お約束の婚約破棄劇場
僕が、セヴェリーノ子爵家の問題が解決するまでお世話になるアルベルティ公爵家は、王家の血も流れている高貴な家で、ハッキリと言えば雲の上の人たちである。当然、王宮でも高い地位の役職に就き、職権乱用、唯我独尊のやりたい放題だと思い込んでいたが……。
「……へ? やらかした?」
ポカンと口を開けてアメデオを見ると、アメデオとソニアは笑いを嚙み殺して頷いた。
「そうです。アルベルティ公爵家といえば、王家に次ぐ権力、いえ、その王家を凌ぐ力を持っていたときもある名門中の名門です」
あの顔色の悪い不愛想なおじさんが、そんな覇気がある権力者には見えなかったけどね。
「現アルベルティ公爵、イーヴォ・アルベルディ様は当時の王太子の側近として注目されていた貴公子だったのですよ?」
そのときはソニアもアメデオも子どもだったのに、まるで見てきたことのように話す。
「……ただ、恋愛ごとで問題を起こしてしまったんです」
いまから遡ること二〇年前、突如異世界から「神子」が召喚された。
「異世界! せ、神子?」
それってば、もしかして?
「まだ、話の序盤ですよ? 最後まで大人しく聞いていてください」
アメデオに「めっ」とされて、首を竦める。
神子とは呼ばれているが、異世界から召喚されたのは光属性の魔力を持つ少年だった。その少年を守るように一緒に召喚された青年二人。この三人が当時の王太子と側近たちと大騒動を起こすことになる。
「……神子?」
それって絶対にあいつだよね? この世界に転生し前世の記憶を取り戻してから、初めて璃湖の情報が入った! でも、神子って?
「ああ、この国では昔、神子様が世界を救ったという伝説がありましてね。それから光属性の魔力を持つ人を神子と崇めているのです」
うん、さすがBLゲームの世界だ。常識が破綻している。
たぶん、この世界に召喚された従弟の璃湖と一緒に召喚された青年二人は兄の凱と兄の友人の土門玲央のことだと思う。その三人が若き日のアルベルティ公爵を巻き込んで起こした騒動ってなんだろう?
なんだか……とっても、イヤな予感がする。
今から二〇年前。
王都の大聖堂の奥深くにある祭壇に眩い光が溢れた。
枢機卿たち高位の神官が慌てて駆けつけたときには、一人の少年を守るように二人の青年が寄り添い立っており、祭壇室に満ちている光は、その少年から発せられていた。
凡そ数百年ぶりの光属性の魔力を持つ神子の降臨に王国全土が湧きたった。
神子と呼ばれた少年は、小柄で華奢な肢体に、ふわふわとしたピンクブロンドの髪に神秘的な黒曜石の瞳を持ち美しかった。その少年の左右に侍る青年も一人は長身でしなやかな体つきをしていて、濡れたような濃い黒髪に知性が光る鮮やかな青い瞳、精緻な彫刻のような美貌を持ち、もう一人も長身でやや逞しい体に長い手足、やや鈍い黒髪に燃えるような赤い瞳の雄々しい顔つきをした美丈夫だ。
こちらは神官の「鑑定」により、古の神子を守ったという「賢者」と「聖騎士」という称号持ちだった。
「けんじゃ? せいきし?」
やっぱりBLゲーム。痛い設定が続くなぁと、うんざりとした気持ちになる。しかも……ピンクブロンド? 青い瞳? 赤い瞳? 僕みたいに転生じゃなければ、あいつらは黒髪黒瞳のはずだけど?
あと、兄の凱と友人の玲央さんがめちゃくちゃ美形補正されている? いや、あっちの世界でも人気のあるイケメンだったけど……でも、アメデオの話を聞いていると「誰?」と疑問に思う。
その三人を保護したのは教会だったが、ここで王家や高位貴族から横やりが入った。曰く、伝説の神子が降臨されたのなら、我々とも交流を持つべきだと。この話に飛びついたのが神子リコである。
うん……カッコイイ人にチヤホヤしてほしかったんだろうね。
そこで、高位貴族の中でも同じ年ごろの王太子とその側近たちが、神子たちの接待役として抜擢された。ここがBLゲームであることを考えると、璃湖の奴が主人公で兄と玲央さん、王太子とその側近たちが攻略対象者ってとこかな?
「……最初は、慣れていない世界に突然召喚された神子たちに同情して、親切にしていると思っていたらしいです」
だけど、王太子たちは幼いときから側にいた婚約者たちを蔑ろにし、神子にのめり込んでいく。
「光属性の魔力は珍しいですし、王家としては王太子や他の王子と婚姻させて、王家にその力を取り込もうという打算もあったと思います」
ただし、それは国内でも有力な公爵家の令嬢との婚約を反故にしてまでも、結ぶつもりのない縁だった。
「やらかしたんだ……」
「ええ。王太子たちは、婚約者たちに虐められているという神子の訴えを調べもせずに信じ、婚約者たちに婚約破棄を叩きつけました。それも……国王陛下の許しも得ずに、パーティーの最中、大勢の貴族たちが見守る中で……」
「わあぁぁぁぁっ」
僕でもわかるよ、その最低最悪な状況が。
そのとき、神子の訴えを信じ、自分の婚約者たちを糾弾したのは、イーヴォ・アルベルディ公爵家嫡男、宰相の息子カルロ・ボルツィ侯爵子息、騎士団長の息子サビーノ・ダレッシオの三人。その場には兄と玲央さんもいただろう。
その場にいなかったのに、僕は咄嗟に両手で顔を覆い、苦悶の声を上げた。




