そんな声が聞こえた気がした。


(……またね)


静かな余韻だけを残して。


すべては、消えていった。


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