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剣閃の彼方  作者: 西 貴志朗


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8 第二試験①


 次の日の前ノ八過ぎ、第一試験を行った修練場の入り口には、既にザワザワと人だかりができていた。


 その入り口の掲示板に張り出された1枚の紙。それに第一試験通過者の名前が載っているようだ。

 そこに書かれた名前を1人ずつ目で追っていく受験者達の間から、歓声とも落胆ともつかない声が漏れ聞こえてくる。


 オーウェンが真っ先にその人だかりへ突っ込んでいった。


「ちょっと失礼~。オーウェン……オーウェン……っと。おっ!あったぞ、俺の名前!おい、お前らも見てみろよ!」


 オーウェンが嬉しそうに叫ぶ。それを聞いて俺は緊張しながらその紙にゆっくりと視線を這わせる。1行ずつ、着実に確かめるように。

 そうやって上から見ていくと、紙の中ほどに俺の知る名前が全て載っていた。

 

 ――オーウェン・アークライト

 ――ユニス・ダルタリア

 ――マーカス・スミス

 ――カイル・ブライド

 

 そして。

 ――リオ・クリストフ


「……そうか。通過……したのか」

 

 自分の名前を見つけた瞬間、安堵よりも先に感じたのは、妙な現実味の無さだった。自分の力で切り開いたはずのその結果が、まだどこか他人事のように感じられた。

 

 正直、通過できる確率は低いと思っていた。魔術(ソーサリー)秘術(テウルギー)もない俺は門前払いされて第二試験にすら行けない、と。実際セルバには一度そこを詰められた。

 だが、現実として第一試験は通過できた。もう一度自分の名前をしっかり確認すると、その実感が少しずつ込み上げてくる。


 ……よし。……よしッ!

 

 これまで愚直に剣だけを振るってきた努力が《魔討騎士団(アナイアレイト)》に認められた。そんな気がして、無意識のうちにグッと拳を握ってしまう。

 その瞬間をオーウェンにバッチリ見られていた。


「リオがそんなに感情出すなんて珍しいじゃん。流石にこれは嬉しかったか?」


「……うるせ」


「なーに照れてんだよ!」


 オーウェンが揶揄いながら俺と肩を組もうとしてくる。いつもの調子と違う所を見られてどこか気恥ずかしくなった俺は、バツが悪そうにそれを突っぱねた。


「まぁ俺にはわかってたけどな。入り口さえ突破しちまえば、後は俺とリオなら楽勝だぜ!」


「楽勝かはともかく……、第一試験よりはマシだな」


 それは確かにそうだった。第一試験を通過できたということは、少なくとも魔術(ソーサリー)秘術(テウルギー)を持たないことを理由に第二試験を落とされはしないということだ。

 それは俺にとっては精神的にとても大きい。あとは課された課題をクリアするだけでいいのだから。

 

 しかしあの第一試験……、恐らく石板を切っただけであれば、あの時の会話の流れからして俺は落とされていた可能性が高い。

 だとすれば俺が通過できたのは、間違いなくリースベルツが途中で介入してきて模擬戦を実施してくれたおかげだ。

 急に戦うなどと言ってきた時にはどうなるかと思ったが……、あの人には感謝しないとだな。

 

「ふぅー……。まっ、そりゃこの俺なら通ってるよな。当然だな。いやぁ当たり前すぎてわざわざ見るまでもなかったわ」


「ん、マーカス冷や汗かいてる。声もどこか震え気味」


「それは言わない約束だよ、ユニスちゃん」


「おっ2人とも通過してるな!良かった良かった」


 小芝居を演じるマーカスとユニスに、オーウェンが笑いかける。その様子を横目に見ながら、俺は再度、通過者が書かれた紙に目を通した。

 よく見ると、通過者の名前の羅列の下に一文が添えられている。


 ――第二試験を前ノ九より開始。集合場所はここ修練場。実戦形式につき、各自装備を整えること。


 実戦形式。その四文字が目に入った時、それまでとは違う緊張が俺の中に呼び起こされた。セルバの言っていた命の保証のない試験とは、これのことだろう。


「実戦形式……、やっぱりそうなるよな」


「上等だぜ!どんな試験だろうと来てみやがれ!」


 マーカスが納得したように呟き、オーウェンが自分を奮い立たせるように血気盛んに吼える。

 

 そうだ、まだ試験は終わっていない。第一試験よりマシといっても、それは俺の精神的な話。単純な難易度としては第二試験の方が当然高いだろう。

 

 ――ここで浮き足立ってはいけない。何が来ようと確実に、冷静に対処するだけだ。

 

 第一試験を通過して少し浮かれ気味になっていた自分を戒めて、俺は再び気を引き締め直した。




 第二試験の開始時刻、前ノ九の刻がやってきた。

 第一試験を通過したであろう受験者達は、全員この場に集まっているようだ。人数は……、第一試験を受けた人数の半数より少し多いくらいだろうか。


 そこへ試験を担当しているセルバと数名の試験官達が、厳かな雰囲気を漂わせながらやってきた。

 

「時間だ。人数は……揃っているな。ではこれより第二試験の説明を始める」


 その一言で、修練場の空気が引き締まる。セルバは試験官達が広げた地図を指しながら続けた。


「第二試験は、王都の北に位置するハイレン山で行う。受験者はそれぞれ単独で入山し、討伐対象の魔物――ブルートオーガを3体討伐せよ。これを以て試験完了とする。制限時間は半日。討伐の証として、対象の角を3つ持ち帰れ」


 実地で単独での魔物討伐試験……。いくつか予想していた試験内容の1つだ。大丈夫、想定内だ。

 問題があるとすれば、討伐対象のブルートオーガがどんな魔物かだが……。


「ブルートオーガの特徴についても説明しておく。奴らは人間の倍近い体躯の人型の魔物だ。硬い黄緑色の皮膚に覆われた強靭な肉体で、木製の武器を持っていることもある。元々気性は荒いが、現在は繁殖期に入っていて普段よりも更に凶暴になっている。気をつけることだ」


「……1つ質問よろしいでしょうか?」


 受験者の1人がおずおずと手を挙げる。


「なんだ」


「そのブルートオーガというのはどの程度の脅威なのでしょうか?我々の中にはまだ実際に対峙した経験がない者もいるかと思うのですが」


「それなりの脅威だ。少なくとも駆け出し冒険者では間違いなく対処できない。だが、貴様等が試験を受けるに足る実力を持つならば、対処は可能だろう。そのレベルだ。冒険者ギルドの規定に照らし合わせるならランクはそうだな……通常ならD、繁殖期の今はC程度といったところか」

 

 ランクC……。俺やオーウェンがタルポ村で狩ってきた魔物達よりワンランクは上だ。だが、試験の相手になっている以上やれない相手ではないはずだ。

 いや、やってやる。どんな相手だろうが、必ず。

 

「半日後まで戻ってこない者はその生死を問わず死亡したものとみなす。詳しいことは、現地へ同行する試験官ウェイドとナッシュに聞くように。そして最後に、山中での予期せぬ事態については、各々の判断で対処せよ。それも含めて、貴様等の価値を見るものとする」

 

 予期せぬ事態。


 その言葉の意味を深く考える間もなく、セルバは「以上だ。各自こちらで用意したウィンドホースに跨って出発せよ」と告げて踵を返した。




◇◇◇




 王都レストクレスが誇る精鋭部隊《魔討騎士団(アナイアレイト)》が保有する修練場。

 第二試験の説明を終えたセルバは、先と変わらずそこにいた。受験者達を乗せて走り去っていくウィンドホースの蹄音を聞きながら、目を瞑り険しい表情で腕を組んでいる。

 

 受験者最後の1人を乗せたウィンドホースがその場からハイレン山に向けて駆けていくと、小気味よい蹄音がどんどん小さくなっていき、やがてなにも聞こえなくなった。

 

「セルバ副隊長」


「あぁ」


「試験参加者35名、および試験官ウェイド、ナッシュを含め計37名、全員出発完了しました」


「わかった。お前達はしばらく待機だ」


「はっ」


 試験官達はそう短く答えると、各々の持ち場へと散っていく。残ったのはセルバと、1人の試験官。

 風が吹き抜け、修練場に敷き詰められた石畳の上を、乾いた土埃が薄く舞う。先程まで幾つもの蹄音で満ちていたその場所は、今や不気味なほどに静かだった。

 セルバは組んでいた腕をほどくと、ハイレン山の方角へと目をやる。険しい表情のまま、しばらく無言でその稜線を見つめ続けている。

 そこへ、残った試験官が口を開く。


「副隊長、今年はどれだけ残るでしょうか?」


「どうだろうな。だが、今年の受験者の出来は例年より悪くはない。特にオーウェン・アークライト、カイル・ブライド、ユニス・ダルタリア。あの辺りは見込みがある」


「……最終的に副隊長自身が通過を決めたリオ・クリストフも……でしょう?」


 試験官のその一言にセルバは眉間の皺をより一層深くした。


「…………ふん。リースベルツの顔を立ててやっただけのことだ」


「……そういうことにしておきましょう」


 フッと薄く笑みを浮かべながら言う試験官。それを睨みながらセルバは続ける。


「それにいくら見込みがあるとは言っても、実際に試験が終わるまでどうなるかはわからん。ブルートオーガに遅れを取らなくとも、予期せぬ事態に命を落とす可能性は十分にある」


 予期せぬ事態。

 そう、受験者達にはあえて知らせていないが、ハイレン山にはブルートオーガとは別の脅威がある。それは――。


「……ハイレン山の主、ノイズグリフォンですね」


 ノイズグリフォン。甲高くけたたましい鳴き声を響かせながら空を舞う怪鳥の一種だ。

 人の身長以上の体躯を宙に浮かせるほどの巨大な翼に加え、鋭い爪を備えた上半身と、強靭な足と尾を備えた下半身を併せ持つ。気性も非常に獰猛で、ブルートオーガに勝るとも劣らない。

 

 ノイズグリフォンも冒険者ギルド規定でのランクはCに分類されている。だが、空を飛べることと知能の高さからブルートオーガよりも危険度は高い。どちらかといえばランクBに近い魔物だ。


「繁殖期のブルートオーガとノイズグリフォンの縄張り争いは普段よりも熾烈になる。運が悪ければ、ブルートオーガを狙った矢先にノイズグリフォンと戦闘になることも避けられないだろう」


「そうですね。それをどう切り抜けるかが今回の試験突破の鍵になります」



 

 二人のそんなやり取りを、既にこの場を発ったリオ達が知る由もなく。

 

 ――やがて、緑深いハイレン山がその輪郭を露わにし始める。

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剣撃の描写、各キャラクターの生き生きとしたセリフ回し、そしてなにより才能の欠けた主人公リオの躍進に、とてもワクワクドキドキしています! 個人的には、ユニスのキャラクター性が大好きです!これからの展開…
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