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北方海の守護天使  作者: h.hiro
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第29話「まほろば中央海へ・前編」

中央海と北方海との接続海域。

そこに今、宗武商会所属のスプルーアンス型駆逐艦ゆきしおが居た。

通常船団の護衛を行なうゆきしおが単艦で行動をするのは珍しい事だった。

そう今回の任務は船団護衛では無く、ある船との邂逅だったのだ。

「それにしても肝心の相手が誰か分からないのは・・・」

ゆきしおの副長であるイーリス・エーデンは溜息を付きながら前方の海を見る。

もちろん商会が無意味な事をさせるとは思っていないが、情報を遮断されているのは良い気分ではないなとイーリスはぼやく。

それは艦橋に居る者・・・艦長である大谷 マドカを除いた者全員が思っていた事だった。

そうマドカを除いて・・・

「・・・艦長は何か知っているのですか?」

「うん?知らないよ、でも悪い事じゃないと思うな、むしろ良い事だと。」

イーリスの問い掛けにマドカは楽しそうに答える。

「何を呑気な事を・・・」

頭を抱えたくなるイーリス、まあマドカのこういったところは今に始まった事ではないのだが。

次の船団護衛準備中だったマドカとイーリスは商会長から急な呼び出しを受けた。

「ゆきしお艦長大谷 マドカ参りました。」

「同じく副長イーリス・エーデン参りました。」

商会長室に入ってきた2人はそう言って姿勢を正す。

「急に呼び出して悪かったわね・・・実はゆきしおの明日の任務を変更します。」

2人の前に座る宗武商会長の宗武 真雪はそう告げる。

「任務の変更ですか?」

マドカとイーリスは顔を見合わせる。

「ええ、ゆきしおは明日0900出航、接続海域に単艦で向かって下さい、目的は北方海から来る艦の出向かえです。」

益々混乱するマドカとイーリス、何しろ今までこんな任務など無かったからだ。

「その・・・北方海からどんな艦が来るんですか?」

マドカとしてはそれがとても気になったのだが。

「それは出会えば分かるでしょう。」

真雪はそう言って意味深に笑う。

「それだけですか?それでは対応が出来ないのでは?」

控えめに抗議するイーリス。

「今の所それだけですエーデン副長・・・まあ貴女、いえ貴女達にとっては良い話だと思いますよ。」

含んだ言い方にイーリスは困惑する、一方マドカの方は・・・

「分かりました宗武商会長・・・楽しみにしておきます。」

「はあ・・・」

何時もと変わらない様子に深い溜息を付きつつ、イーリスは商会長室をマドカと共に退出するのだった。

「艦長!センサーに反応・・・右舷50度、距離2千です。」

突然センサー担当が複合ディスプレーを見ながら報告する声が艦橋内に響く。

「な、シーサーペントか!?」

すぐさまイーリスがセンサー担当に確認する。

「シーサーペントでは無いです、艦船だと思うのですが。」

「分かった・・・艦長!」

「警戒態勢へ・・・まあ大丈夫だと思うけどね。」

呼び掛けられたイーリスの声にそう指示を出しつつもマドカには、緊張してはいるが慌てている様子は無かった。

こう言う時は艦長の顔になるなとイーリスは内心苦笑する、何時もこうあってくれれば良いのにと思いながら。

「船影を確認!方位右舷50度、接近中。」

右舷見張り所からの報告に、イーリスは右舷の見張り所へ走り出る。

「一体何が?」

イーリスがそう呟くと持ってきた双眼鏡を向け、接近してくる船影を見て目を見張る。

「副長、あれはスプルーアンス型駆逐艦ですよね・・・・」

「ああ、間違いなくスプルーアンス型駆逐艦だ、一体何処の所属なんだ?」

一方ゆきしおに接近して来た駆逐艦の艦橋。

「ゆきしおを確認・・・皆さん驚いているみたいですね。」

副長が報告した後、そんな感想を漏らす。

隣で同じ様に双眼鏡でゆきしおを見ていた恵理香が苦笑しつつ答える。

「その様ですね・・・なるほどこう言う事ですか。」

その駆逐艦はまほろばだったのだ。

恵理香に来る様に要請してきた女性が言っていた意味を理解し溜息を付く。

「サプライズのつもりなんでしょうけど・・・」

あの人らしいなと恵理香は何となく理解してしまうのだった。

「ゆきしおに通信を。」

「了解です艦長。」

マドカが座る艦長席の艦内電話が呼び出し音を響かさせる。

「艦長です・・・はい繋いで下さい。」

艦橋に居る者達はマドカの事をじっと見つめる、艦橋に戻って来たイーリスを含めて。

「・・・うん久しぶりだね・・・エリちゃん。」

「エ、エリちゃんって・・・まさか?」

マドカの言葉にイーリスは絶句する、何故なら彼女が知る限り、マドカがそう呼ぶ相手は1人しかいないからだ。

「そうだよ・・・あの駆逐艦は牧瀬商会所属のまほろば、そして艦長は北方海の守護天使ことエリちゃんだよ。」

悪戯っぽい笑みを浮べてマドカが言うとイーリスを始めとした者達は絶句しそして・・・

「お久しぶりです大谷艦長、まほろば艦長牧瀬 恵理香です。」

『・・・うん久しぶりだね・・・牧瀬艦長、ううんエリちゃん。』

久々にその呼び方をされた恵理香は養成学校時代を思い出してくすぐったい気分にされる。

「ところで私が来る事は皆事前に知らされていなかったんですね。」

マドカの背後で『艦長、エリちゃんって牧瀬さんですか?』とか『恵理香さんが?』と大騒ぎになっているのが無線越しに聞こえてくる。

『うん全然知らなかったよ・・・まあ北方海と聞いて私はぴんと来たけどね。』

相変わらず感は鋭い様だった、まあ養成学校時代もそうだったので恵理香は大して驚かなかったが。

『それじゃ港に案内するね。』

「はい、お願いします。」

そこで無線を切り恵理香は命じる。

「ゆきしおに続き港に向かいます。」

「了解です艦長。」

副長がそう答える、それに頷く恵理香の両肩に手が置かれる。

「皆に会うのが楽しみだよ恵理香。」

「私もだよ恵理香。」

一見楽しそうに言う優香とロベリヤだが恵理香は背筋が寒くなってしょうがなかった。

「進路を港へ、まほろばを誘導します。」

ゆきしおの操舵担当に指示を出すマドカ。

「あ、はい艦長・・・そうか恵理香が来たんだ。」

養成学校時代は恵理香と特に仲が良かった操舵担当は嬉しそうに微笑んだ。

「恵理香さんと会うのが楽しみだな。」

「そうね。」

乗員達にとっては恵理香と再会は感慨深いものがある様だった、それが例え二度目でもだ。

何しろゆきしおが北方海に船団護衛で行った時に一度再会したが、互いに時間が無かった為、旧交を温める時間など無かったからだ。

「そうそう、エリちゃんの商会長への挨拶が終わったら、まほろば乗員達の歓迎会を開くからよろしくね。」

マドカが皆にウィンクして言うと、乗員達は皆顔を見合わせ、声を上げる。

騒がしい皆を見ながらイーリスは苦笑する。

「艦長、一体何時の間にそんな計画を?」

「商会長から今回の話を聞いた直後に主計担当の皆に頼んで置いたの。」

どや顔言うマドカにイーリスは深い溜息をつくも、彼女も嬉しさを隠せない。

「まあ今回は大目に見ますよ艦長、牧瀬艦長の顔を立ててね。」

ゆきしおに先導されまほろばは中央海の港に向かった。

そして半日後ゆきしおとまほろばは中央海のハンター達にとって拠点として使われている港に入港した。

入港後専用の桟橋にゆきしおが接岸し、まほろばも臨時に指定された桟橋に接岸する。

「それじゃエリちゃんを迎えに行ましょうイーリスちゃん。」

「だから副長と呼んで下さい・・・って艦長待って下さい。」

イーリスの言葉を気にせずマドカは艦橋を出てゆく。

「はあ・・・皆後を頼む。」

ゆきしおの事を乗員達に託しイーリスはマドカを追って艦橋を出て行く。

「はい副長。」

ゆきしおを降りたマドカは後を追ってきたイーリスと合流すると係留されているまほろばの前に到着する。

「牧瀬さんは守護天使なんですよね。」

ふとそんな事を思い出し少し寂しいなとイーリスは呟く。

それは友人が有名人だと分かり距離が出来てしまった様に感じてしまったからだ。

「そうだねエリちゃんは守護天使さんなんだね・・・」

感慨深くまほろばを見ながらマドカはそう呟くと隣に立つイーリスに笑いながら問い掛ける。

「イーリスちゃん・・・エリちゃんが別世界の人みたいに思っちゃった?」

「いやそんな事は・・・いやそうですね・・・」

その問いにイーリスは動揺してどもってしまう。

「落ち込まないイーリスちゃん。」

「か、艦長!別に落ち込んでは・・・」

睨みつけてくるイーリスを見ながらマドカは笑みを強くする。

出会った頃は艦長としての在り方の相違から対立する関係だったイーリスとマドカ。

2人のそういった状況が乗員達同士の人間関係まで影響を及ぼし艦内の雰囲気は最悪だった。

そんなイーリスとマドカの関係を変えてくれたのが他ならぬ恵理香だった、と言っても特別な事をした訳ではなかった。

ただ2人の間に入り、互いの認識が間違っている訳ではなく、どちらも大切だと気付かせてのだ。

イーリスとマドカはその事で最悪だった関係を脱し信頼感を築く事が出来たのだ。

それによって乗員達の相互不信は取り除かれ、卒業間際には優れたチームワークを発揮するまでになった。

マドカは思う、もし恵理香が居なければ私達は早々にばらばらになって、今の様にゆきしおで一緒に航海など出来なかっただろうと。

まあその点については、イーリスもマドカ同様の認識を持っていたが。

だから卒業後、恵理香が北方海へ戻らなければならないと聞いた時、強い不安にイーリスとマドカは襲われた。

彼女が居なくなったら私達はまたばらばらになるのではないのかと・・・

まあそれがあって卒業式後のパーティ、恵理香の送別会も兼ねていたでは祝う雰囲気など微塵も沸かなかったものだ。

そんな皆に恵理香は涙を堪えながらもこう言ったのだ。

「私達の絆はそんな簡単に消えません、皆さんはこれからも大丈夫です、そして別れても私は皆さんの仲間ですから。」

その言葉で全員が大泣きしてしまったのは、今から考えると恥かしいが、良い思い出だったとマドカは思う。

「艦長。」

そんな思い出に浸っていたマドカはイーリスの言葉に意識を引き戻しまほろばの方を見る。

甲板上に恵理香の姿が現れ、イーリスとマドカ手を振るとタラップを降りて桟橋にいるマドカとイーリスの元に歩いて来る。

「わざわざりがとうございます、大谷艦長、エーデン副長お久しぶりです。」

「気にしなくても良いよエリちゃん。」

「ああ久しぶりだな牧瀬艦長。」

恵理香の挨拶に対照的な返答をする2人。

「それじゃ宗武商会へ案内するね。」

イーリスとマドカが先導して商会へ向かう恵理香。

宗武商会は港の近くにありそれほど歩かずに到着できた。

受付でアポを確認し、商会長の部屋へ向かうイーリスとマドカそして恵理香。

「宗武商会長、牧瀬商会のエリちゃ・・・牧瀬艦長をお連れしました。」

ドアをノックしマドカは危うくエリちゃんと呼びそうになるが何とか回避する。

流石に上司の前でそんな事は出来ないのはマドカにだって分かっているからだ。

「どうぞ入って下さい。」

入室の許可を得るとマドカがドアを開け3人は入室する。

「ようこそ宗武商会へ牧瀬艦長、商会長の宗武 真雪です。」

座席から立ち上がり机の前に出て来た真雪は微笑みながら恵理香を迎える。

「ありがとうございます、牧瀬商会所属、まほろば艦長牧瀬 恵理香です・・・ご無沙汰しておりました宗武校長先生。」

そう宗武 真雪は恵理香達が居た養成学校学校時代の校長だったのだ。

そして恵理香達が卒業後宗武商会の商会長に着いたのだった。

校長先生との呼び掛けに真雪は更に笑みを深くして答える。

「ええ元気そうで何よりです牧瀬さん・・・活躍の程はここ中央海でも聞いています、教え子のそんな姿は元校長としては鼻が高いですね。」

「きょ、恐縮です宗武校長先生・・・いえ宗武商会長。」

真雪の言葉に恵理香が顔を赤くしつつ答える。

相変わらずこの娘はこう言った賞賛の言葉に弱いのだなと真雪は微笑ましく思った。

「それでは改めて牧瀬艦長・・・今回の戦術データ交換及び合同演習への参加を感謝します。」

そう恵理香が中央海を訪れた理由、それが対シーサーペントの戦術データ交換と幾つかの商会が合同で行なう演習への参加だった。

一ヶ月前北方海ハンターギルド本部の会議室。

「戦術データ交換と合同演習ですか?それも中央海の商会との・・・」

呼び出しを受け会議室に来た恵理香は万理華はギルド長であるレイアからそんな依頼をされていた。

「ああ中央海のとある商会がギルドを通してな・・・それもお前さんを指名してだ。」

「私の名ですか?やはり守護天使という事で?」

同じ業界の人間だけでなく、一般人の間でも有名になってしまった二つ名の所為かと恵理香は少々鬱になる。

「いや牧瀬 恵理香の方でだ、ちなみに指名して来たのは宗武商会長の宗武 真雪だそうだ。」

そう言ってレイアはにやりと笑う。

「中央海では知らぬ者の居ない女傑じゃないか牧瀬艦長、知り合いだったとは知らなかったぞ。」

中央海において数々の逸話で知られるレイアにとっても大先輩に当たる人物だ。

「多数のシーサーペントに襲撃された島を単艦で守り抜いた伝説の艦長ですよね、その方が・・・」

そんな有名人物から名指しされるという事に万理華は驚きを隠せなかった。

「私が中央海ギルドの養成学校に居た時の恩師ですよ。」

肩を竦めて恵理香は真雪との関係を話す、まあ彼女も真雪の活躍は在学中に周りから散々聞かされいたが。

「なるほど在学中から牧瀬艦長を高評価していたから、天使ではなく牧瀬 恵理香で指名してきた訳か。」

それは買い被りではないのかと恵理香は思うのだが。

「それで恵理香ちゃんはどうするのかしら?」

万理華の問いに恵理香は暫し考えてから答える。

「私は受ける積もりです、宗武校長先生には在学中に世話になりましたし。」

宗武校長の自分への評価とは別に、在学中受けた恩もあり恵理香はその申し出を受ける事にした。

「そ、そう・・・」

万理華が恵理香の答えに何となく面白くなさそうに答えるのは、自分が知らない相手と恵理香が親しそうだからだった。

「恵理香ちゃんがあんなに嬉しそうに・・・」

そう考えている事が声に出ている万理華にレイアは苦笑する。

もちろん恵理香の養成学校時代の事は万理華も聞いており、マドカ達の事も知っているのだが、教師陣については初めて知る話だったからだ。

「分かったそれでは牧瀬艦長、君とまほろばは一週間後中央海へ向かってもらう・・・牧瀬会長構わないな?」

レイアは恵理香にそう指示すると、隣でまだぶつぶつ言っている万理華に問い掛ける。

「・・・えっ、それは、そうだ巨大シーサーペントの問題もあります、まほろばを中央海に行かせるのはどうかと。」

聞かれた万理華はそう言って抵抗してしまう、かっての友人達や宗武校長に恵理香を取られてしまうのではないかと思ってしまったからだ。

「巨大シーサーペントについては、今の時期流氷に阻まれ出て来れない、そう判断された筈だが。」

「それはそうですが・・・」

万理華もその判断に同意したのだから説得力は無かった。

「今後は中央海とも連携する必要がある事は牧瀬会長も認識している筈だ。」

「・・・・」

レイアの指摘に万理華は黙る、彼女とてその辺の重要性は商会長として認識している。

「まあ気持ちは理解出来るが、もう少し妹を信じてやれ、彼女は今まで君をないがしろにした事あったか?」

「会長、いえ姉さん、私はちゃんと戻って来ますから・・・ここは私にとって大事な人達の居る所なんですから。」

恵理香はレイアの言葉に合わせて万理華に微笑みながら話し掛ける。

「そうね・・・うん恵理香ちゃん御免なさいね、信じているから、気をつけて行って来てね。」

そう言って万理華は恵理香に微笑み返しながら答えるのだった。

「あそうだ牧瀬艦長、宗武商会長から伝言があった、『貴女にとって係わりの深い者を迎えに寄こします、お互い新鮮な驚きがあるでしょう、楽しみにして置いて下さい。』だそうだ。」

係わりの深い者と言うのはマドカ達の事だろうなと恵理香は気付くが、新鮮な驚きと言う意味が分からなかった。

それが事前に情報を与えずマドカ達を迎えに寄こす事だったとは、その時点では恵理香は思い至らなかった。

恵理香は忘れていたのだ、真雪は普段は真面目だが、時に茶目っ気を発揮するという事を。

こうして恵理香とまほろばの中央海派遣が決まったのだが、実は出発まで色々あった。

何時ものごとくロベリヤと優香が同行を強く希望して来たのだ。

本来戦術データ交換と演習なので2人は必ずしも参加する必用は無いのだが、恵理香が行くのなら自分達もと言い出したのだ。

ただ恵理香はロベリヤは兎も角、優香については中央海行きには不安があった。

かってケイと共に中央海に居た時に辛い思いを散々していたと聞いていたからだ。

そんな優香を連れて行く事に恵理香は躊躇してしまったのだが。

「確かに当時は辛かったですが、今度は恵理香が居るから大丈夫。」

そう言って微笑む優香は無理をしている様には見えなかった、まあ自分が居るからと言う言葉に恵理香としては反応に困ってしまったのだが。

あと、ロベリヤが優香に対抗(?)して、「僕だって前は辛い思いをしていたけど恵理香のお陰で今は大丈夫になったんだよ。」と言い出し、2人が「私の方が・・・」と言い争いを初めてしまったのは余談である。

そんな事もあり、恵理香は2人を説得する事が出来ず同行する事を承諾せざるしか無かったのだった。

その一連の事を恵理香は、マドカ主催のまほろば乗員歓迎会中に思い出していた。

ちなみに場所はゆきしおの甲板上に設けられた特設会場、大きな横断幕に『歓迎!まほろば乗員の皆』と書かれたものが掲げられている。

そしてゆきしお主計担当達の気合の入った料理が並べられていた。

そしてまほろばとゆきしおの乗員達はもちろん初対面だったが、同じ海に生きる者同士と言う事もあり、あっと言うまに親しくなっていった。

今ではあちこちで双方の乗員達が談笑している姿が見られた。

もちろん恵理香もマドカやイーリスなど養成学校時代に特に親しかった友人達と旧交を温めていた。

なおロベリヤと優香も当然の様に加わり、養成学校時代の事をマドカやイーリスから聞き出そうとして恵理香を困惑させていたが。

まあそんな恵理香の困惑はあったがまほろばとゆきしおの乗員達の交流は無事に終り、いよいよ演習が行なわれ日になった。

演習当日、まほろばはゆきしおと共に中央海の洋上にいた。

「あの連中は本当に相変わらずだな・・・」

そんなゆきしおの艦橋で副長のイーリスがぼやいていた、苦々しい表情を浮かべて。

「気持ちは分かるけど・・・落ち着いてイーリスちゃん。」

苦笑しつつ艦長のマドカがなだめている。

「ですからイーリスちゃんは・・・いえ、すいません艦長。」

落ち着いたのかイーリスは顔を赤くしつつ謝って来る。

「でも副長の言っている事ももっともです艦長・・・本当に困った連中です。」

操舵担当の女性が怒りを隠そうとせず言う。

「まあ今に始まった事じゃないけどな。」

「そうですね。」

他の乗員達も同様に苦々しい表情を浮かべながらぼやいていた。

何故イーリスを始めとしたゆきしお乗員達こうまで憤慨しているのかと言えば、それは演習出発時に起こったトラブルが原因だった。

演習出発の為、宗武商会専用桟橋に集合したまほろばとゆきしおの乗員達。

マドカと恵理香の2人による演習の説明が終わり乗員達がそれぞれの艦に乗艦しようとした時にそれは起こった。

「へっこれがまほろばか、まあ良い標的にはなるな。」

「確かにな、これなら俺達の楽勝だぜ。」

出撃で緊張感の満ちた桟橋に無粋な声が響き、その場に居た者達がその声の主を見る。

それは赤いジャケットにつなぎの艦内服に身を包んだ数人の男達だった。

「奴ら・・・」

「イーリスちゃん、ここは抑えて。」

顔を顰めて呟くイーリスをここで騒ぎを起こすことは得策ではないとマドカが宥める。

ここで何時もと違ってイーリスがマドカが宥めるのではなく逆の事が起こったのだが。

ちなみに無粋な声を掛けてきたのは宗武商会と牧瀬商会と共に今回演習に参加するエスターク商会の連中だった。

そんな彼らにゆきしおの乗員達の向ける視線は決して好意的なものでは無かった。

何しろエスターク商会の問題児として、同じ商会員はもちろん他の商会員にも嫌われている連中だったからだ。

それは今の言葉でも分かるだろう、常に上から目線で他の者達を見下した言動を平気でするのだ。

「そう言えば北方海の守護天使様も居るんだろう、どいつだ?」

ゆきしお乗員達に加えまほろばの乗員達も向ける冷たい視線に気づく事も無く彼らは桟橋に居る者達を無遠慮に見渡す。

「天使ではありませんが、私がまほろば艦長の牧瀬 恵理香です。」

「艦長・・・」

彼らの前に出て恵理香はそう名乗る、すると周りに居た乗員が心配そうに声を掛けてくる。

その乗員に大丈夫ですよと微笑み、恵理香は彼らに言う。

「出来れば自己紹介して頂けますか?それとも貴方たちはそんな事も出来ない無作法者なのですか。」

恵理香の言葉に馬鹿にされたのだと彼らは気づきの表情が引きつらせる。

「何をふざけた事てめえは・・・」

激怒した男が手を恵理香に伸ばそうとするが。

「次は暴力ですか・・・それが中央海の海の男のする事なのですか。」

中央海の海の男は他人に暴力を振るう愚か者なのかと暗に言われ苦々しい表情を浮かべる。

「まあ良い、演習で思知らせてやるからな覚えて置けよ天使様。」

そう捨て台詞を残してエスターク商会の男達は帰って行き、桟橋にほっとした空気が流れる。

「ごめんねエリカちゃん。」

「すまなかった牧瀬艦長、あの連中何時もあんな調子でな。」

そう言って謝罪してくるマドカとイーリスに恵理香は微笑みながら答える。

「いえ気にしていませんからエーデン副長、それにしてもあんな人達は何処にでもいるのですね。」

「まあ牧瀬艦長が冷静に対応してくれて良かったですね。」

イーリスがその時の事を思い出して言う、天使は少々のことでは怒らないのだと感心しながら。

「まあそうなんだけど・・・エリちゃん、結構怒っていたと思うな。」

そんなイーリスの言葉にマドカが苦笑しながら答える。

「そうなんですか艦長?」

「うん、エリちゃんが本当に怒ると口調が物凄く冷静になるから。」

まあそれは自分の事を馬鹿にされたと言うより、人を見下した言動に対してだろうとマドカは確信している。

恵理香があの手の類の人間を嫌っている事をマドカは一緒に練習艦に乗っていた頃から知っていたからだ。

そして怒りが強くなるほど彼女が冷静な口調になる事も、様は普段滅多に怒らない人間が本当に怒ると怖いと言うやつだ。

「なるほど天使の怒りを買ったと言う訳ですね。」

操舵担当の言葉に、マドカは冗談になっていないなと思いながら言う。

「エリちゃん演習ではきっと容赦しないと思うな、連中ボコボコされちゃうでしょうね。」

「天罰が下るって事ですね、まあ連中にはいい教訓になりますね。」

マドカの予想にイーリスは当然だと言った顔をして頷く。

今回の演習ではまほろばはシーサーペント役をする事になっていた。

それは恵理香がシーサーペントの行動パターンを熟知しているからだ。

だからこそ宗武商会長である真雪は恵理香をわざわざ北方海から呼んだのだ。

「もっとも私達相手でもエリちゃんは手を手を抜かないから皆心してね。」

例え旧知の中であったとしても恵理香は決し手加減などしないだろう、そんなところは生真面目な彼女らしいとマドカは思う。

『皆さんにはシーサーペントの本当の恐ろしさを知ってもらう積もりですから。』

演習前にマドカ達に恵理香が言っていた事だ。

「確かに手強い相手ですね、北方海の最前線で常に戦っている歴戦の艦長ですからね牧瀬さんは。」

イーリスはマドカの言葉に表情を引き締めて答える、何しろ恵理香については様々な話が、ここ中央海にも伝わっている。

中には誇張されたものもあるが、それを抜きにしてもマドカ達にとっては驚嘆すべき事が多い。

その任務の性格上、複数の艦による船団護衛が多いゆきしおと違い、まほろばは単独でシーサーペントに対応している。

特に巨大シーサーペントに対する封じ込めは非常に危険で困難な任務だとマドカは真雪から聞いている。

艦長としてその肩に掛かる重圧は並み大抵の事では無いだろう事は同じ艦長であるマドカにも十分理解できる。

恵理香はその重圧に耐え任務を全うしているのだから凄いものだとマドカは尊敬の念を覚える。

まあそう称賛された恵理香は困った表情を浮かべながら『私は出来る事をしているだけです。」と言うだけかもしれないなとマドカは思う。

その辺は誇っても良いと思うのだが、そうじゃないところが恵理香らしいとマドカは心の中で微笑むのだった。

「くしゅっん・・・」

まほろばの艦長席に座っている恵理香が可愛いくしゃみをする。

「大丈夫恵理香?」

傍らに立つ優香が心配そうに恵理香の顔を覗き込んで来る。

「ええ大丈夫ですよ優香。」

微笑みながらそう答えた恵理香は、誰かが噂でもしているのかと思った。

まあ先程のエスターク商会の連中が自分の悪口でも言っているのだろうと恵理香は考えたのだが。

自分が褒められているなんて考えない辺りは恵理香らしいと言える。

「・・・間もなく演習海域です、総員戦闘配置について下さい。」

頭の中からそんな事を追い出すと恵理香は指示を出す。

「了解です艦長、総員戦闘配置つけ。」

副長が艦内放送を行うと共にアラーム音をまほろば内に流す。

『艦載火器管制室準備良し、何時でも行けます。』

『機関管制室配置完了、何時でも最高速度を出せます艦長。』

その返答に満足そうに頷くと恵理香は言う。

「それでは行きましょうか。」

演習だからと言って手を抜く積もりは恵理香には無かった、先程マドカが言っていた通り皆にシーサーペントの本当の恐ろしさを知ってもらいたいからだ。

だがそれは叶わなかった・・・

『艦長!救難信号を受信、船名はまみや丸・・・シーサーペントの襲撃を受けつつありとの事です。』

ゆきしおの艦橋に無線室からの報告が響く。

「!?」

マドカと顔を一瞬見合わせたイーリスは直ぐに艦内電話に取り付くと無線室に詳細を訪ねる。

『幸い沈没にまでは至っていない用ですが、シーサーペントに取り付かれている為船からの退避が出来ないらしいです。』

無線室からの報告を聞いたイーリスは艦長であるマドカに振り向き詳細を伝える。

「分かりました、ゆきしおは演習を中止し救助に向かいます、まほろばとエスターク商会の艦に・・・」

『こちら左舷見張り、エスターク商会の二隻が急加速して離れて行きます。』

左舷見張りから入って来た報告に艦橋内は困惑に包まれる。

「あいつら・・・勝手に何を。」

イーリスは艦橋の窓に取り付き、急速にゆきしおとまほろばから離れて行くエスターク商会の艦を苦々しく見る。

「艦長!」

「本艦も直ちにまみや丸に向かいます、操舵担当お願いね、あとまほろばに連絡を。」

「了解です艦長、直ちにまみや丸に進路を取ります・・・航路情報お願いします。」

「無線室、航路情報を頼む、あとまほろばにゆきしおに続く様に伝えてくれ。」

マドカの指示を受けた操舵担当とイーリスがそれぞれ行動を起こす。

「全艦戦闘配置、但し救難活動を優先します。」

マドカが艦内電話で艦内放送を行う。

ゆきしおの艦内にマドカの声とアラーム音が響き、乗員達が駆け足で配置に付いて行く。

30分後、ゆきしおとまほろばは現場海域に到着するが、状況はマドカ達が思っている以上に最悪だった。

「あんな至近距離に居ては攻撃は・・・」

双眼鏡で状況を見たイーリスはそう言って絶句してしまう。

何しろシーサーペントはまみや丸の船体にまとわり付く様にしているのだ、幸い大きな損傷は無い様だがそれも時間の問題だろう。

「艦長、これで射撃したらまみや丸が被弾するおそれがあります。」

マドカがイーリスの言葉に頷いて答える。

「あれでは船からの退避も無理ね。」

だが状況はマドカ達の予想を超えて更に悪化して行く。

『エスターク商会の艦が砲撃を開始!』

右舷見張り員が双眼鏡を見ながら報告してきたのだ。

「なっ・・・」

慌てて右舷見張り所に行き、双眼鏡を構えたイーリスはエスターク商会の艦が砲塔を向けシーサーペントに射撃するのを見て絶句する。

「正気なのかあの連中は!?艦長!!」

艦橋に戻りイーリスはマドカに進言する。

「直ちに射撃を止める様に伝えて下さい。」

イーリスの進言にマドカは頷くと艦内電話を取り上げ、無線室に指示を伝える。

しかし砲撃は止まず、砲弾の幾つかはまみや丸を掠め、ついに一発がマストに命中し吹き飛ばしてしまう。

「連絡は付かないの?」

マドカが無線室に問い掛ける。

『・・・エスターク商会はこちらの呼び掛けに応答しません艦長。』

無線室からの答えを聞いたマドカは険しい表情を浮かべる。

どうすべきか?マドカは考える、最悪ゆきしおを彼らとシーサーペントの間に入れてでも止めるべきかと悩んでいると。

『艦長、まほろばから通信です・・・『砲撃を行うので距離を取る様に。』との事です。』

通信室からマドカにまほろばからの連絡が伝えられる。

「本当にエリちゃんが砲撃をすると言ってきたの?」

「そんな牧瀬艦長・・・貴女まで!?」

マドカの言葉にイーリスは動揺の声を上げる。

「う、嘘・・・恵理香さんがそんな事を言うなんて・・・」

「それじゃあいつらと同じになっちゃう。」

「・・・信じられない・・・」

乗員達は困惑の声を上げる。

皆あの恵理香がそんな事を言って来るとは信じられなかったからだ。

「そう・・・なるほど分かったよエリちゃん・・・皆、まほろばは閃光弾を使ってーサーペントの注意を逸らす積もりだって。」

「そう言う事か牧瀬艦長。」

イーリスは恵理香の意図を理解し満足げに頷く。

様はシーサーペントの注意を引き付けて、まみや丸から引き離す、そうすれば救助がしやすくなる、そう恵理香が考えていると分かったからだ。

「うんエリちゃんらしいね、彼女はどんな時でも人命第一だったからね。」

そう言う所も養成学校時代と変わっていないとマドカは安堵の思いが湧き上がってくるのを感じる。

「進路変更、一旦離れます。」

「了解進路変更します、面舵30。」

操舵担当が進路変更を復唱して舵輪を操作、ゆきしおはまみや丸から十分離れた位置へ移動する。

『右舷見張りより艦長へ、まほろばからの発砲を確認。』

見張り担当からの報告にイーリスとマドカが右舷見張り所に飛び出しまみや丸を見る。

次の瞬間シーサーペントの手前で眩しい光がさく裂し、咄嗟にイーリスとマドカは視線を外す。

『シーサーペントがまみや丸から離れて行きます。』

閃光が収まった後見張り担当が双眼鏡でシーサーペントを追いながら報告する。

「流石です恵理香さん。」

「守護天使は伊達ではありませんね。」

乗員達は手を取り合って喜びを表しながら言う。

「ゆきしおはこれより救助活動に入ります、医務室に準備する様伝えて。」

離れて行くシーサーペントを確認するとマドカが救助活動に入る事を宣言、医務室の担当者に準備する様にと指示する。

「了解です艦長、これよりまみや丸の救助に入る、救助艇の用意を急げ!」

「こちら艦橋、負傷者多数の模様です、準備願います・・・はい手の空いている者を手伝わせます。」

マドカの指示を受け、イーリスと乗員達が行動を起こす。

「まほろばに監視と護衛を要請して、操舵担当出来るだけまみや丸の近くへ。」

「はい艦長接近します。」

操舵担当がマドカの指示通りゆきしおをまみや丸を接近させて行く。

「艦長、付近には離れて行くシーサーペント以外の反応はまほろばだけです。」

「まほろばの牧瀬艦長から要請の受諾がありました艦長。」

センサー担当とイーリスから報告が入る。

「まみや丸がボートを降ろし退避を開始・・・って艦長!エスターク商会の連中がシーサーペントを追って行きます!!」

状況を見ていた乗員が叫ぶ。

「一体何を考えているんだあの連中は!?」

艦橋の窓に駆け寄り、双眼鏡でエスターク商会の艦を見ながらイーリスが叫ぶ。

よりにもよって彼らは救助を求める者達をほっておいてシーサーペントを追っていったのだからイーリスが憤慨するのも当然だった。

確かにシーサーペントの撃滅は重要だが、そんな場合でも人命救助を優先させるのが自分達の義務だと思っているからだ。

「・・・ほっといて良いです、救助を優先します・・・私達は。」

特に海の仲間を見放す事は最低だという思いが人一倍強いマドカは強い怒りを覚えたが、艦長としての責務を思い出し冷静に振る舞う。

そして今頃まほろばの艦橋で恵理香も同じ思いで居るんだろうなと思った。

「シーサーペント離れて行きます、まみや丸は無事です艦長。」

見張り担当がほっとした表情で報告して来る。

「良かったです・・・本当に。」

恵理香も同様にほっとした表情で答える。

「流石だね恵理香。」

隣に立つロベリヤが称賛の声を送って来る。

「うん恵理香、やったね。」

同じく隣に立っていた優香もロベリヤ同様に声を掛ける。

「いえそれは乗員の皆のお陰で・・・」

「私達は指示に従っただけです、艦長の決断の結果です。」

ロベリヤと優香の称賛に恵理香が否定しようとするが、乗員の1人がそう言って微笑む。

「はい、あそこで冷静な判断を下された艦長のお陰だと思います。」

他の乗員もそう言って恵理香に称賛の表情と声を掛ける。

「・・・皆さんそれくらいでお願いします。」

乗員達の称賛に恵理香は顔を赤くして困惑してしまう。

それを見て微笑みを更に深くするロベリヤや優香そして乗員達、皆まみや丸が無事だった事もあり皆安堵していたのだが。

そんな艦橋の空気を吹き飛ばしてしまう状況が起こる。

「!?エスターク商会の艦がシーサーペンを追って行きます、何やってんのあの連中。」

複合ディスプレイを見ていたセンサー担当がイーリスの様に憤慨して叫ぶ。

皆が外部状況を映す大型共用ディスプレイを一斉に見る。

そこにはまみや丸に見向きもせずシーサーペンを追って離れて行くエスターク商会の艦が見えた。

「最低だねあの連中。」

ロベリヤの軽蔑を含んだ言葉に副長や乗員達も頷く。

皆エスターク商会の行為に怒りを覚えていたがそれは至極当然な話だった。

それは仕事上の責任感から来るだけでは無い、海の上ではお互いがそんな時には助け合うと言う暗黙のルールが有るからだ。

だからこそ海の上で生きていく事が出来ると皆は思っているのだ。

彼らの行為はそのルールを破り、海で生きる者達の間の信頼関係を傷つけるものだ、皆が怒りを覚えるの無理はない。

「恵理香・・・」

そんな中、優香は黙り込んでしまった恵理香を心配そうに見る。

恵理香が海の上で何より人命を第一にしている事をマドカ同様、優香は知っていたからだ。

その心中は怒りと深い悲しみに満ちているだろうと思い優香は心を痛めてしまう。

優しい故に様々な物を抱え込んでしまう恵理香に優香は何も出来ないと内心深い溜息を付いてしまう。

その優しさに自分は何度も救われて来たというのに。

「・・・後で美味しいコーヒーを入れるね恵理香。」

優香は小さくそう呟きながら恵理香を見るのだった。

「・・・まほろばはこのままゆきしおの護衛に回ります。」

何事も無かった様に指示する恵理香の声は何時もに増して冷静に聞こえたが、それが彼女の内心を表している事に皆気付いていた。

それは付き合いの長い乗員や優香は元より、短いロベリヤにさえ分かるくらいに。

ゆきしおの救助作業は1時間で終了した、船体は破棄せねばならなかったが、幸い死者は1人も出なかった。

「ゆきしおより通信、これより帰港する、との事です。」

副長が通信室からの報告を伝える、彼女も恵理香の心境を思ってか言葉使いは事務的だった。

演習は中止になった、まあ状況が状況なだけに仕方が無いだろう、結局エスターク商会の艦は戻って来る事は無かった。

「このままゆきしおの護衛をしつつ帰港します。」

多くの遭難者を載せている為、ゆきしおは満足に戦闘出来る状態では無かったので、恵理香はまほろばで護衛を行いながら帰港する様に指示を出す。

その指示後恵理香はまほろばが港に着くまで、言葉を発することは無かった。

救助は成功したものの、後味の悪い結果に皆の表情は帰港するまで晴れなかったのは言うまでも無い。

だが・・・この事が後に大きな問題となって自分達に降りかかって来るとは、その時点で恵理香とマドカは想像する事は出来なかった。

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