真
おう、お帰り。ところであの盗っ人共はどうするんだい。後はあのまま転がしときゃぁいんじゃねえか、人様が勝手に都合つけるだろうよ。
「こっから先は人様の仕事さ。役人に突き出すにしろ、仇をうつにしろ、好きにすればいいさ。」
鍋の底をさらっても、もう何も残っちゃいない。晴十郎は仕方なく酒を呑んで、草鞋の小僧を膝に座らせる。
「オマエ、よく仕事したな。褒美やるぜ。」
晴十郎は小僧の眉間を指で小突く。
広く見聞を広げ真と偽りを知る。そうだな、お前の名前は、
「真だな。何でも包んじまうようにでっかくなりな。」
「おや珍しいね。晴十郎が名前つけるなんてねぇ。どれこっちにおいで。アタシも何か褒美をやろう。」
ご隠居は小僧を引き寄せ、囲炉裏の金串に息をフッとかけた。たちどころにその金串は簪になって、小僧の頭の髪をクルクルと束ねその簪を挿した。
そしたら小僧はグズり出した。なんだいどうしたんだよ、嬉しくないのかいと尋ねれば、これでお別れかいと小僧は喉をヒックヒック鳴らす。小僧なんだから仕方ねえが、それにしてもすぐに泣く。
晴十郎が、そんなこたぁねえよ、オイラの弟にしてやるからオイラの後をくっついて歩きなと、小僧の頭を撫で回した。
「オイラの弟ってことは勝軍お前の弟でもあるんだからよ、なんかしてやれ。」
「なんでぇ晴と俺が兄弟ってんなら、俺が兄貴でいいな。」
晴十郎は勝軍にゆっくり片目をつぶって、何も言わずにニヤリと笑う。
勝軍は小僧の頭に左手をおき右手を口元に構え、つまり坊さんがよく片手で拝んでるあの姿だな、オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカと唱えた。
そしたら、なんか空気の粒が見えるような感じで真の周りが光り出して、シュンと真に吸い込まれていった。
「これで少しは丈夫になっただろうよ。今度な今日みたいな仕事させれたらな、痛くねえから体当たりでやっつけちまいな。」
うん、わかったと小僧は勝軍の足にしがみつく。泣いたり笑ったり忙しいのもまた、小僧だからなのかも知れない。武神だからなのか、子供に喧嘩の仕方教えてるが、ちいせぇ小僧に無理言うんじゃねぇと晴十郎は思った。
「おい、真。」
真はヒッと小さい悲鳴をあげて呼ばれた方を恐る恐る見る。あの眼光鋭いおっかねえホムスビ様に呼ばれたんだから無理もない。
おい、こっちに来い頭撫でてやろう、怒られるんじゃねえとわかったら直ぐに駆け寄る。げんきんなものだ。
真を引き寄せ頭を撫でると不思議なことに真の背が少し伸びた。手と足がスッとこう長くなり、顔はホッソリと目は切れ長がで唇は少し薄い。
「おや、これは綺麗な子になるね。楽しみだね。」
え、なにを言ってるんだか、小僧に綺麗にヘチマもないだろうによ、そう言うご隠居を晴十郎はけったいな事を言う狸だと思った。
ホムスビ様が空から何か引っ張り出しながら、朱に金糸は少し派手だなとブツブツつぶやき、そして代わりに引っ張り出したのが、薄紅色かもしくは桜色の打掛に、金糸で焔に包まれた神馬の刺繍をあしらった見事な仕立て。
「これはな、何時でもお前の身体に合うからな。」
真にバサッとその打掛を掛けながらホムスビ様は言う。うん、よく似合うと言ってこれからは俺の事を爺と呼べと頭を撫でる。
「おいっ、ちょっと待ってくれ、その小僧は娘だったのかよ。」
なんだい、気付かなかったのかい、晴十郎は男みたいな名付けするし、勝軍は男みたいに頑丈にしちまうし、アタシが簪くれたんだから気づきなさいよ。オイラも自分が娘だなんて知らなかったと真はケラケラと笑った。
一同がゆっくりとダイナリ様にしせんを向ける。
「したら、ダイナリの兄貴も何かくれねえと。まさか、タダで仕事さしたわけじゃぁござんせんよね。」
「分かった分かったよ。おい真おめえついてるぜ、この俺様が褒美くれるなんざ今までとんとなかった話さ。」
これで食いもんには困らねえぜと言いつつ、真の口元の下の方をツンと中指で突くと、そこに黒子が出来た。なにやら色気も増してしまった。
勝軍が、なんだ男にも困らねえんじゃねえのと言えば、お前は下品だね、そんな事を言うもんじゃないよと、ご隠居が嗜める。
「愛宕と稲荷の加護を貰って武神の妹となりゃ、オイラの妹は天宇受売か木花咲耶か。」
「オイラ天宇受売になるの、それとも木花咲耶かい。」
「うん、そうだといいな。頑張ればなれっかもしれないさね。」
俺の妹なら、吉祥天か弁財天ってところだろうよ、と勝軍が言えば、ダイナリ様は瑞穂の娘だと言う。
瑞穂という言葉は元々は水穂と記し、瑞々しい稲穂の事を言う。それが転じていつの間にか瑞穂になったが、瑞々しい稲穂の実りで埋め尽くされた日の本の事で、とても古くとても最高の日の本を指す言葉だ。
ダイナリ様の瑞穂の娘の意味には、そのまま言えば、つややかで若々しい娘と言うことだけれども、わざわざ瑞穂の言葉を当てたのだから、一番良い褒め言葉なんじゃないかなと思う。
「なれなくてもな、この爺が愛宕の神女にしてやる。」
「爺ちゃんありがとう。でもオイラ、がんばって木花咲耶になる。」
真は晴十郎の足にしがみついて、それに顔を擦り付ける。そして見上げてニッカリと笑う。
ご隠居が、木花咲耶になるのならば、もう少し娘の仕草を覚えなきゃいけないねと言い、ちげえねぇと真の頭を晴十郎は撫でた。




