第10回 惑星の性欲、三つ目の鼓動
「――三つ目の鼓動。それが何を意味するか、賢者のお前なら理解できるだろう?」
漆黒のドレスを纏った少女――自らを『惑星の性欲』と称する存在は、嘲笑うように告げた。
アルスの手の中で脈動する結晶。
二つの清らかな鼓動の背後で、ドロドロとした黒い輝きを放つ、三つ目の拍動。
ミリアは、その拍動から溢れ出す禍々しい魔力を解析し、顔を蒼白にさせた。
「……ありえないわ。これは、あの方たちの……旧勇者と旧戦士の『残留思念』!?」
「その通り。お前たちが作り出した『完璧な愛の結晶』。だが、愛が深ければ深いほど、そこには裏返しの『執着』と『憎悪』が混ざり込む」
少女が指をパチンと鳴らす。
すると、地面に廃人のように転がっていた旧勇者と旧戦士の身体が、不自然な角度で起き上がった。
「が、あ……あ、あああああああぁぁぁぁっ!!」
父親たちの口から、ドス黒い魔力が噴き出す。
彼らの肉体は急速に膨張し、皮膚を引き裂いて、禍々しい漆黒の鎧を纏った『異形の英雄』へと変貌していく。
「あんたたちが捨てた『所有欲』を、この星の性欲が苗床にして育ててやった。……さあ、奪い返せ。お前たちの『モノ』を」
少女の命令と共に、黒い影が弾け飛んだ。
「――っ! カイル、母さんを守れッ!!」
アルスが即座に抜剣し、旧勇者の放つ漆黒の一撃を正面から受け止めた。
ガギィィィィィィィィィィンッ!!
衝撃波が屋敷の残骸を吹き飛ばす。
だが、今のアルスに届くはずの力は、その数倍の質量を持って彼を押し潰そうとしていた。
「くっ……何だ、この重さは……っ!」
「アルス君! 気をつけて! それは単なる力じゃない。……『妻を独占したい』という、理性を失った男の、泥沼のような呪いよ!」
ミリアが叫び、アルスの背中に手を当てる。
一往復目。
旧世代の執着と、新世代の純愛。
二つの相反する感情が、物理的な破壊力となって激突する。
「……逃がさない。エルセ……ミリア……。お前たちは、俺たちの『モノ』だ。誰にも、渡さない……ッ!!」
異形と化した旧勇者の声は、もはや人のそれではない。
カイルもまた、襲いかかる旧戦士の剛腕を、エルセを抱きかかえたまま回避した。
「……しつこいですよ、おじさん。……エルセさんは、もうあんたの所有物じゃない。……俺と、愛を分かち合う『一人の女』なんだ!」
「黙れ、小僧ッ!! 親の女に手を出す不届き者が、愛を語るなぁぁっ!!」
旧戦士の拳が地面を砕く。
二往復目。
親子の縁を完全に断ち切った、殺意の応酬。
だが、父親たちの攻撃には、少女が与えた『惑星の性欲』の加護が宿っていた。
一撃ごとに、アルスたちの精神に「親の女を寝取った」という罪悪感を直接流し込み、魔力を内側から腐食させようとする。
「……う、ぐぅっ……。魔力回路が……っ、重い……っ!!」
アルスが膝をつきそうになる。
その時。
背後から、柔らかく、そして驚くほど熱い肌の感触がアルスを包み込んだ。
「……アルス君。負けないで」
ミリアが、アルスの首筋に唇を寄せた。
彼女の指が、アルスの腹筋を、そして下腹部を、迷いなく撫で上げる。
「あ……ミリア、さん……?」
「解析は終わったわ。……この呪いを打ち破るには、もっと強い『肯定』が必要よ。……私たちが、あの方たちではなく、貴方を選んだという……揺るぎない『悦楽の記憶』が」
ミリアの瞳は、これまでにないほどに潤み、蕩けていた。
彼女はアルスの服を乱暴に剥ぎ取ると、自身の熟れきった肉体を、これでもかと擦り付けた。
ヌチュ、ジュルリッ……!!
密着した肌から、粘りつくような水音が響く。
エルセもまた、カイルの胸に顔を埋め、彼の剛直を自身の太ももで挟み込んだ。
「……カイル君。……私も、貴方と一つになりたい。……あの方たちに見せつけてあげましょう。……私たちが、どれほど卑しく、どれほど深く、愛し合っているかを……♥」
三往復目。
戦場は、再び四人の『結合』という名の、最も神聖で淫らな儀式会場へと変わる。
エルセとミリアから、むせ返るような「発情したメスの匂い」が立ち上る。
それは父親たちの呪いを浄化し、少年たちの本能を爆発させる、最強のガソリンとなった。
「――っ、あああああぁぁぁっ!! 母さん、ミリアさんッ!! 全部、俺たちに預けてくれ!!」
アルスとカイル。
二人の少年は、同時に、己の母親――いや、親友の母親である『恋人』たちの深淵へと、己の全存在を突き立てた。
ズボォォォォォォンッ!!
「「んぎいぃぃぃぃぃぃっ!?!?!?♥ ♥」」
エルセとミリア。
二人の伝説的英雄が、同時に白目を剥き、絶叫を上げた。
その瞬間、四人を中心に、黄金の光のドームが展開された。
ドクン、ドクン、ドクン……ッ!!
結合部から溢れ出す愛液と、ほとばしる情熱。
それがアルスとカイルの剣に、拳に、無限の魔力を供給する。
「これが……俺たちの愛だッ!! 親父、受け取れぇぇっ!!」
アルスの一閃が、旧勇者の漆黒の鎧を一刀両断にした。
カイルの拳が、旧戦士の胸板を粉砕し、彼らの中に澱んでいた『執着』を強制的に排出させる。
「が、は……っ。……あ、あああぁぁぁっ……♥」
父親たちは、息子たちの「絶頂の余波」を直接脳に流し込まれ、あまりの快楽に理性が溶けて崩れ落ちた。
それは勝利であり、同時に、親としての完全な「死」であった。
光のドームの中で、四人は繋がったまま、激しく腰を振り続ける。
エルセとミリアの秘所からは、過去最大量の潮が、噴水のように吹き出していた。
「ビシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!♥」
絶頂の極致。
だが、その光景を眺めていた『惑星の性欲』の少女は、口角を吊り上げた。
「……素晴らしい。人間がここまで『愛』を純粋なエネルギーに昇華させるとはね。……だが、忘れるな」
少女の姿が、陽炎のように揺らめく。
「……三つ目の鼓動。それは消えたわけじゃない。……むしろ、お前たちが父親たちを『快楽で殺した』ことで、より純粋な『憎悪の核』へと進化したよ」
アルスの手の中にある結晶が、パキリと音を立てた。
黒い輝きが結晶の内部を侵食し、二つの心臓を飲み込もうとする。
「……え? 何よ、これ……魔力回路が、逆流……っ!?」
ミリアが叫んだ、その瞬間。
王都の遥か南。
かつて魔王が居城としていた、今は廃墟となっているはずの『魔王城』から。
世界を真っ二つに引き裂くような、漆黒の光の柱が立ち上がった。
「――おめでとう。三つ目の鼓動が、今、『真の王』を呼び覚ましたよ」
少女の言葉と共に。
アルスたちが愛し合ったその場所から、
絶頂の余韻を切り裂いて、
死んだはずの『魔王』の、低く、おぞましい笑い声が響き渡った。
「カイル……っ、母さんを連れて離れろッ!!」
アルスが叫ぶが、遅すぎた。
足元の地面が口を開け、
そこから伸びてきた無数の漆黒の触手が、
絶頂で力が入らないエルセとミリアの足を、一瞬で絡め取った。
「あああぁっ!? アルス君、助けてぇっ!!」
「カイル君っ!! 私たちが、引きずり込まれる……っ!!」
母親たちが、闇の中へと飲み込まれていく。
アルスとカイルが必死に手を伸ばしたが、
その指先が触れる直前。
地面は硬く閉ざされ、
屋敷の跡地には、立ち尽くす二人の少年だけが残された。
(第11回へ続く)




